第48回 顧客に行動させる小売業
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増田紀彦の「ビジネスチャンス 見~つけた」
第48回 顧客に行動させる小売業
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東京都目黒区にある私の自宅の最寄り駅は、東急東横線学芸大学駅。
目黒区は東京23区中、もっとも女性人口比率が高いエリアであり、
学芸大学駅には急行列車が停車することもあって、
駅を挟んで東西に延びる商店街には、華やかな店舗が多く並ぶ。
だが、その賃料は決して安くない。
駅周辺店舗の今年1月の平均坪単価は2万9000円。
ちなみに、学芸大学駅から2km程度の場所にある三軒茶屋の場合、
駅周辺の平均坪単価は3万6000円とさらに高い。
確かに学芸大学は三軒茶屋より安いが、それでも30坪の店舗を借りたら、
月々の家賃は87万円にもなる。
業種にもよるだろうが、これだけの賃料を収めて、
利益を残せる店舗がどれだけあるだろう?
結果、学芸大学にしろ、三軒茶屋にしろ、
商店街のメインストリートには、フランチャイズチェーン店が陣取り、
駅から離れた場所や脇道沿いに、10坪以下の個人商店が並ぶ。
こういう住み分けは、おそらくほかの人気エリアも同様だろう。
また、商店街の顔ぶれを見れば、過半数が飲食店で、
残りはドラッグストア、調剤薬局、歯科、マッサージ、整体、
ヘアサロン、スポーツジム、パチンコ店、不動産店、リペア……。
そしてスーパーとコンビニと100均、そんな具合だ。
つまり、小売業の店舗開業を考える人にとって、
高額の賃料を支払わなければならない人気商店街という立地は、
資本力十分の企業を除けば、もはや魅力的とは言えなくなっている。
実際、小売業の主流はオンラインに移行しているが、
コロナ禍を経て、家電やアパレル、日用雑貨や食料品などの業種でも、
オンライン利用者が一挙に増加し、その流れは定着しつつある。
消費者の志向(嗜好)と、実店舗のコスパを考え合わせれば、
リアル店舗よりオンラインショップを選択する経営者が増えるのは、当然だ。
だが、この「当然」が曲者である。
多くの人が「当然のことと」オンラインにこぞって進出すれば、
競争はますます激化する。
しかもオンラインは、いとも簡単に価格を比較される特徴がある。
薄利多売を基本とする戦略を確立できなければ、
厳しい競争を勝ち抜くことは困難なのがオンラインマーケットだ。
こういう土俵で、新規出店者が先輩ショップに伍すことができるのか。
厳しい道のりだろう。
結局、人気商店街の賃料は高い。
だが、オンラインは競争が厳しい……。
では、どうすればいい?
もう一度、前半に記した商店街に多い業種を思い起こしてほしい。
スーパーやコンビニ、ドラッグストアなどの大型店以外は、
店内で、顧客が「買う」以外の何らかの行動を取る業種である。
「飲む・食べる」「集まる・話す」「診療や施術を受ける」「相談する」、
「癒される」「美しくなる」「鍛える」「遊ぶ」「探す」「直す」など。
整理すると、消費者は商品を購入するだけならオンラインを活用し、
何らかの行動を要するのなら、商店街の店舗に出向く。
であれば、小売業店舗も商品を展示・販売するだけでなく、
顧客に、「何らかの行動を取ることの合理的な価値」を提供すれば、
利用者の多い人気商店街の実店舗を主戦場とする道も開けてくる。
例えば、「教室併営スタイル」。
フラワーショップなら、フラワーアレンジ教室。
カフェなら、珈琲豆の焙煎教室やコーヒー抽出教室。
靴屋なら、靴の磨き方教室や美しい紐の通し方教室。
魚屋なら、魚介のおろし方教室や目利き教室。
八百屋も目利き教室はできるし、食材の保存法教室もできる。
電気屋なら、家電の設置法教室や節電教室もいい。
ブティックなら、コーディネート教室や服の手入れ・収納法教室。
家具屋なら、インテリア教室や家具の管理・補修技術教室。
挙げればいくらでもある。
つまり、どんな業種の店舗でも、
その道のプロの技術や知見を消費者に伝授できるのである。
逆に言えば、それらを教えられないレベルの店舗なら、
そもそも、その店は二流店ということになる。
もちろん教室だけではない。私の行き付けの店の話をする。
福島県の会津若松市には、店舗の裏で坦々麺屋を営む精肉店がある。
秋田県の横手市には、居酒屋を営む鮮魚店がある。
茨城県の水戸市には、フルーツパーラーを営む果物店がある。
そして私の地元・学芸大学駅の真ん前には、レストランを営む八百屋がある。
だが、教室や飲食店の併営は、もはや常識の範囲だろう。
もちろん、これらにチャレンジしてもいいが、
前述した「遊ぶ」「直す」「癒す」などなどの価値を提供する併営業態も、
十分に開発可能なはずだ。
ぜひ、アイデアを練ってみて欲しい。
各地の商店街の行く末が案じられている。
店舗所有者や組合は、ただ、家賃を取れればいいなどと考えず、
「顧客に行動させる店舗」の誘致・支援をお願いしたい。
衰退を避けることこそが、店舗の不動産価値にも直結するのだから。
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「つながり力で起業・新規事業!」
メールマガジンVol.181
(2023.2.13配信)より抜粋して転載しました。
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増田紀彦の「ビジネスチャンス 見~つけた」は、
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