第47回 品定め同行
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増田紀彦の「ビジネスチャンス 見~つけた」
第47回 品定め同行
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ネットショップの黎明期の話だから、
もう20年ほど前になるかもしれないが、
その頃は、意欲的なネットショップオーナーが集まって、
情報交換会を兼ねた食事会が頻繁に開かれていた。
私は、ネットの専門家ではないが、
新規事業を支援する立場で……なんてカッコいい話ではなく、
単に、その人たちと飲み仲間だったので、
声をかけられるたび、喜び勇んで参加したものだ。
会場はもっぱら東京だったが、
北海道の水産会社や京都の家具屋さんなど、
全国の先進的な経営感覚持つ人々が集まっていて、
いつも刺激的だったことを覚えている。
なかでも、印象深かったのが、
兵庫県から駆けつけてきた建築士さんの話だ。
この人、もちろんモノを売っているわけではない。
では、何を?
マンションの「内覧同行サービス」という事業を考案し、
ネットを使ってその存在を広めていた。
今でこそ、あらゆるサービス業がネットで商いを営む時代だが、
当時、サービス業のECサイトは斬新であり、
いわんや、マンション購入希望者の側に立つサービスなど、
まったく存在していなかった時代である。
その事業アイデアと販路の求め方に、心から感服したものである。
彼はもともとデバロッパーに勤務していたが、
退職後、専門知識を逆の立場で生かす道を選んだ。
まったくもって納得のいくサービスだが、なぜ思い付いたのか?
「いろいろ問題が起きていますからね」と。
彼の答えはそれだけだったが、十分だ。
バブル期の頃に売り出されたマンション物件の中には、
「粗悪品」や「安普請」と批判される建物がゾロゾロあった。
「生涯で一番高い買い物」と言われながら、
品質の良し悪しなど、素人には見当もつかないわけで、
むしろ、こういうサービスがなかったほうが、おかしいとさえ思えた。
いつか、誰かが、始めるべくして始める事業だった。
実際、彼に出会ってそう時間が経たないうちに、
世間を揺るがす構造計算書偽造事件、いわゆる姉歯事件が発覚した。
まさに炯眼!
飲み会以降、この建築士さんとはお会いしていないが、
多忙を極めたことは想像に難くない。
しかし、こんな冴えている男でも、悩みはあった。
「自信はあったけど、こんなことをしたら、
業界から総スカンを喰らうんじゃないか」と。
なるほど。
だが、よく考えてみると、彼を嫌うとすれば、
それは嫌う側にやましいことがあるからだ。
だから、彼の同行を拒否した時点で、
その物件は「アウト」という判定が下せる。
彼の同行を嫌がること自体が、顧客のメリットに直結する。
とはいえ、長年売る側にいた彼の気持ちもわからないではない。
手抜き工事や偽装といった犯罪レベルの話ではないとしても、
「こんな建材や設備で、この値段はいかがなものか」と、
彼なら感じることもあるだろう。
あるいは、物件の説明にウソはないとしても、
言うべきことをすべて言っていないことも、彼ならわかる。
いわゆる「暗黙のルール」にちょっかいを出す男。
そう言われる懸念はある。
ところが、それらは取り越し苦労だった。
ディベロッパーもしたたかなもので、
彼の仕事が徐々に知られるようになっていくと、
「○○先生、お墨付きの物件です!」と、
むしろ、彼を利用する方法を思い付いたのだ。
高額な広告宣伝費を投下せずとも、
この建築士さんの名前を出せば、信頼性の高い発信ができるのだから、
物件に自信のあるディベロッパーにとっては、渡りに舟だったろう。
そう考えると、高額商品は何もマンションに限らないわけで、
もっといろいろな分野で、
「品定め同行」や「品定め同席」が広がってもいい。
商品価格やスペックの違いなどを比較するネットサービスは、
すでにあらゆる分野に存在しているが、
知りうるものならば、商品の相対評価ではなく、
「この商品自体の本当の価値」について知りたい人は多いだろう。
各業界のOB・OGが、出身業界の下請け事業で身を立てるのではなく、
逆転の発想で、消費者側に立つ発想がさらに広がれば、
消費者にとってのブラックボックスは解消されるし、
その人も業界から権威として扱われるのだから、いいことづくめだ。
もう、「業界の顔色」を伺うような時代じゃない。
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「つながり力で起業・新規事業!」
メールマガジンVol.178
(2022.12.12配信)より抜粋して転載しました。
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