スタートアップ庁設置の早い実現を!
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「増田紀彦の視点 どうする?日本経済」
第105回 スタートアップ庁設置の早い実現を!
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【解決の糸口が見えない、旧統一教会と政治家のかかわり】
政治家と旧統一教会とのかかわり問題が、なかなかクリアにならない。
政治家は、この件を出来る限り曖昧なままにして時間を稼ぎ、
別のニュースに世間の関心が移るのを待とうという腹かもしれない。
個人的な印象だが、旧統一教会の教義に心底賛同している議員は、
ほとんどいないのではないだろうか。
いわゆる筋金入りではなく、あくまで「票集め目的」で、
一定の関係を結んでいる人たちが大半に感じる。
あらためて、議員は選挙に勝つ(当選する)ためなら何でもするし、
投票してくれるなら、その人の思想も信条もへったくれも関係ない、
という「徹底ぶり」を、今回の件で再認識させられた思いだ。
岸田首相は旧統一教会とのかかわりに関して議員たちに注意喚起をしたが、
いざ、第二次岸田内閣の顔ぶれを見てみると、
多くの議員が旧統一教会との関係を持つ人だったという顛末。
もっともこの人事は、意図的に「関係者」を入閣させたものではなく、
どの派閥から誰を選ぼうと、結局、関係者になってしまうという、
どうにもこうにもならない状況の反映と見るべきだろう。
【留任が決まった山際経済再生担当相】
「関係議員」の中には、「同団体との関係はない」と、
平気で白(しら)を切る豪の者もいるが、
多くの議員は、世間の目と「お世話になっている団体」との間で、
何をどう言えばいいのか悶々としている様子だ。
その代表格が、内閣改造後に留任が決まった、
山際大志郎・経済再生担当相だろう。
再任が決まる前までは、関係があったともなかったとも黙して語らず、
マスコミから「完黙大臣」などと揶揄されていたが、
再任が決まった途端、関係があることを語り始めた。
おそらく、第二次岸田内閣の閣僚中、7人も関係者がいる状況を見て、
「だったら自分もOKだな」と考えたのかもしれない。
【縦割り主義の中に押し込められてきた起業支援】
さて、今回、私が話題にしたいのは、
その山際経済再生担当相が兼任のかたちで就任した、
「スタートアップ担当相」と、「スタートアップ庁」についてだ。
スタートアップ担当相とは、その名が示すとおり、
新たな有力企業の創出と育成を推進するという国策の責任者である。
従来、ベンチャー企業創出政策は、
経済産業省の経済産業政策局・新規事業創造推進室が担当し、
小規模な起業は経済産業省の外局である中小企業庁が担当してきた。
余談だが、私が代表を務めるNICeも、
経産省の新規事業創造推進室の発案事業を出発点としており、
当時も対外的には「起業支援ネットワークNICe」を名乗っていたが、
正式には「起業支援ネットワーク環境整備事業」と呼ぶ施策だった。
というわけで、「起業といえば経済産業省」だったのだが、
本気で新興企業と起業家を輩出しようと考えれば、
あらゆる省庁や官民団体の横断的連携が不可欠なことは論を俟たない。
農林水産業関連で起業するなら農林水産省が、
医療や健康関連で起業する場合や、
就職に代わる方法として起業する場合は厚生労働省が、
通信関連業で起業するなら総務省が、
グリーン関連業で起業するなら環境省が、
運輸業や建設業で起業するなら国土交通省が関与することはもちろん、
起業教育や科学技術の活用という点では、文部科学省がかかわってくる。
当然、会社法や商業登記法、関連業法の整備においては法務省がかかわり、
金融支援や優遇税制の面では財務省がかかわってくる。
また、女性起業やNPO起業などでは内閣府がかかわる。
要するに、スタートアップ支援には、防衛省以外すべての省庁が関係する。
これまで、これらの省庁がベツベツバラバラに「支援」をしてきた。
もちろん、横断協議は行われていたが、やはり縦割りの壁は厚く、
省庁間での「つながり力」が発揮されたとは言い難かった。
そこで浮上してきたのが「スタートアップ庁」の設置である。
【初代スタートアップ担当相の発言は間違っている】
スタートアップ庁の設置は、今年3月に経団連が提言したもので、
私は早ければ年度内にも設置が決まると予想している。
だから、先行してスタートアップ担当相の任命を行ったのだろう。
しかし、くだんの旧統一教会問題や安倍氏国葬問題、
さらにはコロナ第7波対応など、どれもこれも方針が不鮮明で、
その対処をめぐって混乱が広がれば、
スタートアップ庁設置の遅れにつながらないとも限らない。
しかも、スタートアップ担当相に就任したのが山際大臣。
ただでさえ批判が集中している人物だが、
担当相就任の挨拶を聞いて、「わかっていない」と思わざるを得なかった。
「日本社会全体として、新しいものにチャレンジしていく意識が、
少し弱い状況が数十年続いてきたと思っている」。
山際大臣はこう語った。
この発言をよく読んでほしい。
「日本はまるでダメな国だ」と言っているのに等しい。
「新しいものにチャレンジしていく意識が少し弱い状況」が、
社会の一部ではなく全体であり、しかも、その期間が数年ではなく数十年だ。
普通に考えれば、日本は救いようのない状況に陥っていることになる。
もっとも山際大臣自身の様子を見ている限り、
そんな大それたことを言ったつもりはないようだったが、
この発言は明らかに間違っている。
【問題は、挑戦意識の欠如ではなく、応援意識の欠如】
日本の社会全体がチャレンジ精神を長く失っていたような事実はない。
それこそ、この数十年、意を決し、人の何倍も物事を考え、
新たな事業や活動に挑む起業家を私は数えきれないほど見てきた。
断言する。日本に挑戦者はいる。たくさんいる!
問題は、その挑戦を支持し、応援する意識が希薄だったことではないか。
過去の成功の遺産で食えるという価値感のはびこりが、
新しい時代の課題やニーズをとらえて、
その解決や成就を目的に挑戦する人々を重要視しなかったのではないか。
起業する人を家族が讃え、学校が讃え、地域が讃え、
企業や業界が讃え、政府が讃える……。
残念だが、日本はそんな社会ではなかった。
つまり、「日本社会全体として、
新しいものにチャレンジする人を“応援していく意識”が、
少し弱い状況が数十年続いてきた」と、私は考えている。
だからこそスタートアップ庁の設置と、その活動に期待を抱く。
“
【起業が当たり前の選択肢となる社会に】
自民党の総合政策集には、
大規模かつ長期的な成長資金供給のために、
国内外の機関投資家や事業会社の投資拡大のための環境整備を行うこと。
スタートアップの成長に不可欠な高度経営人材や技術者を確保すべく、
イノベーション人材育成や、
国際経験豊かな人材のマッチング支援を強化することが綴られている。
こうした取り組みの司令塔になるのがスタートアップ庁だ。
もちろん、これらカネやヒトの支援も大事だが、
私はスタートアップ庁設置を機に、起業することは、
人生における普通の選択肢であり、なおかつ素敵な選択である……。
そんな社会的空気を醸成することにも努めるべきだと思う。
もちろん、私自身とNICeが、それに取り組むことは当然だが、
もっともっと広範な機会をとらえて、
そうした常識をこの国に定着させなければと考えている。
「おい、ちゃんと勉強しないと、いい起業家になれないぞ!」。
親が子に、こういう言葉をかける社会を私は見てみたい。
繰り返すが、政権は政局を見誤ることなく、課題にちゃんと対応し、
「数十年来」の悲願である国を挙げての本格的・継続的な起業支援と、
その第一歩であるスタートアップ庁の設置・稼動に向けて邁進してほしい。
<一般社団法人起業支援ネットワークNICe 代表理事 増田紀彦>
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「つながり力で起業・新規事業!」メールマガジンVol.171
(2022.8.22配信)より抜粋して転載しました。
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