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厳しさを増す経済・経営環境に立ち向かうために、NICe増田代表理事が送る、視点・分析・メッセージ 。21日配信のNICeメルマガシリーズコンテンツです。
『17歳の帝国』主義 



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 「増田紀彦の視点 どうする?日本経済」

    第106回 『17歳の帝国』主義 
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【胸に刺さった「サンセット・ジャパン」という表現】

2022年5月から6月にかけて放送された、
NHKの連続ドラマ『17歳の帝国』は面白かった。

とりわけ時代設定が絶妙だ。

ドラマの冒頭、「202X年、日本は……」から始まるテロップが流れる。
近未来どころか、もうすぐそこまで来ている「超近未来」だ。
あるいは、今年か来年の話かもしれない。

それゆえ、AIが政治に関与するという未来的な筋書きでありながらも、
「SFドラマとして楽しむことはできない」という緊張感が漂う。

では、「202X年の日本」は、どうなっているというのか?

「GDPは戦後最大に落ち込み、G7からも除外。失業率は10%を超えた。
人々は<経済の日没サンセット・ジャパン>と呼んだ」……。

ドラマの設定とはいえ、やり過ごすことのできないフレーズである。


【かれこれ20年、伸びることのないGDP】

実際のところ、日本のGDPはどのように変化してきたのだろう?

GDP(名目GDP)の推移を10年単位で見ていく。

1990年 463兆円
2000年 535兆円
2010年 505兆円
2020年 538兆円 となっている。

上記にはないが、1997年には543兆円を記録。しかしそれ以降、停滞が始まり、
リーマンショックの翌年の2009年には494兆円に下落。

その後、著しい下落は収まるが、
コロナ禍の影響を受けた2020年は538兆円となり、
リーマンショック時の前年比3.6%減を超え、
前年比4.6%減という戦後最大の落ち込みを記録した。

「202X年、日本のGDPは戦後最大に落ち込み……」は、実際の話だ。

その翌年の2021年は やや盛り返して542兆円。
とはいえ、前述した1997年の543兆円に、
24年間かかっても、まだ到達できない状況である。
要するに、この20年間、日本経済はまるで成長していないのである。
むしろ、何かことが起きれば、
いとも簡単に前年比マイナスとなる脆弱ぶりを呈している。


【GDPは、何を表す指標なのか?】

念のため、GDPの意味につい触れておきたい。

GDPとは、「Gross Domestic Product」(国内総生産)の略であり、
一定期間内に国内で生産されたモノやサービスの付加価値の合計金額、
つまり、1年間に、とある国が儲けた金額を示す指標である。

内訳は、人々の「消費」と国内企業が行う「投資」を合計した「民需」、
政府が使った「政府支出」、
さらに輸出額から輸入額を差し引いた「貿易収入(純輸出)」 となる。

また、GDPは稼ぎだした金額そのもので示す「名目GDP」と、
変化する貨幣価値を勘案した「実質GDP」の2種類で表される。
現在のようにコストプッシュインフレに見舞われている日本の場合、
「実質GDP」は、「名目GDP」ほどには達しないことになる。

もっともGDPは、中古品などを販売して稼いだ金額や、
国内企業が海外で稼ぎだした金額を含まないルールがあり、
さらに昨今は、「無料コンテンツ」や「無料サービス」が、
好んで取り入れられるようになっているため、
GDPで示す金額が、その国の経済状況を正確に表しているとは、
言い切れない側面もある。

それでも、とある国の経済の成長ぶり(もしくは停滞・衰退ぶり)を語るには、
GDPがもっともわかりやすい指標であることは間違いない。


【日本のGDPは「世界3位」だが……】

では、日本のGDPは、世界各国と比してどうなのだろう?
2020年の集計は以下のようになっている。(単位:百万USドル)

1位 米 国 22,675,271
2位 中 国  16,642,318
3位 日 本   5,378,136
4位 ドイツ 4,319,286
5位 英 国 3,124,650

「なんだ、日本はベスト3じゃないか」と、思う人もいるだろう。
だが、1位・2位と日本の差はとてつもなく大きいし、
反対に4位以下と日本の差は、さほど大きくない。

また、変遷で語ると、
もとから1位だった米国とは、どんどん開きが大きくなっているし、
かつて日本より下だった中国に抜かれるかたちで、日本は3位に落ちている。

さらに言うなら、今後の日本の順位は、
よくて4位、悪ければ8位まで下がるという予測がもっぱらだ。
人口減少と高齢化が進む以上、この予測を覆すのは難しい。

しかし、この順位よりも、より危機的な状況を示すデータがある。


【世界2位から28位にまで転落した「日本の一人当たりのGDP」】

それは、「日本の一人当たりのGDP」である。

一人当たりのGDPとは、単純にGDPを人口で割った金額のことで、
2021年の日本の金額は、
名目でおよそ3万9000ドル(約432万円)だった。

では、この金額の世界的順位はどうか?

驚くなかれ。なんと28位だ。

ちなみに2000年の「日本の一人当たりのGDP」は、世界2位だった。
それからおよそ20年で、ここまで順位を下げた。

この状況を受け、昨年の新聞報道には、
「日本はあっという間に後進国になった」(日本経済新聞)や、
「日本は衰退途上国であり発展停滞国」(産経新聞)などの文言が並んだ。

NHKのドラマで使われた「サンセット・ジャパン」という表現もまた、
決して、物語上の話ではなかったのである。

そんな日本の停滞ぶりは、お隣の国の韓国と比較すると一目瞭然だ。

日本が2位だった2000年、韓国は33位で、
日本の金額は2021年と同じ3万9000ドル、
かたや韓国は1万2000ドルと、その差は3倍以上に達していた。

それが2021年には、日本28位、韓国30位と接近し、
金額は、前述のとおり日本は3万9000ドルで、
一方の韓国は3万5000ドルにまで上昇した。
勢いの差は、もはや比較にならないレベルだ。


【挑戦し、苦闘する人を応援する社会へ】

前回のコラムで私は、
「日本社会全体として、新しいものにチャレンジしていく意識が、
少し弱い状況が数十年続いてきたと思っている」という、
山際経済再生担当大臣の発言を批判した。

しかし、こうしたデータを見ると、
私の方が間違っていたのかと思う気持ちもわいてくる。

だが、やはり間違っているのは山際大臣だ。
前回も書いたように、日本にもチャレンジャーはたくさんいる。
問題は、そのチャレンジャーを大切にせず、応援もせず、
というより、チャレンジの価値自体を理解することすらなかった、
日本の政官財の責任こそ、問われてしかるべきと私は考えている。

ドラマ『17歳の帝国』に、私はなぜ惹かれたのか?

サンセット・ジャパンを象徴する政官財のお偉いさんに抗して、
17歳の少年が、新たな社会を模索して戦う健気さにも心打たれたが、
それにも増して、
市井の人々の中から、あるいはマスコミの中から、さらには政界の中からも、
そんな若者を「応援しよう」とする人々が、
一人また一人と増えていく様子が、私の胸を熱くさせた。

既得権益も前例も常識もかなぐり捨て、
閉塞感を打ち破ろうとする若者を信じ、助け、共に頑張る。

そんな日本になれるのなら、
私は名目GDPが下がろうが、実質GDPが下がろうが、
国民一人当たりのGDPが下がろうが、構わないと思う。

実際のところ、すでに日本経済はジリ貧だ。
ならば、過去にしがみつき、
それを頑なに守ろうとする時代は、もう、お終りにしよう。

今こそ、国内総挑戦&国内総応援の精神を喚起すべきだ。

<一般社団法人起業支援ネットワークNICe 代表理事 増田紀彦>

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「つながり力で起業・新規事業!」メールマガジンVol.173 
(2022.9.21配信)より抜粋して転載しました。
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