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厳しさを増す経済・経営環境に立ち向かうために、NICe増田代表理事が送る、視点・分析・メッセージ 。21日配信のNICeメルマガシリーズコンテンツです。
首相が語る「人への投資」とは?



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 「増田紀彦の視点 どうする?日本経済」

 第103回 首相が語る「人への投資」とは?

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【日本経済の内情が滲む、首相のロンドン講演】

5月5日にロンドンで行われた岸田首相の講演には、
今後、日本政府がどのような分野にお金を投じていくのか、
あるいは、どのような取り組みを優遇するのかなどの情報が満載だった。

とくに「4本柱」として語られた、
「人への投資」、「科学技術・イノベーションへの投資」、
「スタートアップ投資」、「グリーン、デジタルへの投資」のなかには、
様々なビジネスチャンスが潜んでいる。

ところが、冒頭の「人への投資」を読み進めると、
首相の勢いとは裏腹に、日本経済の抜き差しならない状況が浮かび上がってくる。

今回のコラムでは、岸田首相が語る「人への投資」について考察し、
チャンスとピンチを整理して、
私たち小規模事業者が進むべき道を探っていこうと思う。


【「賃上げは困難」と、遠回しに認める首相】

まずは人に対する「フロー投資」について見ていく。

「フロー面での人への投資といえば、まずは賃金です。
賃金が伸びなければ、消費にはつながらず、次なる成長も導き出せません。
生産性を上昇させるとともに、それに見合った形で賃金を伸ばすために、
賃上げ税制を導入するなど、官民連携して賃上げの社会的雰囲気を醸成します」。

いろいろ語ってはいるが、要は最後の一言にあるように、
「雰囲気を醸成する」という、成り行き任せの方針になってしまっている。
もともと期待してはいなかったテーマだが、
「やはり打つ手はなしか……」と、嘆息せざるを得ない。

事実、介護職や看護職の賃金引き上げも「お小遣い程度」と揶揄されながら、
その後、何ら改善策を示すでもないし、
結局のところ、最低賃金の引き上げという形式的な取り組みに終始している。

むしろ、いたずらな最低賃金の引き上げは、
かえって状況を悪化させかねないことは誰でも知っている。

円安や原料価格・輸送コストの上昇に苦しむ企業が、
従業員の賃金を引き上げざるを得なくなれば、
非正規労働者や業務委託労働者、あるいは外国人労働者への切り換えを進める。
結果、日本の低賃金労働者人口はかえって増えてしまう。

「日本の総理大臣唯一の金融出身者」と自負する岸田首相が、
この展開を予測できないはずがない。
つまり、岸田首相は「わかっていない」のではなく、
本当のところ、所得向上につながる賃上げは難しいと諦めているのだろう。


【「食い扶持は自分で稼げ」の大号令】

一方、人への「ストック投資」については、このように話している。

「職業訓練、学び直し、生涯教育などへの投資が重要です。
政府として、すでに3年4000億円のパッケージを導入していますが、
今後さらに教育訓練投資を強化し、人的資本の蓄積を推進することで、
労働移動、雇用流動化を積極的に支援していきます。
とくに兼業・副業の推進とともに、リスキリングに力を入れます」。

もともと兼業・副業については、
令和2年の安倍首相(当時)の所信表明でも語られていたが、
その直後から新型コロナ感染症の国内拡大が深刻化し、
もっぱらリモートワークの推進などに力点が置かれたため、
一時的に棚上げになっていたテーマである。

が、2年半の「待機期間」を経て、
あらためてこの項目が語られたことは重要な意味を持つ。
先に紹介したフロー投資と重ね合わせて解釈すれば、
日本政府の「働き方観」が鮮明に見えてくる。

つまりは、こういうことだ。

「現在の仕事を続けていても、給料は上がらないでしょう。
なので、成長分野やニーズのある分野で働けるようになってください。
でも、給料だけを当てにしていてもダメです。
副業や兼業を行って、自分の食い扶持は、自分で確保しましょう」。

我が意を得たりだ。私も副業・兼業大賛成。

とくに利益が上がっていない企業に勤務する労働者は、
賃上げを願ったところで実現性は低いし、
最低賃金の引き上げは、すでに触れたように、
経営者を追い詰め、逆に低賃金労働者への切り換えにつながりかねない流れだ。

であれば、副業・兼業の解禁というより、
副業・兼業の促進こそが、経営者・労働者双方にとってのメリットになる。


【副業・兼業は、人生100年時代の必須キャリア】

ただし、私が副業・兼業を推進すべきと主張するのは、
「当面の収入の確保手段」にとどまらない意味を持つと考えるからだ。

いわゆる「人生100年時代」への備えである。
年金制度に黄信号が灯ってきた今、
いわゆる後期高齢者になっても働き・収入を得続けることが求められてきた。

だが、定年退職まで、勤務先で割り当てられた仕事だけをこなしていて、
急に新しい仕事ができるだろうか?

なので、一定の賃金が保証されているうちに、
副業・兼業という「実証実験」を通じて、
自分がやれること、やりたいこと、
反対にできないこと、したくないことなどを、
自覚しておくことが大切になる。

大儲けはしなくても、長く、楽しく続けられそうな仕事を見つけておく。
現代の日本における「将来への備え」とは、こういうことだろう。
また、その実験を通じて、起業を考える人が増えれば素晴らしいことだ。


【金融投資で個人資産を増加せよという方針】

岸田首相の発言の続き。
「もう一つ重要なストック面での人への投資が、『貯蓄から投資』です。
我が国個人の金融資産は2000兆円と言われていますが、
その半分以上が預金・現金で保有されています。
この結果、この20年間で米国では家計金融資産が3倍、
英国では2.3倍になったのに、我が国においては1.4倍にしかなっていません。
ここに日本の大きなポテンシャルがあります」。

なるほど。日本人の資産増加率が低い分、伸びしろは大きいという理屈だ。

そしてこう続けた。
「NISAの抜本的拡充や国民の預貯金を資産運用に誘導する新たな仕組みの創設など、
政策を総動員して『資産所得倍増プラン』を進めていきます」。

すでに、首相の発言どおりで、政府は「つみたてNISA」の投資可能期間を、
現行の2037年から2042年まで5年延長する方針を打ち出している。

「つみたてNISA」は、年額最高40万円を20年間にわたって投資でき、
その期間に得た利益については非課税とする制度だ。

たとえばフルで積み立てた場合は40万円×20年間で800万円になり、
仮に利回りが10%であれば、合計880万円が非課税資産になる。
通常なら投資で得た利益には20%課税されるので、
80万円の利益から16万円が差し引かれてしまうが、
それが免除される分、資産形成がしやすいという話だ。

だが、どうだろう?
金融庁は以前、日本人の老後資金は2000万円不足すると言っていなかったか?
積立額が20年で800万円+αでは、半分にも満たない。

それに、そもそもの話だが、
NISAは貯蓄ではなく投資である以上、20年後には元本割れしている可能性もある。
また、NISAで出した損は、他の所得と損益通算ができないルールがあり、
節税メリットもないので、損をした場合は、文字通りの損になる。

岸田首相は、そういうリスクを取れと、国民に言っている。


【そもそも毎月、投資をできる人がどれだけいるのか?】

とはいえ、結果的に『貯蓄から投資』は、不発に終わると私は見ている。
年額40万円を20年間にわたって積み立てられる人が、
それほどいるとは思えないからだ。

実際、6月5日に発表されたJNNの世論調査では、
「今後、貯蓄を投資に回そうと考えるか」との質問に対し、
●投資に回そうと思う23%
●投資に回そうと思わない40%
●投資に回す貯蓄がない34%
という結果が出ている。

しかも物価上昇による実質賃金の下落もますます懸念される昨今、
「投資に回す貯蓄がない」人は、さらに増えていく趨勢だ。

余談だが、個人事業主や法人役員を務めている人で、
多少なら毎月の積み立てを増やせるという人は、
中小企業基盤整備機構が取り扱う小規模企業共済を新たに始めるか、
始めている人は、増額をしたほうがよほど得だ。


【投資に頼らず、つながり力で明日を切り拓こう!】

あらためて岸田首相の「人への投資」の中身をまとめるとこうなる。

●賃上げをすべきという「社会的雰囲気を醸成する」。
→政府としては実のある措置は講じない。

●人材の能力強化を図り、副業や兼業も奨励する。
→その政策に乗れる民間企業にはメリットがある。

●個人の貯蓄が投資に回るように措置を講じる。
→NISAを取り扱う証券会社にはメリットがある。
(→そのおかげで政権は、金融市場から嫌われずに済むメリットがある)

要するに、
「新たな能力を獲得しようとする人や、副業・兼業に挑戦する人、
また、金融投資が可能でそれを恐れない人たちに対しては、
政府としても出来る限りの支援をするが、
そうではない人たちのことは、支援できない」という話だ。

こう書くと、岸田首相が冷たい人のように思われるかもしれないが、
これは首相の人柄の話ではない。日本経済の実情についての話である。

であれば、私たちは、投資などとという不確かなものに頼るのではなく、
自らの適性を認識し、能力を鍛え、それを評価してくれる人々を見つけ出し、
その人々と手を携えて成長市場を探し、あるいは画期的な商品を開発して、
明日の仕事と生活を主体的に切り拓いていくべきだ。

政府が「貯蓄から投資へ」を訴えるなら、
私は、所得アップと心豊かな人生を掴むためには、
あらためて「つながり力の強化」を訴えたい。

<一般社団法人起業支援ネットワークNICe 代表理事 増田紀彦>


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「つながり力で起業・新規事業!」メールマガジンVol.167 
(2022.6.21配信)より抜粋して転載しました。
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