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厳しさを増す経済・経営環境に立ち向かうために、NICe増田代表理事が送る、視点・分析・メッセージ 。21日配信のNICeメルマガシリーズコンテンツです。
つながり力で、Everyday Reasonable Price!



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 「増田紀彦の視点 どうする?日本経済」

第102回 つながり力で、Everyday Reasonable Price!

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【スーパーストア「オーケー」の策略】

首都圏を地盤とするスーパー「オーケー」に向かうと、
最初に目に入るのが、「OK」をモチーフにした店名ロゴの看板で、
次に目に飛び込むのが、そのロゴの下に書かれている、
「高品質・Everyday Low Price」の文字だ。

元来、物の値段は上がったり下がったりするものなのだが、
20年以上デフレが続いた日本では、同店のように、
「毎日安く売ります」と言い切れる土壌が出来上がっている。

だが、その経営方針にも波風が立ち始めた。
今年2月、花王がオーケーに対して卸売価格の値上げを要求すると、
「それでは、おたくの製品は取り扱わない」とオーケーが反発。
このやりとりが大きなニュースになった。

実際はその後、「お客様の要望に応える」という理由で、
花王製品の販売を継続する方向に転換したのだが、
「扱わない」というニュースばかりが取り上げられたために、
「物価高のご時世でも、オーケーは安売りで頑張っている」、
という印象が広がったかもしれないし、オーケーと取引する各メーカーは、
「迂闊に値上げ要求はできない」と、及び腰になったかもしれない。
だとすれば、オーケーとしては、「しめしめ」である。

とはいえ、勢いに乗って成長を続けてきた安売りスーパーに、
ここまでの大芝居を打たせる物価高は、もはや看過できないレベルだ。


【インフレには2つのタイプがある】

そもそも、花王が値上げを要求したのは、
原料価格や輸送コスト(ガソリン代)が高騰し、
自社の利幅の中では、その分を吸収しきれなくなったからである。

このように、生産コストや輸送コストの上昇など、製品供給側の事情により、
物価が上がる事象を、コストプッシュ型インフレと呼ぶ。

一方、景気の拡大や貨幣量の増大などで需要が活発になり、
供給不足で物価が上がる事象をディマンドプル型インフレと呼ぶ。
仮の話だが、花王製品の人気が急激に高まり、
生産が追いつかず品薄になったとすれば、
「高くてもいいから欲しい」と言い出す消費者が現れるという話だ。

つまりインフレには2種類あり、経済に与える影響もそれぞれ異なる。


【日銀はデフレ脱却を目指したが……】

長年、物価が伸びないデフレに苦しんできた日本経済は、
当然、需要の高まりによるディマンドプル型インフレへの転換を目指した。
日銀が金融緩和を行って、インフレ率2%を目標にしたことはご存じのとおり。

金融緩和で貨幣の供給量を増やせば、
それだけ貨幣の価値が下がり、相対的に物の価値が上昇する。

しかし、2016年の「黒田バズーガ」炸裂からどれだけ歳月を費やしても、
この目標は達成されなかった。
結果的には、日銀の貨幣供給量がまだまだ足りていなかったということであり、
それだけ日本のデフレが根強いものであったということだ。

「物価が上がると生活が厳しくなるのに、
なぜ、物価上昇を誘導するのか?」と思う人もいるだろう。

そう感じるのももっともだが、物価が低い、もしくは下がる状況では、
企業収益が伸びず、結果、賃金も据置きか、下がることになり、
消費者の購買力は低迷する。

こうなると、供給側はさらに値下げをして購買を促進しようとし、
結果、さらなる収益悪化・賃金減少を引き起こす。
まさに負のスパイラルである。

この構図から脱却しないと企業も家計も身動きが取れなくなる。
だから、日銀はインフレ目標を立てた。


【インフレが、結果としてデフレ圧力に】

ところが現在、進行しているインフレは原油価格や食糧価格の高騰を要因とした、
コストプッシュ型インフレであり、需要の高まりが要因ではない。

さらに、このコストプッシュ要因に加えて、
インフレ目標のために日銀が金融緩和を続けてきた経緯が仇(あだ)になり、
いわば複合型のインフレが巻き起こっていると私は考えている。

デフレのせいで収益も賃金も所得も伸びないのに、
複合インフレのせいで物価ばかりが上昇する。
企業も家計も、たまったものではない。

だから、オーケーと花王の攻防に表れたように、
生産と流通の関係もギクシャクする。
「値上げをすれば売れない」と流通サイド。
「値上げをしなければ赤字だ」と生産サイド。

もちろん、各メーカーも消費者の可処分所得が縮小していることはわかっているが、
すでに人件費を筆頭に、徹底的にコストを絞ってきた日本企業には、
もう、これ以上のコストダウンを実行する手立てが見当たらない。
いわば、追い詰められるようにして、値上げに踏み切っている状況だ。

それでも、メーカーはコスト上昇分を多少埋める程度の値上げしかできない。
それ以上の値上げは、さらなる買い控えを誘発するのが必至だからである。
そう考えると、複合型インフレ自体が、
デフレを後押しする要因になってしまうとも考えられる。


【インフレは円安をも誘導する】

結局のところ、日本経済が苦境に立たされている根本要因は、
資源や原料はもとより、あらゆる部品や製品の調達を海外に依存してきたためだ。

仮に、メーカーの資源・原料調達先が国内にあるのなら、
資源価格が高騰しても、供給企業の売上が伸び、
関連する企業や労働者の所得も上昇し、日本のGDPを押し上げるのだが、
値上がりしているのが輸入物資では、何一つ日本にメリットはない。

しかも、インフレで貨幣価値が下がるということは、
「円」の価値が下がることであり、為替は円安に傾く。

そうなると、たとえば以前100ドルで買えたものが値上がりして130ドルになり、
加えて1ドル100円が1ドル130円に下がれば、
従来1万円で輸入できたものが、1万6900円かかることになる。
桁を上げれば、100億円で買えたものが、169億円になるという事態だ。
多くの物資を輸入に頼ることの怖さが、まさに現実となってきた感がある。

外交政策や金融政策などでの努力ももちろん必要だが、
私はやはり、国内の1次産業や製造業の拡大・活性化を強力に推進し、
原料や部品、製品の国内供給量増加を目指すことが必須だと思う。


【新たな農商工連携で、海外依存脱却を】

10年ほど前に、経済産業省が主導して農商工連携が推進されたことがあった。
一方、農林水産省は、1・2・3次産業の連携ではなく、
1次産業(農林水産業)を営む事業者が、
自分だけで1・2・3次すべてを手がける6次産業化政策を対置し、
結果、農商工連携の伸長に水を差すかたちとなった。

しかし、生産者が生産・加工・販売を一人で手がけるなど、
とうてい容易ではないことは、すでに大半の関係者が認識している。

政府・省庁は、縦割り意識や対抗意識を捨て、
日本の全産業が一致協力して資源や部品や製品を、
国内調達できるサプライチェーンの再構築支援のために手を携えてほしい。

もちろん私たち民間も、それを目指して知恵を出し、行動し、
先行的な事例をつくって、官民にアピールしていくべきだろう。

コロナ禍で中国・アジア頼りの部品調達の脆弱性・危険性に気づき、
さらに半導体不足や木材不足が顕在化し、
今後はウクライナ情勢の影響によるエネルギー・食糧不足も懸念される。

「デフレだから、安い原料や部品が調達できる海外と取引する」、
という、これまでの製造業の常識は、いずれ通用しなくなるはずだ。
というか、海外に高い代金を支払うのなら、
国内調達で高い代金を支払うほうが、
めぐりめぐって、何倍も何十倍も日本経済にとってはプラスになる。

農商工が知恵と資源を重ね合い、
高品質でコストを抑えた原料や製品を開発・生産・製造し、
無駄のない流通・物流網を整備することで、
コストプッシュ型インフレは抑制できるし、
国内で金が回れば、デフレからの脱却も見えてくる。

日本経済を直撃している複合インフレは、
今こそ海外依存を改めるべしとのメッセージだと私は受け止めている。

合言葉は、「つながり力で、Everyday Reasonable Price」だ。

<一般社団法人起業支援ネットワークNICe 代表理事 増田紀彦>

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「つながり力で起業・新規事業!」メールマガジンVol.165 
(2022.5.23配信)より抜粋して転載しました。
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