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厳しさを増す経済・経営環境に立ち向かうために、NICe増田代表理事が送る、視点・分析・メッセージ 。21日配信のNICeメルマガシリーズコンテンツです。
「事業再構築」は、つながり力で!



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 「増田紀彦の視点 どうする?日本経済」

 第88回 
 「事業再構築」は、つながり力で!
 
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【中小企業注目の「事業再構築補助金」がスタート】

自分一人だけの個人事業主から、資本金10億円未満の中堅企業まで、
あらゆる中小事業者を対象にした事業再構築補助金が注目されている。
予算総額1兆1485億円という、かつてない大型補助金であり、
補助額も事業計画に合わせて100万~1億円と幅広い。

申請要件は大きく分けて3つ。

(1)売上が減少していること
申請前の直近6か月間のうち、任意の3か月の合計売上高が、
コロナ以前(2019年または2020年1~3月)の同3か月の合計売上高と比較し、
10%以上減少していること。

(2)事業再構築に取り組むこと
経済産業省が定めた事業再構築指針に沿って、
新分野展開や業態転換、事業・業種転換などに取り組むこと。
要するに、「現在の商売の延長」は対象にならない。
詳しくは「事業再構築指針の手引き」を参照。
https://www.meti.go.jp/covid-19/jigyo_saikoutiku/pdf/shishin_tebiki.pdf

(3)認定経営革新等支援機関と事業計画を策定すること
認定経営革新等支援機関とは、商工会議所や金融機関、税理士事務所など、
中小企業庁が認定した中小企業支援団体のこと。詳細は以下。
https://www.chusho.meti.go.jp/keiei/kakushin/nintei/


【「事業再構築補助金」は、設備投資を要する計画立案が前提】

要件(1)に、「コロナ以前と比して……」という文言があるため、
一見、コロナ禍に苦しむ中小企業を救済する措置に見えるが、
事業再構築補助金は、そういう主旨の支援策ではない。
この補助制度の狙いは、日本の中小企業を篩(ふるい)にかけることだ。

以前から指摘してきたように、
政府は中小企業の再編=構造改革を強行する考えであり、
事業再構築補助金という「アメ」を用意することで、
その第一歩を踏み出したということである。

生き延び、さらに成長しようとする企業は支援するが、
現状にとどまっている企業のことまでは知らない、というわけだ。

確かにコロナ禍を経て、多くの市場の様相は一変し、
従来の事業内容や業態では、先が見込めない企業も少なくない。
であれば、自社が有する経営資源の使い道を考え直し、
新市場への進出や新業態・新商品の開発を柱とした事業再構築は必須である。

しかし、この補助制度は、単に新規事業を計画すれば良いわけではなく、
新たな機械やシステムの導入、施設の建築や撤去、改修など、
いわゆる設備投資が必要となる事業計画を立案することが求められており、
それらを要さない計画は、補助の対象とならない。


【補助金は後払い。資金調達と資金繰りの壁は高い】

また、補助金は、機械の導入費にせよ、建物の建築費にせよ、
すべての支払いが完了した後に支払われるものであり、
まずは事業費全額を自社で賄う必要がある。

例えば、総事業費6000万円の事業計画を立てた場合、
満額で4000万円(補助率3分の2)が補助されるが、
当面は6000万円全額を自社で用立てる必要があるし、
仮に満額補助になっても、残りの2000万円は自己資金を充てるしかない。

もっとも実際のところ、満額補助を受けることも難しい。
前述のように、補助対象経費は主に設備費や建築費に向けられており、
事業上必要であっても、補助対象にならない経費がかなりあるからだ。

例えば、あるメーカーが配送センターを設置して、
物流事業に進出する計画を立てたとする。

この場合、倉庫や車庫の建築費は補助対象になるが、
その施設を設置する土地代は対象外だし、
トラックなど車両の購入費も対象外だ。
もちろん、そこで働く人々の人件費も対象外である。

なので、仮に総事業費が6000万円だとしても、
補助対象経費は半分程度の3000万円にしかならないこともある。
この場合、補助金額は3000万円の3分の2=2000万円となり、
残りの4000万円を自己資金で負担することになる。


【金融機関は本当に事業計画立案を助けてくれるのか?】

それでも一般的に言えば、「悪くない補助」だが、
問題は、計画を実行に移せる資金力や資金調達力を持つ中小企業が、
どれだけ存在するかだ。

もちろん、金融機関の力を借り、融資を受ける方法はあるが、
今回の補助金は、実績のない新規事業を対象にしているため、
金融機関の評価は自ずと厳しくなるだろう。

また、全国のほとんどの地方銀行や信金、信組が、
前述の経営革新等支援機関に認定されているが、
本当に企業と共に事業計画づくりを進めてくれるのだろうか?

否である。

地域密着の信組などの中には、事業者に寄り添う機関も存在するが、
大半の地銀は、提携しているコンサル会社や支援団体に案件を丸投げし、
コンサル会社は、当該企業の現実も課題も理想も可能性も知らないまま、
いわゆる「採択されやすい事業計画」を淡々と作成していくのが実態だ。

コンサル会社は、それによって多額の成功報酬を受け取り、
金融機関は、補助金支払いまでの期間の「つなぎ融資」で成績をあげる。


【小規模な事業では、計画作成代行会社は食いつかない】

「それでも、採択される計画を書いてくれるならありがたい」。
そう思う人もいるかもしれないが、銀行もコンサル会社も、
補助申請額が数千万円(最低でも1千万円)でなければ、まず食いつかない。

事業再構築補助金の申請に求められる新規事業計画は、
かなりのレベルが要求されており、
計画作成のプロであっても、相当な労力を要することになる。
であれば、例えば採択額が200万円として、
その成功報酬が10%の20万円では、とても割に合わないのだ。

むしろ、総事業費が大きい計画を立てられる企業ほど、
もともと経営分析や市場分析が進んでいる可能性が高く、
書類を作成するコンサルにとっては作業がラクなのである。
そのうえで、採択額2000万円の10%なら文句が出るはずがない。

反対に、「あれもこれも一から」の小規模企業の場合は、
実入りが少ない割に手間がかかるため、
計画作成代行を引き受けてもらえないことも十分に考えられる。

もっとも商工会議所や商工会、よろず拠点などは、
事業計画規模にかかわらず、それなりに支援をしてくれるはずだ。


【補助金に惑わされず、冷静に新規事業を計画しよう】

むろん、新たな挑戦のために、この補助金を活用することは否定しない。
使えるなら、大いに使うべきである。
現に私も、支援する企業の新規事業開発に際し、
この補助制度を活用しようと計画している。

ただし、採択を受けるためのハードルは高く、
仮に採択を受けても交付決定から精算(支払い)までの期間も長い。
資金調達や資金繰りは本当に大変だ。

何より、申請期限に縛られて、
十分な検討や調査、準備ができないままに新規事業を計画することは、
かえって自社を苦しい状況に追い込んでしまう危険がある。

この補助金は令和3年3月の一次募集を皮切りに、
最終的には四次募集まで行われることになっている。つまり時間はある。

ネットに並ぶ計画作成代行会社の広告の中には、
「採択率は一次募集が圧倒的に高い」と言い切るものが少なくない。
そういう傾向はあるのかもしれないが、
締め切りが近い一次募集に申請するよう仕向ければ、
事業計画の立案を含む申請準備が企業自身では担えなくなり、
こうした代行会社への依頼が増加すると目論んでいるようにも思える。

支援機関や代行会社を利用することも一手ではあるが、
それらの言い分に振り回されては本末転倒だ。

新たな事業を、いつから、どこで、誰と、どのように始めるのか?
それらを考え、決断するのは、ほかでもない経営者自身である。

そして、真に経営者の力になってくれるのは、
その経営者に信頼を寄せる従業員であり、顧客であり、仲間である。

だから私は訴えたい。
本当の事業再構築は、「つながり力」なしには決して実現しないと。

<一般社団法人起業支援ネットワークNICe 代表理事 増田紀彦>


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「つながり力で起業・新規事業!」メールマガジンVol.138
(2021.3.22配信)より抜粋して転載しました。
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