第20回 次の次の次あたり
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増田紀彦の「ビジネスチャンス 見~つけた」
第20回 次の次の次あたり
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江戸時代に人気を博した浮世草子のひとつ、『世間学者気質』の中に、
主人公の三郎衛門が金の工面を思案する場面が出てくる。
「今日の大風で土ほこりが立ちて人の目の中へ入れば、
世間にめくらが大ぶん出来る。そこで三味線がよふうれる。
そうすると猫の皮がたんといるによって世界中の猫が大分へる。
そふなれば鼠があばれ出すによって、おのづから箱の類をかぢりおる。
爰(ここ)で箱屋をしたらば大分よかりそふなものじゃ」。
だが、主人公は肝心要の元手がないと、ガッカリするというオチ。
ご存じ、「風が吹けば桶屋が儲かる」の出典である。
感のいい読者の皆さんなら、すぐに今回のテーマに気づいただろう。
そう、「新型コロナが流行れば、儲かるのは何か?」である。
だがその前に、ひとつ検証しておこう。
風が吹くと、箱屋(桶屋)は、本当に儲かるのだろうか?
『国家の品格』の著者、藤原正彦氏は、
同書の中で、この理屈に対して以下のような解説をしている。
「風が吹けば埃が立つのは90%正しい。
埃が目に入って患う人は10%ぐらい。
その中で目が見えなくなるのは0.1%。
さらに三味線弾きになる人も0.1%……。
各ステップを全部かけあわせると、
0.9×0.1×0.001×0.001……
おそらく桶屋が儲かるのは1兆分の以下になるでしょう。
要するに桶屋が儲かることにならない。
このように一般の世の中では、長い論理は非常に危険」と。
さすがは数学者の藤原先生。
と言っても、各条件の確率を予測する程度なら誰でもできる。
珠玉のフレーズは最後の一行だ。
つまり、仮定の条件を重ねれば重ねるほどに、現実の世界では、
特定の結論に達する可能性が低くなってしまうということである。
ましてや、自然現象などではなく、
人間が取る行動を条件に加えてしまうと、その確率は実に不確かになる。
例えば目が見えなくなった人が、新たに選択する職業は、
三味線弾きに限らず、いろいろあるはずだ。
仮に多数が三味線弾きになったとしても、
今度は供給過剰で競争が激化し、価格低下による淘汰が起きるから、
結局は三味線の原料が底を突くような事態には至りにくい。
残念ながら、主人公の三郎衛門は、元手(事業資金)だけでなく、
行動経済学の視点も持ち合わせていなかった、ということだ。
さて、論を進める。
では、「長い論理は危険」なら、論理を短くすればいいのだろうか?
新型コロナウイルス感染症が世界的に流行る。
それなら、ワクチンや治療薬を開発すれば儲かる。
もちろん正解だ。
だが、あなたは、それをできるか?
事業機会によって生まれる市場の規模が大きければ大きいほど、
言い換えれば、儲かる確率が高ければ高いほど、
それをものにするための資金や資源も半端ではなくなる。
つまり、論理が短いと、
手を出せる人(企業や団体)は、自ずと限定されてしまうのである。
なので、藤原先生の言葉を借用させていただくと、
「長い論理は非常に危険。短い論理はとても無理」となる。
要するに、多くの起業家にとってのチャンスは、
ある事象の発生によって予測される事態の、
短すぎず、長すぎずのあたりに存在している、ということだ。
今、結婚相談所を利用する女性が急増しているという。
コロナ→事業活動の停滞→解雇や雇い止めの増加、
こういう流れが、この現象を生み出していることは想像に難くない。
であれば、解雇や雇い止めの増加→結婚による収入の安定、
ではなく、
解雇や雇い止めの増加→自ら稼ぎを得ることによる収入の安定、
という図式も描けるはずで、
そのハウツーを伝授する講座や個別指導にもチャンスが出てくる。
あるいは医療機関で働く人たちのストレスも大変だ。
この人たちを、ひとときでも、ホッとさせてあげられる品物やサービス、
そのへんを探っていくのもいいだろう。
といった、論理としては、短くも長くもない、
いわば、発生した事象の、次の次の次あたりに、
あなたが挑戦できるフィールドが広がっているはずだ。
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「つながり力で起業・新規事業!」メールマガジンVol.110
(2020.4.13配信)より抜粋して転載しました。
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