女性の起業支援を手厚くすべき理由
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【問われる「斯業経験」の有無】
「斯業(しぎょう)経験」という言葉がある。
「現在の事業に関連する事業の経験」といった意味合いで、
資金融資などにからみ、「斯業経験があるか」のように用いられる。
つまり融資する側は、融資を望む人が、
「その仕事(それに近い仕事)をしたことがあるのかどうか」を、
融資判断の目安にしているということだ。
実際、日本政策金融公庫論集12号に掲載された、
『開業者の斯業経験と開業直後の業績』に、
「開業者にとって斯業経験は極めて重要である。
斯業経験は事業機会を発見する場であるとともに、
事業を営むために必要となる様々な経営資源を獲得する場でもあるからだ」
と公庫総研研究員が記し、その論を調査分析によって裏付けている。
【乖離甚だしい、雇用者と開業者の男女比率】
さて一方、こんな統計がある。2つ続けて紹介する。
◆雇用者数および雇用者総数に占める女性割合の推移
1995年 女性割合38.9% (女性2048万人/総数5263万人 )
2000年 40.0% (2140万人/5335万人)
2005年 41.3% (2229万人/5393万人)
2006年 41.6% (2277万人/5472万人)
2007年 41.6% (2297万人/5523万人)
2008年 41.9% (2312万人/5524万人)
(総務省統計局「労働力調査」より)
◆新規開業者の性別
1995年 女性割合13.3%・男性割合86.7%
2000年 14.4%・85.6%
2005年 16.5%・83.5%
2006年 16.5%・83.5%
2007年 15.5%・84.5%
2008年 15.5%・84.5%
2012年 15.7%・84.3%
(日本政策金融公庫総合研究所「新規開業実態調査」より)
どちらも2000年以降、女性割合が高くなっているが、そこが論点ではない。
雇用者における男女比率は、おおむね男性60%、女性40%。
ところが開業者となると、この比率が大きく崩れ、女性割合が激減する。
なぜ、このような差異が生じるのか? ここが問題だ。
【「斯業経験」を得にくい、女性たちのB to Cビジネス】
もちろん、プライベートライフのありようが大きいことは論を待たない。
だが私はもうひとつ重要な問題があると思う。
それが冒頭で触れた「斯業経験」の有無だ。
2008年の調査結果だが、
女性雇用者の内、もっとも多い職業は「事務従事者」で全体の32.6%。
女性の場合、実に3人に1人が「事務従事者」になる。
対して男性の場合、「事務従事者」は全体の15.5%となっている。
私は、「女性と仕事の未来館」や「女性就業支援センター」で、
長年に渡って女性起業セミナーの講師を務めてきたが、
事務能力を生かして起業・独立を考えているという受講者には、
ほとんど出会ったことがない。
彼女たちの多くは、同じ女性や母親、あるいは地域の人々を対象とした、
B to Cビジネスを志向している。
しかし、彼女たちが目指す仕事を、雇用者として経験する機会は多くない。
いわんや、その事業の経営管理業務を経験するとなると、希有だろう。
つまり、女性開業者は「斯業経験」を獲得しにくい環境にあり、
それが、新規開業者の女性割合を低くする要因のひとつだと私は考える。
【女性のための創業支援をもっと手厚く】
中小企業庁は、新年度から開始する創業スクールにおいて
全国47カ所で、女性向けコースを設置することを求めている。
女性に特化したコースを設けることは歓迎すべきだが、
一般コース300カ所と比較すると、6分の1程度の規模だ。
むしろ、「斯業経験」を得にくい女性に対してこそ、
こうした学びの場を手厚くすべきではないかと私は思う。
また、起業のために専門能力の習得を目指す女性に対して、
学習コストの一部を補助する制度があってもいいかもしれない。
もっとも場だけを増やして、講義がお粗末では話にならない。
私自身のさらなる研鑽も急務だと痛感している。
<一般社団法人起業支援ネットワークNICe 代表理事 増田紀彦>
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「つながり力で起業・新規事業!」メールマガジンVol.16(2014.0324配信)
より抜粋して転載しました。
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