カジノは経済成長の特効薬か、劇薬か?
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【マカオの夜は眠らない】
沢木耕太郎の『深夜特急』を読んだのは1987年頃だった。
この長編ルポの冒頭で描かれていたのが、マカオでの日々である。
単身での海外放浪自体がある意味ギャンブルなのに、
そのうえカジノに出入りする著者の「自由闊達」ぶりに、
まだ山っ気がたっぷりだった年頃の私は、大層興奮したものだ。
ページを繰りつつ、私もマカオのカジノに行ってみようと思った。
そして実際に行った。今振り返ると、数えきれないほど出かけている。
マカオのカジノホテルの周辺は不夜城だ。
極彩色のネオンサインが、観光客を夜明けまで誘惑し続ける。
【カジノを頂点とした、欲望丸出し経済】
そのネオンサインの群の中に、ひときわ大きく表示されている漢字がある。
「押」。この一文字。
初めは意味がわからなかった。空手? いや、押すのだからマッサージ?
そうか、賭け事に勝ったお金でマッサージを受けるのか……。
正解は、その反対。
むしろ賭け事に負けた人たちが駆け込む場所だ。日本でいう質屋である。
「押」は「押収する」の「押」だと考えれば合点がいく。
巨大カジノホテル、飲食店、貴金属店、風俗店、そして質屋。
マカオの繁華街は、人間の欲望を図式化したように形成されている。
【夢のような経済効果。だが夢は悪夢と紙一重】
話は今の日本に移る。通称カジノ推進法案が国会に提出された。
2020年の東京オリンピックとリンクさせるかたちで、
国内外の観光客を徹底的に引っ張り込もうという目論見だ。
その経済効果は1兆円とも2兆円とも、7兆円とも言われている。
実際、あの狭いマカオですら、
カジノ業者が収める賭博税は、年間1兆円を超える。税収だけで1兆円!
ギャンブル依存症問題や非合法金融問題などが指摘されながらも、
カジノ合法化を目指したくなる人々の気持ちは、わからないでもない。
もちろんカジノ解禁となれば、「カジノ先進地」の問題を精査したうえで、
政府も様々な規制を打ち出すだろう。
宵に咲く食虫植物のような「押」(質屋)も、当然、規制されるだろう。
だが、規制すればするほど、問題は地中深くに潜り込んでいく。
夢のような経済効果の裏側に広がる闇にも、よくよく目を配らねばならない。
【劇薬も、使い方次第では良薬に】
それでもカジノを解禁するというのなら、
私は東京以外の地域に設置すべきだと思う。
オリッピックとの絡みで、いつしか東京にカジノを設けることが
既定路線のようになっているが、いかがなものか。
確かに国内外からの物理的・心理的アクセスを考えれば、東京は一等地だ。
だが、以前にも指摘したが、東京は首都直下型地震に対して無防備なままだ。
仮に、地震の神様が見過ごしてくれたとしても、
ヒトもモノも、それこそカネも、ますます東京に流れ込み、
またぞろ地方経済を追い詰めてしまうことは、目に見えている。
カジノ設置を認めるなら、むしろ辺鄙な場所がいい。
日本の国土の大半は山間地であり、列島には無数の島嶼がある。
これらの場所は、農業経営も工業経営も困難な地域が多い。
そういうエリアに限定してカジノを設置し、
大都市−地方都市−カジノ特区というラインを形成して、
ヒト・モノ・カネの新たな流れを創出することは、ひとつの手だ。
あるいは、地方には存続が容易とは思えない空港も少なくない。
こういう場所の近くに限定し、その地域の資本が参加できる程度の、
小規模なカジノ施設の設置を認めるという手もあるかもしれない。
とはいえ、博打で稼ぎだすカネに頼る経済は、やはり脆弱だ。
「カネは働いて稼ぐもの」。
実体経済の強化があってこその、「お楽しみ」でなければ意味がない。
<一般社団法人起業支援ネットワークNICe 代表理事 増田紀彦>
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「つながり力で起業・新規事業!」メールマガジンVol.15(2014.0321配信)
より抜粋して転載しました。
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