第62回 「声」を選ぶ
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増田紀彦の「ビジネスチャンス 見~つけた」
第62回 「声」を選ぶ
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30年以上前になると思う。
私の会社は、ある通信企業が開発したボイスメールを、
起業向け販売促進ツールとして売り出すことに取り組んでいた。
ボイスメールは、電話を掛けると音声が自動で応答するサービス。
例えば、どこかの会社の「お客様相談センター」に電話をすると、
用件に応じて「1」を押せとか「2」を押せとか言ってくる、あれである。
私は販促ボイスメールのサンプルを何種類も制作したが、
中でも秀作と自負するのが、大手味噌メーカーを想定したサンプルだ。
消費者が雑誌広告などに掲載された専用番号に電話を掛ける。
応答するのは、当時、女性陣に圧倒的な人気を誇っていた俳優の田村正和さん、
という設定。
「えー、お電話ありがとうございますぅ。んふふふふ」。
「ところであなたは白味噌派ですか? それとも黒味噌派ですか?」。
白なら「1」、黒なら「2」を押す。「1」を押したとする。
「んーー、うふふ。白ですかあ。素晴らしい。僕と一緒ですー」。
以下、田村さんの応答とボタンの選択が繰り返されていく、という流れ。
もちろん、デモ版を作るために田村さんを引っ張りだすなど不可能なので、
収録はモノマネ芸人の方にお願いした。
シナリオは、全編私が書いた。
作成中は、私が田村さんになったつもりで、
ひとつひとつのセリフをしゃべりながら文字に落としていったから、
一時期、私は田村さんのモノマネが得意だった(周囲は似ていないと言っていた)。
いずれにしても、楽しい仕事だった。
それから15年ほど経た頃か。
インスタントコーヒーのネスレが、専用サイトにテキストを打ち込めば、
俳優の大沢たかおさんがそれを読み上げてくれるというサービスを開始した。
こりゃすごい!
私はすぐさま、文章を打ち込んでみた。もちろん破廉恥な内容。
大沢さんは律儀な人で、そんな文章でも嫌がらず、全文を朗読してくれた(笑)。
バックには、「ダバダー ダバダー ダバダーー」でお馴染みの、
ネスレのCMソングが流れていた記憶がある。
技術は進歩するものだと、つくづく思った。
さらにそこから15年ほど進んだ現在は、AIが何でも喋ってくれる。
もう、この世にいない有名人たちが、
まるで生きているように、喋ったり歌ったりするシーンを目にすることも増えた。
要するに、ご本人の音声データさえあれば、何でもできるのである。
だったら、もっといろいろな場面でその技術を活用したらいいのに。
私の自宅の給湯器はノーリツ製で、
「お風呂がわきました」「湯量を変更しました」などと、
女性の音声がいろいろ親切に教えてくれる。
とてもありがたいが、欲を言えば、古畑任三郎の口調で、
「よろしいですか? お風呂がわきましたよ。わいたんですよー。うふふふ」。
などと田村正和さんが喋ってくれると、さらに嬉しい。
スマホで指定すれば給湯器のスイッチを時刻指定で入れられる。
その際、誰の声のメッセージを流すかも指定できたら盛り上がり間違いなし。
家電、クルマ、セキュリティ……。今やどこもかしこも自動音声だらけ。
ユーザーが「その声の種類」も選べる時代がすぐそこまで来ている(気がする)。
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「つながり力で起業・新規事業!」
メールマガジンVol.216
(2024.9.11配信)より抜粋して転載しました。
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