増田通信より「ふ~ん なるほどねえ」294 人生最高の時間潰し
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<最近の内省> 人生最高の時間潰し
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夜に新宿で人と会う約束がドタキャンになった。
とはいえ、私はもう現地に到着してしまっている。
このまま、トンボ帰りもつまらない。
「そうだ。末廣亭がある」。
遅い時間だったせいで、出演者は5、6組しか残っていなかったが、
おかげで普通は3000円の木戸銭が半額の1500円。
トリは誰だ? おっ、柳家喬太郎だ。
新作か古典か? どっちにしても楽しみ。というわけで欣喜雀躍して入場。
結論から言うと、この日、お目当ての喬太郎はお休みだったが、
トリの2つ前に登場した三遊亭圓歌の話芸の凄まじさに、大満足。
私は腹をシロクロさせながら、目玉を抱えた(笑)。
ボケを熱弁する。全身全霊でダジャレを発する。とにかく、
「そんなくだらないことを、額に汗してまで喋らなくても……」と、
耐えがたい可笑しさがジワジワとこみ上げてくるのである。
冷静に設計した小噺を、情熱的に演じられる圓歌である。
ところで圓歌といえば、弟子に対する暴言と暴力が問題になり、
裁判でもパワハラが認定されて賠償命令をくだされている。
また、そのせいで落語協会の理事も退任する羽目になっている。
あらためてネットで圓歌のパワハラの詳細を確認したが、
明らかに行き過ぎた行為のオンパレードだった。
残念ながら、この人には他人を預かる能力がない。
芸人としての能力と、指導者としての能力は、
まったく別物であるという見本のような人物。
だったら弟子を持たなければいい、という話だ。
他人事ではない。
どんな業界にも、
本業は名人級なのに、人材の管理や育成はからきしダメな人がいる。
何を隠そう、私自身がそういう人間だ。
かつて私は何十人も社員を雇っていたことがあるが、
今は、誰も雇っていない。
私は身近な人間に対する思い入れが強くなりすぎるタイプだ。
それはもう性分だから、どうしようもない。
ただ、そのせいで、社員たちも自分自身もたくさんの傷を負ってしまった。
社員の面倒を見るのならいい。だが私は見過ぎる。
社員を叱責するのもいい。だが私は叱責し過ぎる。
明らかに、他人へのコミットが世間の水準より強過ぎる。
性分が変わらないなら、環境を変えるしかない。
そう思って、身近に他人を置くことをやめた。
昨今は他人との距離感をそれなりに学んではいるが、
それでも何かのきっかけで、
他人に対して強過ぎる言葉を投げ掛けてしまうことがまだある。
読者の中にも、私のそういう「口撃」の被害にあった方もいる。
申し訳ないことをしたと反省している。
弟子や社員は、いなくても困らない。
が、他人とのつながりなくして、生きていくことはできない。
人との距離感は、終生、意識していかねばと思う。
と同時に、他人に対する厳しさを、そっくり自分に向けるべきだ。
私の仕事ぶりなど、まだまだ二流なのだから。
話芸も文芸も学芸も、もっともっと磨きをかけなければいけない。
他人を抱えないのであれば、
高座で汗だくになっている圓歌のようなプロになるべし。そう思う。
落語は、笑いながら人生を見直すことができる、人生最高の時間潰しだ。
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増田紀彦NICe代表理事が、毎月7日と14日(7と14で714(ナイス)!)に、
NICe正会員・協力会員・賛助会員、寄付者と公式サポーターの皆さんへ、
感謝と連帯を込めてお送りしている【NICe会員限定レター「ふ〜んなるほどねえ」スモールマガジン!増田通信】。
第294号(2024/6.14発行)より一部抜粋して掲載しました。
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