増田通信より「ふ~ん なるほどねえ」269 五線譜に学ぶデザインとネーミング
・
──▼────────────────────────────────
<最近の発見> 五線譜に学ぶデザインとネーミング
──▼────────────────────────────────
五線譜の左端には、ト音記号が記されている。
ト音とは、いわゆる「ソ」のこと。
イタリア語では、音階をドレミファソラシドで表すが、
日本語では、ハニホヘトイロハと表す。
なので、トの音はソの音になる。
さらに音階を英語で表すと、CDEFGABCになる。
つまり、ト=ソ=G。
というわけで、あのグルグルしているト音記号は、
Gの文字をデザイン化したものだ。
しかも、ちゃんと意味もなしている。
五線の下から二番目の線を、クルっと囲んでいるのをご記憶だろうか。
あの、囲まれた線が、ト=ソ=Gを示す線である。
楽譜には、多くの人が知らないルールが隠されている。
そのうえで面白いのが、ミより低い音の表し方だ。
レは、一番下の線のすぐ下に置く。これは、まあ、わかる。
傑作なのは、その下のド。
もはや線が存在しないので、音符自体に横棒(線)を入れて、
「レのひとつ下の音なんだよね」と、奏者に伝えている。
こういう仕事をデザイン力の結晶と言わずして、何をそう言うかである。
ト音記号といい、ドといい、意味と美を両立させた素晴らしいデザインだ。
ちなみに私、若い時分に声楽や合唱をかじった経験があるが、
今も当時も、歌をうまく歌おうとすると、低音域でしか勝負ができない。
具体的に言うと、
音符に横棒を入れたドと、その1オクターブ下のドの音域が、私の主戦場。
むろん、こんな低音域で歌うポップス系シンガーは、
世界広しと言えども、一人もいないだろう。
なぜなら、低音過ぎて、超キモイからだ(笑)。
もっともクラシック音楽では、「バス」と呼ばれる低音男性歌手が、
時折、この音域でソロを歌うこともあるし、
男性4部合唱の最低音パートなら、普通にこの音域が混じる楽譜が渡される。
さて、そんな私のようなタイプの歌い手は、どんな楽譜を使っているか?
実は、多くの人が見たことのない楽譜を使う。
そりゃそうだ。
横棒付きのドの1オクターブ下のドを楽譜に記そうとしたら、
もはや五線とはかけ離れた場所(うんと下)に音符を入れることになってしまう。
それこそ、横棒のドと、その1オクターブ下のドの音域内だけで歌うなら、
五線譜の中は、最初から最後まで、真っ白だ(笑)。
なので、私が使う楽譜にはト音記号の代わりに、「別の記号」が入っている。
その記号の付いている楽譜の場合、上から2番目の線がファになるので、
ト音記号の楽譜では五線の外に押し出されていたドは、
堂々、五線の中心近くに収まるのである。
だから、ドより低い音も、かなりの範囲、五線内で表すことができる。
実にありがたいこの楽譜だが、問題もある。
それは「別の記号」の名称だ。
まことに残念なことに、「ヘ音記号」という。
「ヘ」だ。
「屁」。
屁音記号。
ぷ~~~~~~。
ああ、カッチョ悪い……。
デザインが優れていても、ネーミングがダサかったら、いかんぜよ。
メディアコミュニケーションにとって何が大事か。
いい事も悪い事も、五線譜が教えてくれる。
ちなみに「五線譜」という響き自体は、妙に素敵だ。
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
増田紀彦NICe代表理事が、毎月7日と14日(7と14で714(ナイス)!)に、
NICe正会員・協力会員・賛助会員、寄付者と公式サポーターの皆さんへ、
感謝と連帯を込めてお送りしている【NICe会員限定レター「ふ〜んなるほどねえ」スモールマガジン!増田通信】。
第269号(2023/5.15発行)より一部抜粋して掲載しました。
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━