フリーランサーへの重税反対!
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「増田紀彦の視点 どうする?日本経済」
第108回 フリーランサーへの重税反対!
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【ようやく認められ始めた「フリーランス」という働き方】
国もフリーランス(以下フリー)を「働き方のひとつ」として、
位置づけ始めた感がある。
先頃公開された「骨太の方針」の中で、
「フリーが安心して働けるようにする法整備を進める」と明記。
さらに踏み込んで、フリーへの不利益な取り扱いなど、
新法の義務に違反する行為の是正命令に従わない事業者に対しては、
50万円以下の罰金を科す規定を盛り込む方向で検討していることもわかった。
国はこれまで、雇われる側(労働者)に対しても、
雇う側(企業)に対しても、それなりの保護や支援を行ってきた。
労働者には厚生労働省が、中小企業には中小企業庁が、大企業には経済産業省が、
そして一次産業には農林水産省や水産庁、林野庁が何かと世話を焼く。
しかし、人に雇われることも、人を雇うこともないフリーに対しては、
「国家的放置」といっても過言ではない状態が長く続いてきた。
ようやく、一歩目が踏み出されようとしている。
【かつての華やかな印象は影をひそめた】
景気が良かった時代は、放置でも済まされたのだろう。
ところが、バブルが崩壊し、その後の景気が回復しないまま、
リーマンショックにも見舞われ、日本経済はすっかり元気を失った。
また、ITの進展・普及をはじめとした技術革新が、
かつての数々の専門職から専門性を奪い、
「あなたじゃなくても出来る仕事」が、
フリーの業務分野にも着々と広がってきた。
その結果、私が若い時分に憧れの的だったフリーも、今では、
「様々な保証や保護を必要としない、低コストの社外人材」、
という見方をされるようになってしまった。
【国はフリーの人口も把握できていない】
では、過去と比較して、フリーの収入はどれくらい落ちたのか?
という、話をしたかったのだが、
どこを探しても、私がフリーに憧れていた当時の統計が見当たらない。
逆に言えば、それほどフリーが働き方として軽視されていたということだ。
そもそも、フリーの人口についてもあやふやだ。
内閣府政策統括官(経済財政分析担当)調べは306万人~341万人、
中小企業庁調べは440万人、
内閣官房日本経済再生総合事務局調べは462万人とバラバラだし、
民間のランサーズ株式会社は、1577万人と発表している。
いまだ、フリーの定義も実態も曖昧ということのあらわれだろう。
ちなみにリクルートが実施した「全国就業実態調査2022」によれば、
フリーを本業としている人は324万人となっている。
以下では、このリクルートの調査結果に基づいて話を進める。
【昨今のフリーの平均年収は336.5万円】
「全国就業実態調査」が実施されるようになって、
やっと、フリーの年収についての統計も発表されるようになった。
では、昨今のフリーの平均年収はいくらだろう?
336.5万円だそうだ。
結局、過去との比較はできないので増減は語れないが、
少なくとも、「高収入」と言うには無理がある。
なお、調査対象の内、年収1000万円以上は2.5%で、
700万円以上でも9.9%と、全体の1割に満たない。
反対に300万円未満は64.3%に達しており、
いわばフリーの3分の2が、全体の平均年収を下回る状況である。
【所得ベースでは、雇用者よりフリーが大きく下回るはず】
では、他の働き方との年収比較ではどうだろう?
●フリー 336.5万円
●正規雇用者 464.6万円
●非正規雇用者 156.3万円
●役員・自営業 392.8万円
残念ながら、フリーは下位に甘んじている。
もっとも、比較しているのは「年収」であって「所得」ではない。
雇用者の収入源は、ほぼ給与であり、
そうであれば、必要経費は発生しない。
一方、フリーは、必要経費を自らが負担する。
つまり年収から必要経費を差し引いた所得で比較すれば、
雇用者とフリーの収入差はさらに拡大するはずである。
【フリーの魅力は年収の多寡以外のところに広がる】
しかし、今も昔も、「稼ぎは実力次第」であることは、変わらない。
実力とは、(専門能力+営業能力+人脈力)×人間力 だと私は考えている。
ご存じのようにクリエイターやメディア関連の仕事に就くフリーの中には、
年収数千万円、あるいは1億円以上という人たちもいる。
雇われていては、簡単に手が届かない収入を得ることも不可能ではない。
しかし、フリーの本当の魅力は、年収以外のところに広がっている。
時間の拘束や場所の拘束は少なく、
雇用者よりフリーのほうが、ワーライフバランスを取るうえで確実に有利だ。
育児や介護といった家庭内の大事な仕事もある。
学び直しや、将来を見据えた「復業体験」も必要になってきている。
雇用契約や就業規則に縛られないフリーという働き方には、利がある。
【増加するフリーを見込んだ、数々のサービスも誕生】
一方、フリーになれば、
会計や税務申告などを自ら行わなければないないが、
近年は低額のオンライン会計サービスが広がっており、
大雑把に言えば、領収書をスマホで撮るだけで、
自動的に青色申告書や確定申告書が完成してしまうレベルだ。
また、以前はハードルが高かった銀行口座開設やクレジットカードの作成も、
今では「フリーランス歓迎」を謳うサービスが多数登場している。
さらに冒頭で触れたように、フリーは発注元との力関係では弱い立場にあるが、
報酬の支払い遅延や一方的な減額などを許さない新法も誕生する。
ただ、社会保障の点では、いまだ雇用者が有利なのは間違いない。
健康保険や年金についても、フリーが不利にならない制度改革が待たれる。
【最大の問題は、インボイス制度の導入】
そのうえで、フリーをめぐる重大事は、
やはり2023年10月から導入されるインボイス制度だ。
インボイス制度は、事業者が消費税を取引先に請求するためには、
国が発給した登録番号を請求書に記載するなど、
厳格な方式で請求書を発行することを義務づけている。
取引先にしてみれば、受け取った請求書がインボイスでない場合、
自らに課されている消費税額から、
受け取った請求書に含まれる消費税額を差し引くことができず、
結果、多くの消費税を納めることになるため、
取引先は発注相手にインボイスを発行するよう、要求するだろう。
ここに、大きな問題が潜んでいる。
【たとえ低年収であっても、消費税納付は免れない?】
消費税はご存じのように、消費者が納付するわけではなく、
取引を行った事業者が納付する。
ただし、全事業者が納税義務を負っているわけではない。
消費税を納付する義務を負う「課税事業者」とは、
前々年(法人なら前々年度)の売上高が1000万円を超える事業者であり、
売上高が1000万円以下であれば、原則、「免税事業者」となる。
前述の「全国就業実態調査」に基づけば、
年収1000万円以上のフリーはわずか2.5%であり、
消費税課税の基準である「1000万円超」は、それより若干減るだろう。
つまり、最低でもフリーの97.5%は、消費税の「免税事業者」に該当する。
ところが、上述したように、インボイス制度が始まることにより、
大半の取引先は、自らの消費税納税額を抑えるために、
フリーにもインボイスの発行を要求することが予想される。
そのフリーが年収1000万円以下の免税事業者であっても、である。
【国はフリーに重税を課さず、多様な働き方を育てていくべき】
結果、これまで消費税を納める必要のなかったほとんどのフリーが、
インボイス制度導入のために、あえて「課税」を選択することになる。
そういう流れだ。
しかも、課税事業者になった後に、
消費税率が15%、20%と上がっていけば、大変なことになる。
(すでに政府は消費税率アップの検討に入っている)
「いくら自由でも、これでは暮らせない」と、
フリーから雇用者に戻ろうとする人も出てくるだろう。
実際、コンテンツ業界向け就職支援事業を手掛けるワクワークは、
「インボイス制度が導入された場合、
アニメ業界で働くフリーの25%が廃業する可能性がある」、
という衝撃的なアンケート調査結果を発表した。
日本のキラーコンテンツとも言うべきアニメ業界すら、
存亡の危機に立たせてしまうインボイス制度……。
ようやく定着しつつある、フリーという、今の時代に適した働き方に、
インボイス制度は水を差し、貴重な働き手を、
あらゆる業界から追い出しかねない危険すら孕んでいる。
政府は、消費税免税制度を骨抜きにするような変更を慎み、
地道に仕事に励むフリーを、追い詰めるようなことをやめるべきだ。
日本経済と日本人の生活が活力を得るためには、多様な働き方を、
表面的にだけでなく、実質的に認め、守っていくことが必須である。
<一般社団法人起業支援ネットワークNICe 代表理事 増田紀彦>
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「つながり力で起業・新規事業!」メールマガジンVol.177
(2022.11.21配信)より抜粋して転載しました。
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