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厳しさを増す経済・経営環境に立ち向かうために、NICe増田代表理事が送る、視点・分析・メッセージ 。21日配信のNICeメルマガシリーズコンテンツです。
インチキクイズ(PB黒字化の罠)



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 「増田紀彦の視点 どうする?日本経済」

 第101回 インチキクイズ(PB黒字化の罠)

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【意外と引っ掛かる「学生3人宿泊クイズ」】

私が小学生の頃、こんなクイズが流行った。

「3人の学生が旅行に出かけ、1人1泊1万円の旅館に泊まりました。
旅館の主人は客が学生であることを知ると、
少し安くしてあげようと思い、
受け取った3万円の中から5000円を学生たちに返すよう、番頭に命じました。

ところが番頭は、5000円では3人で割り切れないからと理由をつけ、
5000円の中から2000円を自分の懐にしまいこみ、
残りの3000円だけを学生たちに返しました。

学生たちの支出は結局、2万7000円で済みました。
あれ? あれれ?
番頭がくすねたのは2000円です。
2万7000円にその2000円を足しても2万9000円にしかなりません。
最初は間違いなく3万円あったのに。
さて問題。消えた1000円は、どこへ行ったのでしょう?」。

こんな小さな数字の足し引きの問題にもかかわらず、
同級生たちは、答えを導き出すのに苦労していたことを覚えている。
というか、たまに思い出して、今でもこの問題を知人に出したりするのだが、
意外や意外、うーんと唸ったまま、考え込んでしまう大人も少なからずいる。

「数字を用いた理屈は必ず筋が通っている」。
と、多くの人が思い込んでいるから、
このクイズのような、数字を「悪用した」屁理屈に翻弄されてしまうのだ。

これがクイズのネタで終われば笑い話で済むが、
日本国民の生活や仕事に影響を及ぼすような悪用は、看過できない。


【政府が主張するPB黒字化とは何か?】

政府がかたくなに言い続けている、
プライマリーバランス(PB)黒字化目標の必要性を説明する理屈は、
まさに、子ども向けのクイズのトリックと同様である。
その理屈のおかしさを指摘する前に、そもそもPB黒字化とは何か、である。

ニュースなどでもしばしば耳にしていると思うが、
PBとは、国の基礎的財政収支のことで、
一般会計において、国債などの発行による収入以外の租税等収入(歳入)と、
同じく国債費を除く支出(歳出)がどうなっているかを示す概念だ。

PBがプラスということは、
国債発行に頼らず、国民や企業が納める税などで、
必要な支出がまかなえている状態を意味し、
反対にPBがマイナスということは、
国債などを発行しないと支出をまかなえない状態ということである。

したがってPB黒字化目標とは、
長く続く日本政府のPBマイナス状態を返上し、
国債に頼らずに支出ができる財政を確立しようという話である。

と、説明すると、むしろいい話のように聞こえるのではないだろうか。
まずは、それが問題だ。


【PB黒字化のツケを払うのは誰か?】

もう一度、上の説明を読み返してほしい。
「国民や企業が納める税などで、必要な支出をまかなう」のがPB黒字状態だ。
では、赤字状態からそこへ向かうためには、どのような手があるのか?
税収増と支出削減しかない。

つまり、国民からこれまで以上にお金を吸い上げ、
にもかかわらず、国民へのサービスは減らすという話だ。

実際、内閣府はPB黒字化のツケを、
国民と企業に肩代わりさせる試算をすでに公表している。
これが果たして「いい話」だろうか?

企業活動に例えてみる。
赤字続きで資金が逼迫している会社が、
1円たりとも融資を受けずに事業を継続しようと考えれば、
無理な値上げを顧客に要求する一方で、
賃下げや支払額の減額を仕入先に要求するしか手がない。
こんな無茶な経営をする会社が、長続きするわけがない。
それと同じことを、政府は実行しようとしている。


【国債=国民の借金、ではない】

こんな財政方針に、諸手を挙げて賛成する国民などいるわけがない。
そこで、無理を押し通すために政府が言い出したのが、
「借金を孫子の代に残すな」という変なスローガンである。
これを言い出して、かれこれ10年近く経つだろうか。

国債は、確かに借金である。
だが、借金をしているのは誰か?
私か? あなたか? あるいは、ほかの日本国民の誰かか?
違う。借金をしているのは、日本国民ではなく日本政府だ。

国債は国民が背負っている借金ではない。
だから、あなたの子どもや孫や曾孫が、
借金取りに追われることなど、絶対にあり得ない。

なのに政府は、
「政府は国民のための機関、だから政府の借金は国民の借金」。
という詭弁を用いて国債発行を悪者にし、
増税と緊縮財政を国民に納得させようとし続けてきた。
まさに、冒頭で紹介したクイズのような「インチキロジック」である。

そう言えば、クイズの正解をまだ書いていなかった。


【冒頭のクイズのカラクリ】

答え。いくら考えても、1000円の行き先が見つかることはない。
そもそも消えたお金など存在しないからだ。

このクイズで語られている出来事を表す計算式は、
30,000-(27,000+2,000)=1,000(この1,000が謎)ではなく、
30,000-5,000+2,000=30,000-3,000=27,000である。
要するに、最終的なお金の行き来を式にすると、
27,000(学生の支出)=25,000(旅館の収入)+2,000(番頭の収入)になる。
番頭のズルには問題があるが、計算上は、まったく問題がなかったのだ。
つまりこのクイズは、設問自体がインチキなのである。


【誰かの損と誰かの得の額は、必ず一致する】

さて、もう一度、上の式を書く。
27,000(学生の支出)=25,000(旅館の収入)+2,000(番頭の収入)。

このように等号(=)で結ばれた左側から右側を引いても、
右側から左側を引いても0になることを「ゼロサム」と呼ぶ。
計算式に直せば、-27,000+25,000+2,000=0である。

「合計(サム)すれば、ゼロになる」という意味であり、
すべての金銭取引は、必ずゼロサムになるようにできている。

クイズを例にすれば、学生、旅館、番頭の全員がプラスになることはないし、
もちろん全員がマイナスになることもない。
取引には、必ずプラスとマイナスがあり、
そのプラスの額とマイナスの額は確実に一致する。
それこそ「消えた○○円」など、絶対に起こらないのである。


【経済全体でもゼロサムは成立する】

この道理を経済全体に当てはめてみると、以下のようになる。

政府収支+家計収支+企業収支+外国収支=0。

したがって政府収支が黒字(プラス)になるということは、
残りの家計、企業、外国のいずれか、またはすべてが、
赤字(マイナス)になることを意味する。

そのマイナスすべてを外国に背負わせることができるなら、
日本政府も家計も企業も黒字になるが、そんなうまい話はない。

現状、外国側の収支は、日本に対してすでにマイナスで、
この額をさらに大きくすることは困難だ。

現に、日本はエネルギー資源や食料をはじめ、
多くの物資を外国から輸入しており、
それらの価格がことごとく高騰していることはご存じのとおり。
加えて、急激な円安の進行もあり、外国へ出て行く額は増える傾向にある。
結果、PB黒字化のツケを払うのは、
政府が試算しているとおり、家計と企業になる。


【目先の税収より、日本再成長のための政策努力を】

だが、政府がPB黒字化目標を撤回し、
国債発行で資金をまかない、大胆な財政出動(支出)を実行すれば、
賃金が伸びず、物価は上がり、円まで安くなっているこの状況であっても、
家計も企業も生き延びることができる。

生き延び、さらに豊かになれば納税もできる。

それを信じる勇気と、
それを現実のものにするための政策立案努力こそが、
政府と政治家に求められている。

無理な増税や緊縮財政を国民に強いて、
未来を構築する力を国民から奪ってしまっては元も子もない。

まずもって、「政府のマイナスは、国民(家計)のマイナス」、
というようなクイズばりの詭弁で、国民を丸め込むことは止めてほしい。
この言い分では、ゼロサムは成立しない。

経済の本当の仕組みを国民に伝えるよう、政府に望む。

<一般社団法人起業支援ネットワークNICe 代表理事 増田紀彦>

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「つながり力で起業・新規事業!」メールマガジンVol.163 
(2022.4.21配信)より抜粋して転載しました。
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