災害は、人間の力で防ぐ
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「増田紀彦の視点 どうする?日本経済」
第100回 災害は、人間の力で防ぐ
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【3月16日深夜の地震で思ったこと】
ちょうどベッドにもぐり込んだタイミングだった。
「あ、揺れている……」。
振動は微弱だったが、嫌な予感がしたのですぐに飛び起き様子を見た。
ほどなく、今度はハッキリ地震とわかる揺れが始まった。
長い……。
万一に備え、庭を抜けて道路の広い場所に逃げた。
ここなら建物や電柱などからの落下物もない。
近隣の建物のシャッターがぶつかり合う音がしばらく響いていたが、
大事に至らず、やがて揺れは収まった。
落ち着いてから周囲を見回すと、外に出ている人は誰一人いなかった。
私が暮らす東京のマンションはかなり古い。
ほかの建物の住人たちは、さほどの揺れを感じなかったのだろうか?
あるいは、私が町内で一番の臆病者なのだろうか。
そうかもしれない。
だが、災害を甘く見て生命を危険にさらすくらいなら、
臆病者と笑われても、無事でいられるほうを私は選択する。
そのうえで反省点もあった。
外に出る際、避難袋を持ち出せなかったことだ。
それらは避難経路とは異なる場所に置いてある。
自宅内で建物の倒壊があった時のことを考えて置き場所決めていたが、
それだけでは不十分だったと痛感した。
防災意識をもっともっと高くしなければ……。
ん? 防災意識? 「災害を防ぐ」意識?
【自然災害とは、自然を侮った結果の災害】
今の今まで疑問を抱いたことはなかったが、
よく考えると「防災」という言葉の意味は、簡単なようでそうでもない。
「災害を防ぐ」。そんなことができるのだろうか?
確かに台風を制御・消滅させる技術が研究されているとは聞くが、
地震活動や火山活動までをコントロールすることは、まず無理だろう。
そういう営みを続けるのが地球なのであり、
地球の存在があっての人間である以上、文句を言っても仕方がない……。
一旦はそう思ったが、よく考えると、
「地球の営み=災害」ではないことに気付いた。
地球の活動を、「災害」に変えてしまっているのは、私たち自身だ。
高い建物を建てたから、崩壊や倒壊、落下物衝突などの被害が拡大する。
ガス管や電線を広げたから、火災や爆発が起き、
橋梁やトンネルや高架をつくったから、崩落が起きる。
原子力発電所をつくったから、放射能汚染が起きる。
自然災害とは、自然現象に端を発しながらも、
人間が、その活動を軽視(無視)した社会や文化を築いたことによる損害だ。
であれば、私たちは災害を防ぐことができる。
人間が起こした問題なら、同時に人間が解決できるはずだ。
【「災害は防げる」と考えることが第一歩】
自然の力は本当に恐ろしい。
だからと言って、
「自然の前では、為す術がない」と、決めつけないことが肝心だ。
「どうせ勝てっこない」。
そういう考え方が、問題への対処や対応を鈍らせる。
大事なことは、
「難を逃れる手はある。少しでも被害を抑える手はある」。
そういう前向きな意識だ。
まさに、この意識こそが、防災意識ではないだろうか。
【「国など当てにしない」ではなく、「国を頑張らせる」べき】
新型コロナ感染症があり、急激なインフレがあり、戦争があり、
ほどなく資源価格の高騰に苦しめられるだろう日本……。
まさに内憂外患の真っ最中に、大きな地震が起きた。
私は揺れの収まった自宅に戻ってから、つくづく思った。
「政府が国民を助けるのは、容易ではないだろうな」と。
だが、それでも政府には頑張ってもらわなければならない。
容易ではないなら、今まで以上の努力をしてもらうしかない。
言い方を換えれば、国民から徴収した税を、
今こそ効果的・効率的に使う手立てを必死になって考えてほしい。
時折、「国に頼るな。自分の力で生きろ」と言い放つ人がいるが、
この言い分は、明らかにおかしい。
仮に、国がボランティアで国民を守っているというのなら、
確かに、そうそう国を頼りにするわけにもいかない。
だが、私たちは納税をしている。
というか、私たち国民が安全かつ幸福に生きるために、
政府を立て、税によってその仕組みを維持しているのである。
政府には、国民から受け取ったお金を、
災害対策、コロナ・医療対策、そして経済対策に惜しみなく投じてほしい。
「受け取ったお金が足りない」と言うのなら、
借金をしてでも、国民の生活と日本経済を守るべきだ。
そもそも受け取るお金が足りない(税収が少ない)のは、
政府の財政と経済政策の失策が招いたことだ。責任は取るべきである。
【戦争、コロナ、所得の減少。難問は山積みだが……】
とくに、私は災害対策に予算を大胆に投入してほしいと思っている。
もちろん、当面は、ウクライナ-ロシア情勢の影響で、
輸出入に関連する事業が大きなダメージを受けることは必至だし、
燃料や原料の価格高騰による企業の収益悪化や、
国民の実質賃金のさらなる低下も予測されるので、
これらをフォローするための施策は、言わずもがなだが必須だ。
また、コロナ禍と「まん防」の長期化により、
飲食店業や観光業をはじめ、様々な業種の経営が追い込まれている。
そのために失業者や所得減少者も増加の一途である。
こちらも軽視することなく、支援の継続と対策の強化を実現してほしい。
ちみなに3月3日に開催された政府の経済財政諮問会議の席上、
内閣府が衝撃的な数字を公表した。
約20年前との比較で、
35歳から44歳の世代では年間所得が104万円減少し、
45歳から54歳の世代では184万円減少していたという。
しかも45~54歳は所得1000万円以上世帯が約17%から約8%に半減。
反対に200万円以下の世帯は3倍近くに増えたそうだ。
この状態で物価高に見舞われれば、
生活が成り立たなくなる国民が続出する危険性すらある。
「だから岸田政権は企業に分配をと訴えている」と言うかもしれない。
しかし、企業は市場の成長を確信しない限り、簡単に分配はしない。
経済対策の中核に、誰もが胸躍るような成長計画を据えてほしい。
それで初めて分配の議論が俎上に乗ると考えるべきだ。
【天災は、忘れても忘れなくても、必ずやってくるのだから】
しかし、中長期で考えれば、
やはり日本と日本経済にとっての最大の障害は、自然災害である。
繰り返しになるが、自然災害とは、
我々が地球の営みを甘く見た結果起きる、甚大な損害のことだ。
人間が生み出した災害は、人間が防がねばならない。
人間しか防ぐことができない。
日本列島は間違いなく地震活動の活発期に入っている。
国土強靱化や建造物耐震化・免震化で、できる限りの防御を図ること。
避難計画の緻密化と避難訓練の充実を図ること。
そして、災害関連死を抑えるため、避難生活の質の向上を図ること。
何より国民の防災意識を高めるための施策を確立し、
全国民が教育・訓練・備蓄に本気で取り組むようにし、
合わせて防災計画のみならず、復旧計画や復興計画を立案できる人材を、
一人でも多く輩出するためのプログラムを用意してほしい。
もちろん、政府任せでいい訳がない。
政府と企業と家庭がひとつになってこそ、日本を守ることができる。
言い換えれば、我が身は我が身で守るという覚悟、
我が社は我が社で守るという覚悟があればこそ、
「あんたたちも頑張ってくれ」と政府を叱咤できるのだ。
コロナや戦争が気になる昨今だが、
だからこそ、災害の脅威を忘れず、備えを怠らないようにしたい。
災害は、人間の努力で防げるのだから。
<一般社団法人起業支援ネットワークNICe 代表理事 増田紀彦>
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「つながり力で起業・新規事業!」メールマガジンVol.161
(2022.3.22配信)より抜粋して転載しました。
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