2022年を「デジ・アナ元年」に!
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「増田紀彦の視点 どうする?日本経済」
第97回 2022年を「デジ・アナ元年」に!
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【読解力が問われる、IKEAの組み立て説明書】
かれこれ10年ほど前か、オフィスを移転した際、
重たい金属製のキャビネットを整理し、
代わりに、IKEAの木製家具を買い求めた。
ご存じのように、IKEAの家具は購入者自身が組み立てるのが原則で、
その分、価格も抑えられている。
シンプルなボックス家具なら、完成まで10~20分もあれば十分だが、
スライド式の引き出しなどが付く家具だと、そうすぐにはでき上がらない。
いや、作業そのものが難しいわけではない。
「組み立て説明書」を読み解くのが一苦労なのだ。
なんせ、説明書と言いながら、言葉での説明がまるでない。
世界中に展開するIKEAにすれば、
各国語での説明を記載するだけでも、手間とコストが跳ね上がる。
だから全編、「文字無し図解のみ」で仕上げている。
例えば「ネジを3本、ここの穴に差し込め」という指示だとすると、
T T T ------------→ ●●●
といった感じの絵が書いてあるだけ。
それらの指示を一つ一つ理解してから作業を進めるので時間がかかる。
だが、完成した暁には、完成自体の喜びに加え、
「あの、少ない情報から、よくぞ正解を見つけ出したものだ」という、
別種の喜びが胸に広がるのである。
【あえて、「商品進化論」の逆を行く】
客に面倒を強いるIKEAのビジネスモデルは、
世の中の「商品進化の道筋」からは、逆を行くものだ。
例えば、鯛まるごと一尾という商品がある。
これを購入し、下処理から始めて料理を仕上げるには、手間がかかる。
だから、スーパーなどでは、
ウロコやワタを取り除き、すぐに調理できるようにした商品を置いているし、
さらに、調理自体も面倒という人のために、
塩焼きにした状態の商品まで普通に用意している。
商品の変遷は、いかに消費者の手間を省くかの歴史と言っていい。
だからIKEAは、いわゆる「逆張り」なのだが、それが功を奏している。
前回のNICeメルマガのコラム「不便益」を読まれた方なら、
「ああ、あの話の続きだな」とピンと来たはず。
IKEAの家具は、まさに不便益商品である。
【「7つの不便」と「7つの益」】
この不便益概念を確立した川上浩司教授に、心から感謝したい。
川上教授は著書の中で、
「益を生みやすい12の不便と、不便から得られる8の益」を紹介しているが、
その後、この研究に博報堂も加わり、企業のマーケティング事例に照らし、
「益を生む手段としての7つの不便」と、
「不便から得られる情緒的な7つの益」を抽出している。
ちなみにIKEAが提供している不便は、
7つの不便の一つ、「情報を減らせ」に該当する。まったくもってその通りだ。
なお、残りの不便は以下の6つ。
・操作数を多くせよ
・操作量を多くせよ
・限定せよ
・劣化させよ
・無秩序にせよ
・アナログにせよ
では、これらの不便は、どのような益をもたらすのだろう?
それを書いてしまったら、
皆さんから、探し当てる不便益を奪ってしまうので割愛(笑)。
さて、上記の「7つの不便」、すべてが興味深いが、
その中でも、ある意味もっともホットなのが、「アナログにせよ」だろう。
なんせ、今や国を挙げて「デジタルにせよ」なのだから。
【出た! 岸田政権の「デジタル田園都市国家構想」】
「新しい資本主義の主役は地方です」。
岸田首相は所信表明演説の中で、そう言い切った。
もう、何年、いや何十年も、ことあるごとに政治家は、
「大事なのは地方」「変革は地方から」と言い続けてきたが、
では、どうするのかと言えば、地方自治体にお金をまくばかりで、
国が主導する施策など、無きに等しいものだった。
だが、今回の首相の「一言」が元気なのは、
国が地方活性化を主導できるネタをついに握ったからだ。
「デジタル化推進」である。
首相の演説を引用する。
「4.4兆円を投入し、地域が抱える人口減少、高齢化、産業空洞化などの課題を、
デジタルの力を活用することによって解決していきます」。
【デジタル化は、地方分権の敵か味方か】
だが、ひねくれ者の私は、この言葉を聞いて、
デジタルの力で地方を「都会並み」の環境にすることができると、
言っているように感じてしまった。
都会=便利。地方=不便。
この図式にデジタルを加えると、都会=便利=地方に化学変化すると。
仮に首相の言葉が、
「地域の課題を解決したり、地域の個性や強みを伸ばしたりするために」、
という切り口なら、私が抱いた印象も違ったかもしれない。
「いや、それでも……」と、また反問が浮かんでくる。
果たしてデジタル化で、地域の個性や強みを伸ばせるのかと。
首相の説明によれば、日本を周回する海底ケーブル網を構築し、
各地に設置する大規模データセンターや光ファイバー、5Gと組み合わせ、
日本中、どこにいても高速大容量のデジタルサービスを使えるようにする。
そのうえに立って、
自動配送、ドローン宅配、遠隔医療、教育、防災、リモートワーク、
スマート農業などのサービスを実装していくという。
やはり不便が解消され、地方でも便利な暮らしを享受できるという話だ。
もっともかもしれない。
デジタル化の本懐は、対象の個別特性を超えて、
一律的に同質のサービスを提供できることであり、
国としては、A地域とB地域の「格差」を解消できれば成果なのだから。
言い換えれば、
デジタル化とは、中央集権が機能しやすい社会体制を築く取り組みだ。
極論すれば(いや、極論ではないかもしれない)、デジタル化の行き着く先は、
地方分権という考えそのものを陳腐化させる可能性すら孕んでいる。
「日本中どこにいても」という言葉の先を考えれば、そうなるはずだ。
【Zoomも大事、寄り合いも大事の姿勢】
もちろん私は、そんな社会にかけらも魅力を感じない。
「同質的な利益」にばかり目を奪われて、
多様性がもたらす地域の魅力を忘れることがあってはならないと思う。
では、私たちはどう考えればいいのか?
ここであらためて、不便益の出番である。
デジタル=便利。アナログ=不便。
この図式は正しいとしても、
デジタル=便利=有益、アナログ=不便=無益、とは限らないのである。
地域社会は、デジタルの恩恵を享受しつつ、
意識してアナログを選択したほうが良いことを探り出し、
それを維持し、それに習熟し、それを誇る風土と仕組みを築くべきだ。
そうでなければ、その地域はよその地域と何一つ違いがなくなってしまう。
実際、遠方の人々とのコミュニケーションはオンラインで、
地域の人々とのコミュニケーションは寄り合いで……。
そのような使い分けができている人は多いはずだ。
その精神、その発想を、あらゆる分野に持ち込みたい。
デジタル化が進めば進むほどに、意識してアナログの持つ不便益を理解し、
バランスを崩さないようにすることが、地域の魅力を守る方策だ。
【ゴミ箱ロボットに学ぶ、ほどほど便利・ほどほど不便】
さらに言えば、便利益と不便益を融合させることができれば、
より理想的な社会を実現できると私は考えている。
豊橋技術科学大学が開発した「ごみ箱ロボット」が素晴らしい。
このロボット、落ちているゴミを見つけはするが、
自分では拾わず、ただ、ボディを揺らすだけ。
その動きに気付いた人がゴミを拾い、ゴミ箱ロボットに投げ入れると、
うやうやしくお辞儀をしてくれる。
「ほどほどに便利で、ほどほどに不便」。
ロボットが体現するこのデジ・アナ感を、
暮らしや仕事の様々な場面に応用できるのではないだろうか。
国がデジタル化構想で便利の益を提供してくれるなら、
地方や地域はアナログ化構想で不便益を確立し、
それを融合させていくプランを練り上げていくと面白い。
ああ、ワクワクする!
きたる2022年を、そんな高いレベルでの「日本デジ・アナ元年」にしたい。
<一般社団法人起業支援ネットワークNICe 代表理事 増田紀彦>
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「つながり力で起業・新規事業!」メールマガジンVol.156
(2021.12.21配信)より抜粋して転載しました。
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