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厳しさを増す経済・経営環境に立ち向かうために、NICe増田代表理事が送る、視点・分析・メッセージ 。21日配信のNICeメルマガシリーズコンテンツです。
あえて哲学



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 「増田紀彦の視点 どうする?日本経済」

     第95回 あえて哲学
 
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【1年間の所得アップが5%なら、20年連続でやっと倍増】

岸田総理が自民党総裁選の際、「令和の所得倍増」をブチ上げた。
一定の年齢以上の読者には、懐かしいキャッチフレーズかもしれない。

政府が最初に所得倍増計画を打ち出したのは、今から60年前。
ときの政権、池田内閣のもと、
10年間で実質国民総生産を26兆円にまで倍増させることを目標に、
官民一体となって、それこそ命懸けで稼ぎに稼ぎまくったのである。
結果、日本経済は高度成長を遂げ、見事、目標を達成した。

それと同じことを、今からやるという。
仮に今年から来年にかけて国民の平均所得が10%上がるとする。
この数字自体、夢のような話だが、それを10年続けないと倍増はしない。
5%アップなら20年、3%なら30年以上だ。
「倍増」が、いかにとてつもない目標であるかがわかるだろう。


【所得を倍増させるには、市場規模の倍増が前提】

それでも「やる」というのなら、
これだけの所得をもたらす巨大な市場を生み出し、育て続けるしかない。
そのタネを、かつてのように官民一体で探し出し、
PB黒字化などというケチなしばりとキッパリ訣別して、
政府が、そのタネを育てるために積極的な財政出動をするべきだ。

岸田総理が口にする、「新自由主義的な資本主義のあり方の見直し」とは、
まさに、政府が真剣に産業に関与する、
いや、関与ではぬるい。
政府が真剣に産業に参加するという意味である。

本気でそれをやるのか?
本当に期待していいのか?

「文字通りの『所得倍増』というものを指し示しているものではなく、
多くの方が所得を上げられるような環境を作って、
そういう社会にしていきたいということを示す言葉」と山際経済再生大臣。

本気じゃなかった(笑)。

とはいえ、今月末にはさっそく衆院選があり、
その結果を待って、新たな政権の経済政策を見ていくのが筋だ。
ここは、しばし待つしかない。


【選挙前の時間を活用して、資本主義の根本を少し覗いてみる】

というわけで、今回のコラムは、
時事的な要素は薄くなるが、選挙までの束の間の時間を活用して、
国民(労働者)の所得が倍増するなり、しないなり、
といった現象をもたらす資本主義の根本を覗いてみたい。

では、どのような道具を使って覗くのか?

哲学である。

以下は、少し前に私が別の場所に掲載したコラムの引用になるが、
こういう「ふわふわした時代」にこそ、
こういうハードな視点も必要ではないかと考えた次第である。

哲学だけに、
何を言っているのかわからないような文章が冒頭に出てくるが、
そこは我慢して、ぜひ、最後まで読み通して頂きたい。
あなたの中で、きっと、何かが弾ける音がするはずだ。


【いわゆる『経哲草稿』の衝撃】

「資本家が儲けた場合、必ずしも労働者も儲かるとは言えないが、
資本家が損をした場合は、間違いなく労働者も損をする」。

おおむね、こんな内容だったと記憶している。
カール・マルクス著『経済学・哲学草稿』(岩波文庫)の中の記述だ。

私が本書を手にしたのは、高校2年生の夏休み前だったと思う。
いやはや、難しかった。
そもそも主張の概念が容易に理解できないのに、
訳文が古く、言い回しも単語も難解なため、
一節を解釈するのに1時間、2時間とかかる箇所もあった。
(それでも解釈しきれないことが大半)

たとえばこんな感じである。
「人間は、自然存在であるばかりではなく、人間的な自然存在でもある。
すなわち、人間は自己自身に対してあるところの存在であり、
それゆえ類的存在であって、人間はその有においても知識においても、
自己をそのような存在として確証し、実をしめさなければならない」……。

いや、例として挙げたこの部分などは、まだわかりやすいほうかもしれない。

こんな読解困難箇所のオンパレードの中で、唯一スッと頭に入ったのが、
冒頭に紹介した資本家と労働者の関係を表した部分だった。

青年特有の、金持ちや権力者に対する反発心がそこを捉えたと思うが、
ある程度学習を進めていくと、
この事象は、資本主義の宿命であることがわかっていく。


【労働力は、他の資源と等しく、お金で買えるもの】

資本主義は、資本を投じて生産し利潤を得ることで資本を増殖させ、
さらに増殖した資本で再び生産を行う……という繰り返しで成り立つ。

では、資本と何か?
工場や機械、原料やあれこれ、そして労働者である。
つまり、利潤を生み出すために必要なもろもろの資源の集積だ。

その資源は、すべて金銭によって調達することが可能である。

ゆえに、資源は商品であり、したがって労働者も商品となる。
どの商品を買うか買わないか、買うとして、いくらで買うかの判断は、
すべて資本の増殖に責任を負う資本家の手に委ねられており、
商品である労働者が、口をはさむ余地などない。

つまり資本主義は、人間が人間として存在するために備わった労働力を、
木や鉄などの自然物から生み出された商品と同様だと考える。
これでいいのか? 良いはずがない。というのがマルクスの問題意識だ。

「ああ、哲学とはこういうものか」と、青年増田は感銘を受けた。


【世界は、確実に未知の領域に進み始めている。だから……】

時代はいま。

あのグーグルやアップルが著名な哲学者を顧問として迎えたり、
哲学の専門家をフルタイムで雇用したりしていることが知られてきた。

欧米では、哲学専攻に優秀な学生が多く集まるという事情もあるが、
それより何より、時代の先端を走る企業にとっては、
容易に答えの見つからない課題に立ち向かうスキルが不可欠だからだ。
それは取りも直さず、
現代世界が未知の時代へと突入し始めていることの証である。

すでに日本でもリクルートやライオンなどが、
ヴィジョン構築や企業課題解決といった分野で哲学の導入を始めている。

産業革命によって急速な工業化が進んだ時代にマルクスが現れ、
経済学と哲学を用いて人間解放の思想を生み出したように、
AIが世界を席巻するようになった今日もまた、
未知の領域における人間のありようを探る必然性が生まれたのだ。

分析哲学の大家、ルートヴィヒ・ヴィトゲンシュタインは、こう言う。
「哲学は学説ではなく、活動である」。

だから時代のリーダーたちは、本気で哲学の力を希求している。

(一般社団法人起業支援ネットワークNICe 代表理事 増田紀彦)


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「つながり力で起業・新規事業!」メールマガジンVol.152
(2021.10.25配信)より抜粋して転載しました。
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