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厳しさを増す経済・経営環境に立ち向かうために、NICe増田代表理事が送る、視点・分析・メッセージ 。21日配信のNICeメルマガシリーズコンテンツです。
中小企業の皆さん、もっと政策に関心を!



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 「増田紀彦の視点 どうする?日本経済」

第94回 中小企業の皆さん、もっと政策に関心を!
 
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【自民党総裁選のおかげで聞こえてきた経済対策方針】

テレビの報道番組は自民党総裁選一色だ。
結局、テレビ局にとってコロナも総裁選も台風も弾道ミサイルも大谷も、
「ネタでしかない」と、わかってはいるが、やはりため息が漏れる。

ただし、思わぬ「儲け物」もあった。

本質的にはテレビ局のヒットではなく、自民党の「手柄」だ。
もし、菅首相の世間ウケがよく、菅続投で総選挙に向かっていたとしたら、
連日報道される総裁候補たちの政策を耳にする機会はなかった。

とくに、各人の経済対策方針が比較できたことは、望外の成果だ。

外交や防衛、コロナ対策など、話題になりやすいテーマに比べ、
政治家が経済を語るシーンは、なかなか目にすることができず、
しっかりアンテナを立てていなければ、
政治家が、日本経済をどの方向に持っていこうとしているのか、
そのためにどんな政策を展開し、どんな施策を想定しているのかなどの情報は、
容易に耳に入ってこないのが実態だ。

現に、菅政権が打ち出した中小企業の再編策は、
日本経済にとっても中小企業経営にとっても大変な方針転換なのだが、
この1年、あちこちで出会ってきた経営者たちの中には、
政府がそういう方針を打ち出したことすら知らない人が少なからずいた。


【政策は、SWOT分析を進めるうえでの重要要因】

日本の中小企業経営者は、政策と自社を紐付けることが不得意な印象がある。

最近、事業再構築補助金に関するセミナーやコンサルを行う機会が増えている。
その際私は、「再構築計画には徹底したSWOT分析が必要」と訴えている。

自社の強みと弱み、加えて自社を取り巻く機会や脅威を抽出し、
ある強みとある機会を掛け合わせることで新規事業を計画することが、
補助金申請に当たっての必須条件だからだ。

なので私は経営者たちに対し、
自社の強み、弱み、機会、脅威を細大漏らさず書き出すよう伝えている。

ところが、強みや弱みはそこそこ書けても、
機会や脅威を言葉にできない人がかなりいる。
また、強みと機会を混同してしまう人も少なからずいるのである。

強みと機会の違いについては、こんなふうに説明すればわかるだろうか。

コロナに関連して業績を伸ばした企業がある。たとえばタオルの製造会社。
その企業は、コロナ急拡大によるマスク不足という機会(外的要因)と、
自社が培ってきた縫製技術という強み(内的要因)を掛け合わせたから、
新商品を生み出し、業績を伸ばすことができたのである、と。


【政府の施策を日常的にチェックしてチャンスを掴む企業も】

経営者は自社の外で起きていること、今後起きそうなことに、
広く目を配り、それらが自社の事業や経営にどう影響するのか、
どの程度影響するのかを、よくよく考えるべきである。

そして、「外で起きていること」の重要な項目のひとつに経済政策がある。

今回の事業再構築補助金を例に挙げれば、
補助対象となる費用は、設備か建物かシステムに関連した支出である。
ということは、補助金を活用してそれらを購入する企業が増加するため、
機械メーカーや設備販社、建設会社、システム会社にとっては絶好の追い風になる。
つまり、事業再構築補助金制度は、これらの企業にとっての「機会」である。

実際、秋田県のとある建築設計会社は、
政府の補助制度をチェックし研究することを業務にするスタッフを抱えており、
「これ」という制度が発表されれば、すぐさま見込み客に連絡し、
「今なら費用の3分の2は国が出してくれますよ」と営業をかけているのである。
もちろん、煩雑な申請書類の作成も支援する。見事な「機会」の活かし方だ。


【高市候補のPB凍結発言にビックリ】

自民党総裁選に話題を戻す。
9月29日に投開票が行われる同選挙には、ご存じのとおり、
岸田文雄議員、河野太郎議員、高市早苗議員、野田聖子議員の4氏が立候補した。
各人の経済対策についてはこのあと触れるが、
先に、今回の総裁選報道の中で、もっとも驚いたことを紹介したい。

9月11日に放送された、日本テレビの「ウェークアップ」に、
河野氏と高市氏が生出演したのだが、先に順番が回ってきた高市氏が、
一瞬、耳を疑うような発言を行ったのである。

「PBを凍結して、大胆な財政出動を行います」と。

こんな正論を堂々と口にする人が自民党にいるとは思わなかった。
いや、私が不勉強で高市氏の考えを知らなかっただけかもしれないが、
恐らくそれは私一人ではないはず。
だから総裁選(とその報道)には、想定外の価値があったというわけだ。

高市氏が言うPB凍結とは、政府・財務省が押し進めている、
PB(プライマリー・バランスの健全化=財政健全化)を一時的に凍結し、
財政収支が大きく赤字に傾いてもかまわないから、
財政出動、つまり政府がどんどんお金を出していく、という政策である。

熱心な読者の中には、
「それって増田が言っていることと同じ」と思った方もいるだろう。
何も私に限らず、日本経済の活況を考える人であれば、皆同じことを言う。

ただし、政治家はそれを言いにくい。
緊縮財政(税収は上げるが、歳出は絞る政策)を「是」とする財務省と、
真っ向から対立することになってしまうからだ。
だが、高市氏は「財務省を説得する」とその番組内で明言した。

一方で高市氏は安倍路線の継承も掲げている。
端的に言えば、財政出動はデフレ対策、安倍路線の構造改革はインフレ対策である。
その相反する政策にどう整合性を持たせるのか、詳しい説明がほしい。


【岸田候補も脱・新自由主義を掲げて財政出動を公言】

高市氏同様、財政出動に積極的なのが岸田氏である。
「これまでの新自由主義的政策を転換し、新しい資本主義を構築する」。
岸田氏は、そこまで言い切った。

岸田氏といえば、特別定額給付金の一律10万円支給を押した人物として、
すでに財政出動派の印象があるが、あらためてこの総裁選で、
新発国債を財源に思い切った財政出動をすると語り、その姿勢を鮮明にした。

そこまで言うなら、消費税などのあり方にもメスを入れるべきだが、
「税率を上げることはしない」程度の発言にとどまっている点は惜しい。


【河野・野田両候補は緊縮財政堅持のうえで、両氏「らしい」方針を公表】

一方、前評判の高い河野氏は、前出の両氏とは反対に、
緊縮財政・構造改革を維持する姿勢で、財政出動に踏み切る考えはない様子。

河野氏の経済対策方針は、DXやグリーンイノベーションの推進を通じて、
日本のグローバル展開=「日本の稼ぐ力」を強化するというものだが、
これはすでに経済産業省の既定路線であり、特段の真新しさはない。

ただ、「地方でも東京の賃金体系で働ける社会に」という主張には興味がある。
オンライン活用を前提とした提案だと思うが、
オンラインには、生産性の低下をもたらす傾向があることも知られてきた。
その課題をどう克服するのか、ぜひ妙案を期待したい。

野田氏も財政に切り込む方針は打ち出していないが、
野田氏が所見発表演説会で多くの時間を割いて強調した、
人口減少問題対策や、教育をはじめとした子どもたちへの投資が、
経済にとっても重要だという意見は、まったくそのとおりだと思う。

できれば、子どもたちに対して、どのような投資を行うと、
将来、どのような日本経済が生まれるのかについても語ってほしい。

以上、大雑把ではあるが、自民党総裁候補4氏の経済対策を比較した。
誰が次期総裁に選出されるか、もちろん私の知るところではないが、
誰が選ばれるにせよ、中小企業経営者は、新たな政権の経済政策が、
自社や業界に、どう影響するのかをしっかりチェックし、
その流れが、自社の強みや弱みにどうかかわるのかを本気で分析してほしい。
企業成長のカギは「強み」×「機会」である。

<一般社団法人起業支援ネットワークNICe 代表理事 増田紀彦>


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「つながり力で起業・新規事業!」メールマガジンVol.150
(2021.9.21配信)より抜粋して転載しました。
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