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厳しさを増す経済・経営環境に立ち向かうために、NICe増田代表理事が送る、視点・分析・メッセージ 。21日配信のNICeメルマガシリーズコンテンツです。
トリアージとリストラを超えて



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 「増田紀彦の視点 どうする?日本経済」

 第86回 
 トリアージとリストラを超えて
 
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【すでに始まっているトリアージ】

新型コロナウイルス感染症患者が急増し、いよいよ医療体制が逼迫してきた。
日本医師会会長の言葉を借りれば、「崩壊」どころか「壊滅」だという。
実際、東京都をはじめとした多数の感染者が出ている地域では、
もう、院内トリアージが始まっている。

トリアージとは、患者の重症度に基づいて治療の優先度を決定し、選別すること。
助かる見込みのない患者や軽症の患者よりも、
処置を施すことで命を救える患者を優先するための方法だ。

むろん平時なら、すべての患者に出来うる限りの治療を施すのが医療倫理だが、
大規模な災害や事故などの発生により、
治療に当たる人員や資材・機材に不足が生じている場合は、
このトリアージを導入することが多い。
その「最後の手段」が、新型コロナ感染症の拡大によって広がり始めている。


【トリアージが機能しないほどの混乱状況】

ところが現状は、このトリアージさえ機能していない。
入院治療が必要との判断が下されながら、それができない状況が増えている。

東京都内では1月16日時点で、人工呼吸器かECMOを使う重症患者は136人。
しかし、この人たち以外に生命の危険がありながら、
こうした積極的治療を行う予定のない人が、同日時点で100人近くに上ったという。
基礎疾患を抱えた高齢者が、自宅待機のまま死亡したケースもあった。

ご存じのとおり、基礎疾患のある人や高齢者は、症状の軽重にかかわらず、
つまりトリアージ以前のこととして、入院による治療が原則だが、
病床不足(医療人員不足)により、
受け入れ可能な病院を探すうちに手遅れになってしまうのである。


【「命の選別」を医師個人に押しつけること】

だが、問題の深刻さは、
入院させる、させない、できる、できないといった話だけに止まらない。

人工呼吸器やECMOの数と重症患者の数とが逆転すれば、
「AさんからECMOを取り外して、Bさんに使う」という状況が現出する。
その結果、言わずもがなだが、
奇跡でも起こらない限り、Aさんの命はほどなくついえる。

無論、Aさんは回復の見込みが立たない状態であり、
Bさんは処置すれば、回復可能と判断できることが前提だ。
悲しいが、トリアージは、合理的な考え方だと言わざるを得ない。

とはいえ、実際にその判断を下す立場になったらどうだろう。
「未必の故意」とまでは言わないが、
トリアージは、特定の患者の死を確定させてしまう。

現場の医師個人に、その重い判断を押しつけたままでいいのだろうか。

今年に入り、東京都杉並区の田中区長が、
トリアージのガイドライン策定を小池知事に要望したとのニュースが流れた。
まったく同感だ。

むろん、ことは東京都に限った話ではない。
厚生労働省はコロナ関連トリアージのガイドラインを早急に作成し、
トリアージに躊躇する医師の背中を押しつつ、
医師の心理的負担を軽減できるようにしてほしい。

私はもちろん医師ではないし、トリアージの経験などあるはずもないが、
「命の選別」に似た行為を何度か経験したので、それを強く願う。

私の経験とは、従業員の馘首である。
生命そのもの選別と、雇用の選別とでは同列に語れないとは思うが、
突如クビを切られることになった従業員の苦しみも、
それを断行する経営者や管理者の苦しみも筆舌には尽くせないほど重いものだ。


【樹木は、冬を乗り越えるために葉を落とすというが】

バブル崩壊で日本中が大混乱に陥っていた90年代前半、
私はとある証券会社が主催した経営者向けセミナーに出席した。
そこで演台に立ったのは、まさかの植物学研究者だった。なぜ植物?

「冬になると落葉する樹木がたくさんあります。
あれは、落とされているのではなく、自ら落としているのです。
生育に厳しい冬の環境下で、エネルギーを出来る限り消費しないためです」。

「植物の葉は大きくなりますが、全体が大きくなっているのではありません。
葉の中の成長点細胞と呼ぶ一部分だけが大きくなり、
ほかの細胞は何も変化しません。
ですので、成長点細胞を切ってしまうことはマイナスですが、
そうではない細胞を取り除いても、問題はありません」。

要するに、リストラは組織が生き延びる上で必要な行為であり、
組織の成長点細胞(優秀な人材)とそれ以外をしっかり見極めて、
リストラを実行することが肝要だと言っているのである。

非常に興味深い講演だった。
とはいえ、感情のある人間と、そうではない植物とを一緒にはできない。


【2人のうち、どちらか1人をクビにする……】

解雇の理由が従業員の側にあるのなら仕方ないが、
不況による業績悪化などの理由でのクビ切りは、本質的に理不尽だ。
しかも、不況だから再就職も困難。
それがわかっていて、辞めさせるのだ……。

私もその当時、それなりの数の従業員を整理した。
誰を残し、誰を切るのか?

AさんはBさんより、やや評価が落ちる。
しかし、Aさんには受験を控えた子供がいて、住宅ローンも残っている。
一方、Bさんは独身で生活も楽だが、仕事はできる。

でもAさんとて、仕事ができないわけではない。
どうする? どちらも切れない……。

なら、両者を活かすために新規事業を起こせないか?
無理だ。そもそも2人とも、その新規事業開発部門で雇用した人物。
そこが思うような結果に至らなかったから、こうなっている。
だったら、いっそ2人とも辞めてもらうか……。
それでは業務が維持できない。どうする? どうする?

ええい、こうなったらアミダクジだ。
何をふざけたことを……。さあ、考えろ。どうするんだ?

深夜になり、さらに空が白み始めても寝つけない日が、どれだけ続いたか。


【リストラを行うことの精神的負担を甘く見てはいけない】

もちろん最後は決断する。
決めた以上は揺るがない。
泣かれても脅されても殴られても揺るがない。

悲壮な覚悟で、私は、一人また一人とクビを切っていった。
切ったクビから吹き出した鮮血で、私の心はいつも真っ赤だった。

死ねるものなら、むしろ私が死んでしまいたかった。
切る側の苦しみも、生半可ではない。

読者の中には、今まさにリストラ実行中という方もいるだろう。
あるいは近々そうせざるを得ないと考えている方もいるだろう。
それをせずに済む手を打てるのなら、それが一番だ。
まずは雇用調整金をしっかり活用したい。
安易な解雇や雇い止めは厳に慎むべきである。


【苦しみを一人で抱え込まないでほしい】

しかし、どうにもならないのなら、リストラを断行するしかない。
が、どんなに強がっても、クビを切った側の心も傷つく。確実に。

もし、苦しい胸中を抱えている人がいるなら、
一人で抱え込まず、誰かに話をして欲しい。
相談相手がいないのであれば、
私に話しかけてもらっても結構だ。
医師の力にはなれないが、経営者の力になら、少しはなれると思う。

医療の世界ではトリアージが始まっている。
そして私たちビジネスの世界には大リストラが迫っている。
新型コロナウイルス感染症は本当に脅威だ。

でも……と、私は思う。
日本中がこんな苦しい判断をするのだから、
私たちの社会は必ず強くなる。豊かになる。
そして痛みを知るがゆえの優しさに溢れる社会になるはずだと。
そう信じ、そう口にし、そう励まし合って、未来に進んでいきたい。

<一般社団法人起業支援ネットワークNICe 代表理事 増田紀彦>

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「つながり力で起業・新規事業!」メールマガジンVol.134
(2021.1.21配信)より抜粋して転載しました。
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