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厳しさを増す経済・経営環境に立ち向かうために、NICe増田代表理事が送る、視点・分析・メッセージ 。21日配信のNICeメルマガシリーズコンテンツです。
あなたの会社の価値を決めるのは誰?



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 「増田紀彦の視点 どうする?日本経済」

 第83回 
 あなたの会社の価値を決めるのは誰?
 
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【中小企業や小規模企業の法的な定義】

私たちは日常的に「中小企業」という言葉を口にするが、
その言葉の法的根拠について理解しているかと問われると、心許ない。

ご存じの方もいると思うが、中小企業の定義は、
中小企業基本法第2条に示されている。
同条には、中小企業と合わせて小規模企業についての定義も示されている。

●中小企業
1.製造業、運輸業、建設業
資本金(出資金)3億円以下もしくは従業員300人以下の会社及び個人
2.卸売業
資本金(出資金)1億円以下もしくは従業員100人以下の会社及び個人
3.サービス業
資本金(出資金)5000万円以下もしくは従業員100人以下の会社及び個人
4.小売業
資本金(出資金)5000万円以下もしくは従業員50人以下の会社及び個人

●小規模企業
1.製造業、運輸業、建設業、卸売業
従業員20人以下の会社及び個人(資本金・出資金要件なし)
2.サービス業・小売業
従業員5人以下の会社及び個人(資本金・出資金要件なし)

中小企業と小規模企業の区分は以上のようになっており、
これらに該当しない企業が大企業ということになる。

こうした企業の区分は、優遇税制の有無や度合い、
補助金や助成金の対象か否かなどを決める線引きとして用いられている。


【硬直的な企業規模区分が不公平を生んでいる】

例えば、中小企業庁が実施する「小規模事業者持続化補助金」は、
小規模企業の商品開発や販路開拓、生産性向上などに対して、
費用の3分の2を補助する使い勝手の良い制度であり、
今年度は「コロナ特別型」も急遽設けられたので、
この制度を活用して救われた企業も少なからずあったと思う。

が、制度利用対象は、その名が示す通り、小規模事業者(企業)に限定される。
つまり、製造業、運輸業、建設業、卸売業などであれば従業員20人以下の企業、
サービス業や小売業であれば従業員5人以下の企業が対象要件だ。

したがって、従業員が6人いる飲食店はサービス業なので対象外。
しかし、弁当屋は10人でも20人でもOK。なぜなら弁当屋は製造業だからだ。
正直、釈然としない線引きである。
線はどこかで引かなければならないことは理解できるが、
かたや20人、かたや5人は、
さすがに昨今の日本の業種傾向に照らしても不公平な印象は否めない。

長引くデフレと頻発する自然災害、それに加えてのコロナ禍である。
硬直的な線引きは見直すべきだと思っていた。


【日経が報じた、まさかの中小企業改革方針】

そこに9月中旬の日経新聞電子版(後に紙版も)に、
当時、新総理大臣就任が決定的だった菅氏の中小企業改革方針が掲載された。
「やった!」と、記事を読み進めるうち、私の表情は強張っていった。

菅氏が語った中小企業の定義(区分)に関する見直しは、
私が期待する、小規模企業への規制の緩和(支援の強化)のためではなく、
むしろ、中小・小規模企業に対する優遇を見直す観点で語られていたからだ。

日本企業の99%以上を占める中小・小規模企業がコロナ禍で悲鳴を上げる中、
これでは、いよいよ引導を渡すようなものではないか。私は愕然とした。


【中小企業は本当に日本経済再生の障害物なのか?】

実際、引導を渡すつもりなのだ。
菅氏(現総理)が考える日本経済再生のシナリオは、
企業の生産性を諸外国に匹敵するレベルに押し上げることであり、
そのためには生産性や収益性が低い中小・小規模企業を再編し、
大型化することで、それらの改善を図ろうというものだ。
なので、中小・小規模企業の合併・統合を促進し、
かたや、その波に乗れない企業は淘汰やむなしということである。

赤字続きで法人税も納めず、
なのに給付金や補助金などを国からもらうばかりの中小・小規模小企業……。
すでに、そんなレッテル貼りが始まっている。

しかし、法人税は納めずとも、
5人なり、20人なり、50人なりを雇用している事実がある。
あるいは様々な取引先から仕入れを行い、外注を行っている事実もある。
合併と淘汰を経て、同じ数の雇用が果たして維持できるのだろうか?
同じ数の仕入れや外注が維持できるのだろうか? まず無理だ。
「過剰な」従業員は整理されるし、「重複する」仕入れ先や外注先は切られる。

生産性や収益性が低いとしても、全国津々浦々の地域経済を死守しているのは、
網の目のように張り巡らされた中小・小規模企業の取引ネットワークである。


【中小企業が前に進めない真因は、需要の低迷】

そもそも中小・小規模企業の生産性や収益性が低いのは、
企業規模が小さく、投資意欲が低いせいなのだろうか?

確かに生産性向上を期して新たな機械を導入しようと思っても、
資金が足りない、それを設置するスペース(土地や建物)もない、
さらにはその機械を扱う人手もない、という実情はあるかもしれない。

それでも、その機械を導入するメリットがあるなら、
融資を受けるなどして資金を調達し、
場所や人手もどうにか確保しようとするのが普通の経営者だ。

なのにそうしないのは、ひとえに需要が不足しているからだ。
仮に1時間に10個作れる機械を、20個作れる機械に変えたところで、
需要が少ない状態でそれをすれば、さらに供給過剰に陥るだけで、
その結果は製品単価の下落を招くだけになってしまう。

需給ギャップが大きく開いている現在、生産性を向上させれば、
デフレーションがさらに深まることは必至である。

地方経済と雇用に大打撃を与え、デフレを促進してしまう、
新政権の産業構造改革=中小企業の再編・統合・淘汰方針は実に危険だ。


【需要のある市場を見つけ出すことが、生き残りの鉄則】

だが、新政権の意向に沿わんと必死の霞が関は、ことを着々と進めるだろう。
「優遇を受けたいがために規模を小さいままにしている企業を許さない」ため、
中小企業基本法の区分要件の変更も含めて、今後、大胆な制度改変が予測される。

その動きに対して何も反応せず、黙ったままの経営者がいるとすれば、
その経営者が率いる企業の未来は、限りなく暗い。

手を打たねばダメだ。

ひとつには、政治に働きかけ、無謀な政策を見直すよう求めること。
しかし、正直私は、この方法にはあまり期待していない。

むしろ大切なことは、
成長できない理由が需要不足であることがわかっているのだから、
需要のあるマーケットへの進出を経営者が決断することだ。

もっとも今時、誰もが購入するようなヒット商品を生むことは容易ではない。
半面、特定のニーズに応えて余りある製品やサービスを提供するなら、
販売量は少なくとも、高価格・高利益率を実現することは十分可能である。

中小企業、そして小規模企業は、自社の経営資源(有形無形の強み)を見直し、
その資源を、今よりも儲かる市場に投入することを真剣に考えてほしい。

あなたの企業の価値を決めるのは政府ではない。

あなたの企業の価値を決めるのは、
あなたの企業の商品やサービスを購入する顧客である。

<一般社団法人起業支援ネットワークNICe 代表理事 増田紀彦>

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「つながり力で起業・新規事業!」メールマガジンVol.126
(2020.10.21配信)より抜粋して転載しました。
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