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厳しさを増す経済・経営環境に立ち向かうために、NICe増田代表理事が送る、視点・分析・メッセージ 。21日配信のNICeメルマガシリーズコンテンツです。
「合成の誤謬」と「コア・コンピタンス」



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 「増田紀彦の視点 どうする?日本経済」

第122回 「合成の誤謬」と「コア・コンピタンス」
 
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今回のコラムは、不安定な時代に発生しやすい「合成の誤謬」と、
予測困難な時代を生きるための「コア・コンピタンスの活用」について、
私が代表を務める株式会社タンクの創業期を例に、解説を試みたい。

自社の話で面映いところもあるが、
我が社がどのような状況で「合成の誤謬」に巻き込まれ、
どのようにして「コア・コンピタンス」を自覚したのか……。
換言すると、いかに苦境に立たされ、いかにそれを脱したのか。
その経緯を記していく。


【創業間もなく、年商が億単位に】

1987年2月、私は仲間とともに株式会社タンクを設立した。

創業当時の私は、まだ20代。
経済の「け」も、経営の「け」も知らない若造だった。

にもかかわらず、我が社の業績は好調を極めた。
1987年に3人でスタートした会社が、
88年には年商1億円を達成し、
翌89年には、軽々と2億円を突破した。

それが、バブル経済の所産だと知ったのは、
泡がキレイさっぱり弾けてからのことだった。


【投資を考える暇すらない多忙な日々】

当時、多くの企業は、にわかに膨らんだ利益を、
不動産や株式、ゴルフ場会員権などに投資するのが「常識」だったが、
私はそれらに手を出さなかった。

未曾有の好景気の影響で、
求人広告の企画制作を手がけていた我が社には、
断っても、断っても、なお、オーダーが舞い込む状況で、
資金運用など考える暇もなかったし、
それ以上に、堅実が売り物の金融機関の職員たちが、
何かに取り憑かれたように、
「不動産を買うなら、いくらでも融資する」と言ってくる姿を見て、
素人なりに疑念と不安を感じたからだ。


【持つべきものは、やはりキャッシュ】

なので、我が社の資産のほとんどが預貯金だった。

仮に預貯金が1億円だとすれば、
実際に使えるお金も1億円あることになる。

ところが、不動産や株式などの簿価が1億円の場合、
その額はあくまで購入時の価格であり、
バブル崩壊後の実際の価値は、その半額にも満たなかったはずだ。

この時期に、我が社が潰れずに済んだ要因は複数あるが、
投資ではなく、キャッシュで資産を形成していたことはやはり大きい。
流動比率はバブル崩壊時でも400%を超えていた。

一方、他社の多くは資産価値の目減りに苦しんでいた。

とくに金融機関の甘言に乗って多額の融資を受けた企業は、
その返済のため、売れば損が確定するとわかっている不動産などを、
泣く泣く売却して、返済原資の確保に努めていた。

また、それらの企業は、支出も極力削減してキャッシュの留保に励み、
傷んだバランスシートを、少しでも立ち直らせようと必死だった。

バブル崩壊後の日本経済の長期的低迷の主たる原因は、
バブル崩壊そのもの以上に、各企業が必死になって取り組んだ、
「借金返済」と「バランスシートの修復」にあると私は思う。


【財務立て直しは正しい判断。だが……】

もちろん各企業の判断は間違っていない。
ガタガタの財務を建て直そうとすることは正しい。

ところが、あっちの会社もこっちの会社もそれを進めた結果、
日本中の企業がお金を使わなくなってしまった。

A社が支出を削減するということは、
仕入先のB社の収入を下げることである。

すると、業績悪化を危惧するB社も支出を削減するようになり、
次にB社の仕入先のC社がピンチに立たされる……、
という悪循環が瞬く間に広がってしまった。

このように個々においては正しい判断や行動が、
全体化することによって、
反対に悪い結果をもたらすことを、「合成の誤謬」と呼ぶ。


【悪いことになるとわかっていても、制御できない心理】

例え話をすると、
10人の集団と2人組が決闘をする。
勝ったほうが大きな利益を手にし、
敗れたほうが大きな損失を被る、という条件だ。

だから、どちらも負けるわけにはいかないが、
当然、10人の集団のほうが有利だし、
仮に10人の集団から1人抜けたところで、優勢は揺るがない。

ただし、集団側の10人全員が、
「自分ひとりが行かなくても大丈夫」と考え、
誰も決闘会場に出かけなければ、結果は2人組の不戦勝になってしまう。

「それはまずい。とはいえ、自分がそう考えているということは、
他の人も、『自分は行かなくてもいい』と考えているかもしれない……」。
この推測が事態を悪い方向へ導く。

「もし、行ったのが自分だけで、ほかの9人が来なければ、
逆に1対2になる。そうなれば勝てないし、痛い目に遭わされてしまう。
だったら、やはり行くのをやめておこう」。こうなるからだ。

「合成の誤謬」の恐ろしさは、自分の判断や行動の結果が、
最終的に悪い結果をもたらすと、うすうす感じていながら、
そうなる行動を、個々が選択してしまう点にある。

話を戻す。
含み損など1円もなかった我が社も、「合成の誤謬」の影響で、
結局、苦境に立たされることになってしまった。


【バブル崩壊後に、住宅建替えバブル発生】

ところが、救いの神が現れた。
積水ハウスさんだ。

日銀の大胆な金融緩和を受け、
当時の住宅金融公庫は市場最低金利を打ち出した。

そこに、戦後間もなく建てられた戸建て住宅の建替え需要が重なり、
住宅メーカー各社は、
世相の暗さなど、どこ吹く風のイケイケドンドンだったのである。

知人の斡旋で積水ハウスの広告を手がけることになった我が社は、
あっと言う間に、バブル期以上の不眠不休状態に突入した。

この経験は貴重だった。

バブルの崩壊に限らず、どんなマーケットもやがては衰退する。
あるいは、マーケットが生きていても、
自社商品の競争力が相対的に低下することはある。

そうなったら、もう、そのマーケットにしがみつかず、
自社の強みが発揮できる別の分野を見つけて展開すればいい。
それに気付くことができた。


【その強みは、「コア・コンピタンス」か?】

我が社は、求人広告の企画制作で培った、
「等身大の正直なメッセージで、ターゲットの心をつかむ」技術を、
そのまま住宅広告業界に持ち込んだ。

当時の住宅広告や不動産広告は、華美と誇大が横行していた。
だから、我が社が制作する広告は、斬新で説得力があった。

私はこの経験を通じて、
自社のコア・コンピタンスを自覚するにいたった。

曰く、「キレイごとを言わず、書かず、
ターゲットを説得できる独自のコミュニケーション技術」だと。

ちなみに、企業が有する強みのことを、
ケイパビリティと表現することがある。
どんな企業でも、複数のケイパビリティを保有・確立しているはずだ。

コア・コンピタンスとは、
それらのケイパビリティのうち、以下の3条件を満たすものを指す。

1.顧客に利益をもたらす強み
2.競合に模倣されない強み
3.他領域でも応用できる強み


【「普通の業務」が、異業種で絶賛の対象に!】

自社のコア・コンピタンスに確信を持った私は、
浮沈の激しい広告業界から、
記事を制作する雑誌編集業界に土俵を移すことを決断した。

この時、思わぬ幸運が舞い込んだ。

雑誌業界は、短期間で締め切りが訪れるせいか、
企画の詰めや内容のチェックが広告業界に比べて甘かった。

だが、私たちはミスや不満や不納得が許されない広告屋だから、
ひとつひとつの記事を丁寧に慎重に編集していった。

その取り組みが「素晴らしい!」と雑誌編集長から賞賛され、
「特別待遇」の報酬を約束された。
業界を変えれば、「普通」が「強み」に変わることも、この時に知った。

ちなみに我が社が手がけた雑誌とは、
起業・独立を応援する情報誌『アントレ』だった。
その選択が、起業支援者としての私の出発点になるなど、
当時は夢にも思わなかった。


【DX推進でも、すでに「合成の誤謬」が起きている】

「合成の誤謬」は、経済活動において頻繁に発生する。
「NICeメルマガ203号」に掲載された、IT企業社長の悩みもそうだ。

近年のDXブームに乗り遅れまいと、
各企業はIT人材を積極的に雇用するようになった。
それ自体は悪いことではない。

では、その人材はどこから来たのか?
多くがIT企業からの転職だ。

つまり各分野の企業がIT化を進めるほどに、
IT業界から人材が流出し、人手不足を常態化させ、業界の活力を奪い、
めぐりめぐって日本のDX推進に水を差すことになる。


【賃上げ動向を注視しつつ、コア・コンピタンスを磨こう】

また、春闘の行方が注目されているが、
大半の大手企業が賃上げをしたとしても、単純には喜べない。

賃上げのための原資を外注の労務費削減で生み出せば、
下請け企業では賃上げがままならなくなるし、経営自体も厳しくなる。

そうなれば、日本全体の実質賃金は上がらず、
所得に対する失望と不安から、
家計支出が抑えられることになり、
それがまた企業の業績悪化を深めることになってしまう。

「合成の誤謬」を食い止める効果的な方法は、
残念ながら、私が知る限りない。

だからこそ、私たち中小企業・小規模企業は、
自社のコア・コンピタンスを認識し、磨き上げ、
その能力をもって事業展開が可能な、
新たなフィールドを常日頃から探すことが肝要だ。

<一般社団法人起業支援ネットワークNICe 代表理事 増田紀彦>


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「つながり力で起業・新規事業!」メールマガジンVol.204 
(2024.2.21配信)より抜粋して転載しました。
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