第37回 不便益
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増田紀彦の「ビジネスチャンス 見~つけた」
第37回 不便益
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コロナの第6波は来るのだろうか?
12月に入り、新規陽性者が増えているが、
願わくば、陽性者も重症者も死者も、低い数字のまま収束に向かってほしい。
そのためにも、まだまだ用心に緩みがあってはいけない。
という、考えにもとづいて、
今後もオンラインで会議や打合せ、セミナーなどを続けるつもりだが、
万一、近々コロナが収束したとしても、
オンラインをぴったりやめる、ということにはならないだろう。
私も、多くの人も、そうだと思う。
なぜなら、オンラインは便利でお得だからだ。
以前にも、コロナが社会にもたらした変化について話題にしたが、
感染症対策のため、やむを得ず変えてみたら、
実はそっちのほうが、いろいろ都合が良かった、という事例は少なくない。
とくにオフィスのスペースや出張などは、
リモートワークの導入により、大胆な削減が進み、
結果、企業が負担するコストも、働く人の手間も減少した。
私自身、かれこれ2年近く、ほとんど出かけない日々が続き、
人とやり取りする仕事は、オンラインで済ませるケースが増えた。
そんな日常に慣れてしまうと、
今度は、たかだか一泊二日程度の出張でも、面倒に思えてくる。
なんせ、出かける先の所在地を調べ、待ち合わせを決め、
ホテルや切符を手配し、前日は、あれやこれやの荷物をカバンに詰め、
当日は早起きして、髭も剃って、スーツも着て、
重いカバンをぶら下げて、ギュウギュウ詰めのバスに乗り、
さらに延々と列車や飛行機に揺られて、ようやく仕事がスタートするのである。
仕事が終われば、「一杯どう?」と言われて(というか言われるのを期待して)、
「では、軽く」とか言って、結局、重くおつきあいして体調を崩し、
そんな状態で帰途に就くものだから、
およそ2回に1回程度、列車の中に忘れ物をし、
それを探索するために散々労力を使い、
運良く見つかれば、それを引き取りに行くために、
もう一度出かけるという、一連の行程を経て、ようやく一仕事が完了する。
おっと、まだあった。
宴会のせいで、スーツに食べこぼしが付着していることが少なくないので、
クリーニング店に急いで持ち込み、それでようやく一仕事が完了だ。
オンラインなら、こんな手間が、すべてなくなる。
実に素晴らしい!
本当に、すべてなくなるのだ。
凄すぎる。
すべて、なくなる……。
ちょっと待て。
便利って、段々恐ろしい気がしてきた。
むろん、弱者にとって、便利な道具やサービスは、
様々な機会を失わずに済む、大事なツールである。
事実、生まれつき右目が見えない私にとって、
PCやスマホの文字が、自在に大きくできる機能は、本当にありがたい。
だが、何でもかんでも便利なら、それでいいのか?
と、問われれば、やはりそうは思えないのである。
上に書いた出張のドタバタ劇を例に取れば、
各種の手間のおかげで、私はたくさんの知識を得られるし、
いかに、ことをスムーズに進めるかという知恵も付いてくる。
また、実際に出かけていくことで、
様々な出来事に遭遇し、様々な人と出会い、
様々な発見や学習の機会を得ることができる。
当然、お金もあちこちで使うから、経済活動にも貢献できる。
面倒臭い出張には、こんなにも膨大なメリットが含まれている。
そのメリットを、オンラインは根こそぎ奪ってしまう。
最近、「不便益」という言葉を知った。
まさに、これだ!
私が思っていた、「面倒なことのほうが、いいことがあるかも」という思いは、
この不便益だったのである。
提唱するのは、京都先端科学大学の川上浩司教授。
実際、川上先生たちのグループがつくった「素数物差し」は、
本当に不便な物差しである。
なんせ、打ってある目盛りが、2・3・5・7・11・13・17だけなので、
例えば6cmを計りたければ、
13 cmを取った上で7 cmを引かなければならない。
(17-11でも、11-5でも、7-3+2でも、ほかの方法でもいいが。)
さらに少数点以下の寸法を図ろうとすれば、もっと面倒なことになる。
この使いにくい物差しがメチャクチャ売れた。
東京都立川市にある「ふじようちえん」の園庭には、
傾斜があり、デコボコもある。
園児たちが走り回れば、転倒する危険が高くなる。
が、だからこそ、子どもたちは体の使い方や注意力を涵養できる。
千葉県浦安市などにあるデイサービス「夢のみずうみ村」には、
あえて長い階段が設けられていて、しかも手すりが心許ないロープになっている。
通所する高齢者は、手すりに頼らず、しっかりと自分の足で昇降しようとする。
言うまでもなく、機能回復もしくは機能維持を狙った仕掛けだ。
ちなみに、同施設はこの考え方を「バリアアリー」と呼ぶ。うまい、座布団千枚!
不便だが、不便だからこその価値がある事例だ。
そう考えると、探している商品を容易に見つけることができない、
「ドン・キホーテ」の圧縮陳列も、
だからこそ、欲しい商品を「探し当てた」時の喜びを提供している。
コロナ感染症と、デジタル化の波によって、
いま、日本は急速に「便利」(=効率的=ラクチン)への流れが強まっている。
その流れに無意識に飲み込まれ、
不便だからこその価値を、多くの人が見失う危険が高まっていると危惧する。
この時こそ、不便益の価値を認識することが大切だ。
と同時に、不便益商品や不便益サービスの開発に、
間違いなくチャンスが広がるはずだ。
そうそう、「あえて不便」のメリットは、人間だけのものではないのである。
https://my-best.com/2458
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「つながり力で起業・新規事業!」
メールマガジンVol.155
(2021.12.13配信)より抜粋して転載しました。
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増田紀彦の「ビジネスチャンス 見~つけた」は、
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