増田通信より「ふ~ん なるほどねえ」209 先端企業は、なぜ哲学を導入するのか
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<最近の潮流> 先端企業は、なぜ哲学を導入するのか
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「資本家が儲けた場合、必ずしも労働者も儲かるとは言えないが、
資本家が損をした場合は、間違いなく労働者も損をする」。
おおむね、こんな内容だったと記憶している。
カール・マルクス著『経済学・哲学草稿』(岩波文庫)の中の記述だ。
本書を手にしたのは、高校2年生の夏休み前だったと思う。
いやはや、難しかった。
そもそも主張の概念が容易に理解できないのに、
訳文が古く、言い回しも単語も難解なため、
一節を解釈するのに1時間、2時間とかかる箇所もあった。
たとえばこんな感じである。
「人間は、自然存在であるばかりではなく、人間的な自然存在でもある。
すなわち、人間は自己自身に対してあるところの存在であり、
それゆえ類的存在であって、人間はその有においても知識においても、
自己をそのような存在として確証し、実をしめさなければならない」……。
いや、例として挙げたこの部分などは、まだわかりやすいほうかもしれない。
こんな読解困難箇所のオンパレードの中で、唯一スッと頭に入ったのが、
冒頭に紹介した資本家と労働者の関係を表した部分だった。
青年特有の、金持ちや権力者に対する反発心がそこを捉えたと思うが、
ある程度学習を進めていくと、
この事象は、資本主義の本質であり宿命であることがわかっていく。
資本主義は、資本を投じて生産し利潤を得ることで資本を増殖させ、
さらに増殖した資本で再び生産を行う……という繰り返しで成り立つ。
では、資本と何か?
工場や機械、原料やあれこれ、そして労働者である。
つまり、利潤を生み出すために必要なもろもろの資源の集積だ。
その資源は、すべて金銭によって調達することが可能だ。
ゆえに、資源は商品であり、したがって労働者も商品となる。
どの商品を買うか買わないか、買うとして、いくらで買うかの判断は、
すべて資本の増殖に責任を負う資本家の手に委ねられており、
商品である労働者が、口をはさむ余地などない。
つまり資本主義は、人間が人間として存在するために備わった労働力を、
木や鉄などの自然物から生み出された商品と同様だと考える。
これでいいのか? 良いはずがない。というのがマルクスの問題意識だ。
「ああ、哲学とはこういうものか」と、青年増田は感銘を受けた。
時代はいま。
あのグーグルやアップルが著名な哲学者を顧問として迎えたり、
哲学の専門家をフルタイムで雇用したりしていることが知られてきた。
欧米では、哲学専攻に優秀な学生が多く集まるという事情もあるが、
それより何より、時代の先端を走る企業にとっては、
容易に答えの見つからない課題に立ち向かうスキルが不可欠だからだ。
それは取りも直さず、
現代世界が未知の時代へと突入し始めていることの証左である。
すでに日本でもリクルートやライオンなどが、
ヴィジョン構築や企業課題解決といった分野で哲学の導入を始めている。
産業革命によって急速な工業化が進んだ時代にマルクスが現れ、
経済学と哲学を用いて人間解放の思想を生み出したように、
AIが世界を席巻するようになった今日もまた、
未知の領域における人間のありようを探る必然性が生まれたのだ。
分析哲学の大家、ルートヴィヒ・ヴィトゲンシュタインは、こう言う。
「哲学は学説ではなく、活動である」。
だから時代のリーダーたちは、本気で哲学の力を希求している。
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増田紀彦NICe代表理事が、毎月7日と14日(7と14で714(ナイス)!)に、
NICe正会員・協力会員・賛助会員、寄付者と公式サポーターの皆さんへ、
感謝と連帯を込めてお送りしている【NICe会員限定レター「ふ〜んなるほどねえ」スモールマガジン!増田通信】。
第209号(2020/1116発行)より一部抜粋して掲載しました。
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