「事例に学ぶ! 新事業実現法」第11回/ 浦上裕生さん(神奈川県相模原市)ニッチな客層の要望に応え続け、 国内外でも類を見ない左利きグッズ専門会社新設へ
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「事例に学ぶ! 新事業実現法」
第11回
ニッチな客層の要望に応え続け、
国内外でも類を見ない左利きグッズ専門会社新設へ
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神奈川県相模原市/NICe協力会員・浦上裕生(うらかみ・ひろお)さん
有限会社きくやねっと 代表取締役/菊屋浦上商事株式会社 取締役
http://www.kikuya-net.co.jp
NICe会員情報はこちら
http://www.nice.or.jp/category/members/members-kanto/page/2
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◆余剰在庫もいとわない、地域密着店ならではの親身な対応が原点
ごくごく当たり前のように使っている文房具だが、
左利きの人にとっては使いにくいばかりか危険なことさえあるという。
物差しは左利きだと、目盛りが指で隠れてしまい線が引きにくい。
カッターなどは力の加減ひとつで怪我をすることもある。
「もっと左利きに快適な暮らしを!」と、左利きグッズの普及と啓蒙を目指し、
(有)きくやねっとを設立したのが、浦上裕生さんだ。
浦上さんは、神奈川県相模原市の商店街にある文房具店『菊屋』の3代目。
ことの始まりは20年以上前、浦上さんがまだ高校生の頃。
店長である母親・豊子さんが、
取引先の要望で左利き用はさみを仕入れたのがきっかけだ。
だが当時の仕入れはロット注文だったため、個数が多過ぎる。
それで残りを店頭に並べたところ、左利きの客に喜ばれる結果に。
以来少しずつ左利き文房具の種類を増やしていったという。
◆ネットショップで全国へ、商品開発やプロジェクト支援も展開
本格的に左利きグッズに注力したのは、浦上さんが家業に加わってから。
豊子さんが体調を崩し、病名がガンと診断されたのを機に、
大手通信会社を辞め、家業の文房具店へ転職、チーフに就任。
売上げに貢献したいと、2001年8月、文房具のネットショップを立ち上げた。
すると間もなくして、島根県のお客さんからファイルの注文が入った。
「なぜうちに?」と不思議に思った浦上さんは、注文主へ電話。
購入理由を聞いてみると、
「探していたがどこにもなく、ようやくおたくで見つけた」とのこと。
星の数ほどある文房具の中から、他店にない商品を探し出すのは、
さぞや大変だったろうと浦上さんは思った。
そして気づいた。うちには他店にない左利き用文房具がある!
それを前面に出せばいいのではないかと。
浦上さんは、ネットショップを左利き用グッズ専門店にシフトした。
同時に、店舗内の左利き用グッズコーナーも拡充。
ネット&リアルで、左利き用文房具の品ぞろえをアピールした。
反響は大きく、全国各地から注文や問い合わせが殺到。
さらに顧客ニーズに応え、万年筆や彫刻刀といった文房具にとどまらず、
包丁、缶切り、レードル、急須などの生活用品もラインナップに。
また、メーカーなどから、左利き商品開発の相談も寄せられるようになり、
さらに左手用リハビリ用品、ユニバーサル商品の商品化にも貢献。
サプライヤー&カスタマーの両方へ輪を広げた浦上さんは、
“日本唯一の左利きグッズ専門店”として、取材依頼が後を絶たない。
だが、「特に広報戦略を立てたわけではないのです」と苦笑する。
たまたま選挙関連の取材で商店街へ来た、地方新聞記者の目に留り、
記事にしてくれたのを機に、次々と取材を受けるようになったという。
数えきれないほどの取材数だが、浦上さんが何よりも嬉しかったのは、
当時、ガンを患いながらも気丈に店に立ち続けた母・豊子さんが
取材カメラに笑顔を向け応える、喜々としたその姿だった。
◆実店舗1本に絞り、左利きにも右利きにも愛される商いを
好調だったネットショップだが、浦上さんは大決断をする。
オープンから約3年でネットショップを終了し、実店舗だけに絞ったのだ。
「商店街にはネットにない人と人との温もりがあります。
その一員である店は、お客さんに喜んでもらうことを糧に、
地道にコツコツ、おもてなしの心を込めて商売する。
こんな小売業もいるんだぞと、子どもたちの指標になれればと思うし、
そういう思いを継いで守っていくのも、3代目の役目かなと」
相模原青年会議所の主力メンバーでもある浦上さんは、
地域のイベントや地元中学校での職業講話に登壇するなど、
地域活動にも精力的に貢献している。
左利き専門のネットショップは国内外にも数多いが、
「実店舗では、世界でもうちだけだと思う」と胸を張る。
顧客にも地域にも商店街にも取材陣にも愛される浦上さんを見て、
接客が大好きだった豊子さんも、天国で微笑んでいるに違いない。
2013.10.21
「つながり力で起業・新規事業!」 メールマガジンVol.11