「事例に学ぶ! 新事業実現法」第5回/樋口 徹さん(新潟県十日町市)兼業農家の跡取りが団結し、生産から販売まで手がける米職人の会社を設立
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「事例に学ぶ! 新事業実現法」
第5回
兼業農家の跡取りが団結し、
生産から販売まで手がける米職人の会社を設立
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新潟県十日町市/NICe協力会員・樋口 徹(ひぐち・とおる)さん
(有)白羽毛(しらはけ)ドリームファーム
http://shirahake.com/
NICe会員情報は
こちら
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◆◆先祖から受け継いだ、棚田のある風景を次世代へ◆◆
子どもの頃に遊び回っていた風景が、時代とともに変わっていく。
それを寂しいと、ただ傍観するのが普通だが、
「じゃ、自分たちで何とかしよう」と立ち上がったのが
新潟県十日町市(旧中里村)白羽毛(しらはけ)集落の3人。
そのひとりが、農協の販売部門に勤務していた樋口徹さんだ。
生家は兼業農家で、田植えや収穫を手伝うのは当たり前だった。
白羽毛は中山間地で高低差のある棚田が多く、冬は豪雪地帯。
親の世代で稲作は終わりと、決めている人も少なくない。
また、都会に暮らす子どもたちの元へ移転する高齢者も後を絶たない。
ひとつ、またひとつと休耕地が増え、故郷の原風景が変わっていく。
「あの田んぼは誰がやるんだろう」「この風景はどうなっていくんだろう」
そんな会話が、集落の酒の席で、何度も交わされていた。
「なら、自分たちで農家の会社をやらないか?」
そう切り出したのは、徹さんと同じ集落の樋口元一さんだった。
徹さんとともに賛同したのが、樋口利一さん。
3人とも樋口姓だが血縁関係はない。いずれも兼業農家の息子たち。
年代は違うが、想いは同じだった。
◆◆農地確保で苦労するも、地道に信頼を得て耕作面積を拡大◆◆
準備期間は1年と定め、専業農家になるべく3人は始動した。
農機具や事務所兼作業所は、どうにかなる。
問題は農地の確保。3人の田んぼを合わせて4ha。専業なら8haは欲しい。
不足分は、白羽毛地区の組合農地4haを借りる計画を立てた。
ところが新しい取り組みへの警戒心か、反対者が出てきて、
最終的には予定の半分の2haにとどまった。
だが、「広ければ農機具も大型が要るし、人手も要る」と気を取り直し、
約束どおり1年後の2006年、(有)白羽毛ドリームファームを設立。
販売ルートで重視したのは、直接販売と通信販売だ。
実は徹さんは会社設立3年前から、自分の米を個人客に販売していた。
直販は、収益面で魅力があるという実感も起業を後押しした。
とはいえ、販売経験があるのは徹さんだけ。ほかの樋口さんたちは未経験。
声の掛け方、おつりの渡し方まで徹さんが指導し、
年に数回、農作業の合間をぬって県内外の催事で対面販売を行っている。
2008年には、特別栽培農産物認証制度の認定、
翌年にはエコファーマーにも認定された。
耕作面積も現在は10ha。米、手のし黄金餅、米粉の生産販売をするほか、
農作業委託も受け、トラクター作業15ha、田植え20ha強を請け負っている。
◆◆特技も年代も異なるからこそ互いを生かし合い、自信と絆を深化◆◆
メンバー間はいたってフラット。何でも話し合って決めるのが流儀だ。
代表の利一さんは、元建設資材メーカー勤務で、パワーショベルのプロ。
どんな時もみんなの意見を聞き、全体を見て語る、一番の分析派だ。
元一さんは元農機具メーカー勤務の農機具整備士!
農機具はもちろんメカ全般に精通し、
近隣から修理や調整の声がかかると快く受ける行動派。
後にメンバーに加わった、同じ集落の(また樋口姓の)良幸さんは20代。
覚えが早く、先輩の職人技を目で覚える器用さがあるという。
生まれも育ちも中里村の徹さんが、
「都会の人も俺たちと同じ普通の人だ」と思えるようになったのは、
まだ5、6年前のことだという。
そのきっかけは、体験学習を受け入れたことや、やはり対面販売だ。
今度は7月末、東京・日本橋の『ブリッジ新潟』に出店する予定。
今から楽しみにしているそうだ。
今、白羽毛では、イネの苗を育てる苗床づくりに励んでいる時期。
だが徹さんたちの米づくりは、雪解け前からすでに始まっている。
「“魚沼産コシヒカリ”の中でも格別に美味しい、オレの米ですから!」
対面販売でみせる徹さんの笑顔は、
「美味しさ」と「故郷」を、仲間と作り上げている自信と誇りの現れだ。
2013.4.22
「つながり力で起業・新規事業!」 メールマガジンVol.5