増田通信より「ふ~ん なるほどねえ」78「仕上げ」
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<最近の発見> 仕上げ
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事例を2つ。最初は『有次』。
1560年の創業、今も京都の錦小路に店を構える刃物店である。
私は30年来の『有次』ファンで、
これまで出刃2種、柳刃1種、鯵切り2種を仕入れている。
気持ちとしては、もっと同店の刃物を手にしたいのだが、いかんせん素人板前。
使用頻度が低いから、そうそう包丁の刃は減らない。
加えて鋼自体いいものを選んでいるから、余計に減らない。
でも、刃が減らない本当の理由は、別にある(と信じている)。
錦小路の店で包丁を選び、「これが欲しい」と告げると、
店主はその包丁を手に店の奥へと向かう。
そこには砥石がある。
店主は全神経を集中して、私の選んだ包丁の刃を研ぎ上げる。
後ろで見ている私も、息を止め、精神を集中して仕上がりを待つ。
「いいでしょう」。
店主のその言葉を待って、品物は化粧箱に収められる。
鋼に魂が吹き込まれたのである。だから刃は減らない。
もうひとつは『小沢蝋燭』。
こちらは徳川8代将軍・吉宗の時代から続く会津若松の老舗だ。
最近、絵柄が異なる10匁の絵蝋燭を2本買い求めた。そのときの話。
私なりに念入りに選んだ2本を、
店主は掌の上に並べてじっと見つめていたかと思うと、
いきなり立ち上がり、そのまま店の奥へと消えて行ったのである。
しばらくして戻ってきた店主は私にこう言った。
「長さを揃えておきました」。
私の目には、2本とも同じ長さに見えたのだが、
店主の目は、ほんのわずかな長さの違いも捉えられるのだろう。
小刀を使って調整したらしい。
仕上がった蝋燭を、包み、箱に入れ、さらにその箱を包み、手提げに入れ、
それを軒先まで持ってきて、私に手渡してくれた。
ありがたすぎて、いまだ灯を点せないでいる。
有次の包丁も小沢の蝋燭も決して安価ではない。
が、この私のために、店主自らが製品を仕上げてくれたのである。
そう思えば、高いなどとはかけらも思わないし、
むしろお金に代えられない価値を頂戴したとすら感じる。
最終工程の1%を、ご縁で結ばれた目の前の客のために残しておく。
そんな「職人的サービス」が、安物横行を打破するきっかけになるかもしれない。
老舗ではなくとも、導入可能な販売方法ではないだろうか。
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増田紀彦NICe代表理事が、毎月7日と14日(7と14で714(ナイス)!)
に、NICe正会員・協力会員・賛助会員、寄付者と公式サポーターの皆さん
へ、感謝と連帯を込めてお送りしている【NICe会員限定レター「ふ〜ん
なるほどねえ」スモールマガジン!増田通信】。
第78号(2015/6/15発行)より一部抜粋して掲載しました。
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