増田通信より「ふ~ん なるほどねえ」58「本当にあった怖いけど、すごい話」
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体育大学を出たばかりの若い女性教師が、
「今日は学校の外をランニングします」と言い出した。私が小学生の時の話。
途中、彼女は「暑いから休憩」と言って、私たちを近くの神社に連れ込んだ。
古木が鬱蒼と茂る境内は、夏とは思えない涼しさだった。
「さあ、今から先生が、もっと涼しくなる話をしますよ」と言う。
もしかして、あれ?
予想通りあれだった。私はその手の話が大の苦手である(今も)。
物語の舞台は、先生が大学生の時の夏合宿。
厳しい練習についていけない同級生がいた。令子さんという。
先輩から罵倒され続けていた令子は、日に日に口数が減っていく……。
ある日の深夜。眠っていた先生が物音に気付いて目を覚ますと、
その令子が服を着て、合宿所から出て行こうとしているところだった。
「どこに行くのだろう?」と思った先生は、彼女の後をつけることにした。
<ヤバい。私は、もうこの段階で全身に鳥肌が立ち始めていた>
令子が人目を忍んで向かった先は、墓地だった。
<ああ、やっぱり、そこ行ったか。もう無理。先生、もう限界です>
墓石の前にしゃがみこみ、一心腐乱に何かをしている令子。
気になった先生は彼女に近づこうとして、うっかり音を立ててしまった。
クルっと振り返る令子。
「見~た~な~」。
<失禁寸前の私。たぶん、この段階でしちゃった同級生も数名いた模様>
令子さんは墓の下から掘り出した人骨をひたすら齧っていたのだ。
<涼しいどころか、血液が凍ったかと思うほどの悪寒走りまくり>
体を強くしようと、カルシウムを必死に摂っていたのだそうだ。
「みんな、いいですか。令子さんのようにならないためには、
子供のうちに、しっかりとカルシウムを摂ることが大事なんですよ」。
そう語る先生の脇には、いつの間にやら骨壺のようなものが置かれていた。
<ヒエ~~~~~。もしかして、今、骨を食うの?>
うすら笑いを浮かべながら、壺の蓋を開け、私ににじり寄って来る先生。
<悪魔だ。この若い女は、本当は悪魔なんだ!>
先生が壺の中に手を差し込む。
そして取り出したのは……、まさかもまさかの、煮干しだった。
「これを毎日食べれば大丈夫。さあ、食べたらランニングの続きよ!」
すごいというか、すご過ぎると言っていいくらいの授業である。
あれから50年近く経ったが、真夏が訪れるたび、この日のことを思い出す。
そして今日、私は気付いた。
講義の効果を高めるために必要な要素を、しっかり教わっていたことに。
舞台(神社)、話術(怪談)、小道具(壺)、実習(煮干しの試食とランニング)。
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増田紀彦NICe代表理事が、毎月7日と14日(7と14で714(ナイス)!)
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へ、感謝と連帯を込めてお送りしている【NICe会員限定レター「ふ〜ん
なるほどねえ」スモールマガジン!増田通信】。
第58号(2014/8/14発行)より一部抜粋して掲載しました。
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