増田通信より「ふ~ん なるほどねえ」44「よそ者の炯眼と勇気」
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アサヒビールが12年ぶりに前年比増の販売数を達成したそうだ。
私が30代の頃、この会社の広報をお手伝いしたことがあり、
こうしたニュースは、やはりうれしい。
あの頃のアサヒビールは、全社の隅々にまで緊張感が漂っていた。
ビール業界では「あり得ない」はずの、味の変更を断行したからだ。
味の変更は、既存取引先を失う危険が極めて高いと、当時は思われていた。
だから営業マンは、本当に顔面蒼白になって、
新製品スーパードライを売り込むべく、足を棒にして飲食店を回った。
中には、新製品発売の日の朝、
「今日でアサヒは終わるかもしれない……。でも、頑張ってくる」と、
家人に告げて家を後にした営業幹部もいた。
この人たちの覚悟と努力に少しでも役立ちたいと私も一生懸命だった。
ご存じのように、アサヒビールは潰れるどころか、
そのスーパードライをもって、奇跡と言われるほどの躍進を遂げた。
「コクがあるのに、キレがある」旨さも鮮烈だったが、
やはり、樋口廣太郎社長以下、全社員が背水の陣で臨んだ迫力が
大躍進の原動力だったと私は信じている。
「新しいことをすれば儲かる」という安易な考えもあるが、それは違う。
新しいことは、即ち、不確実性が高いということであり、
ひとつ間違えれば、儲かるどころか、経営を窮地に追い込むものだ。
そんなことは、会社規模の大小を問わず、経営者なら誰でも知っている。
だから、頭打ちとわかっていても従来事業におさまっていたり、
新しいことに着手するにしても、わずかの投資で済まそうとする。
だが、それでは会社に気合が入らない! 燃えない!
今思えば、樋口社長がしたかったことは、
ぬるま湯の中で眠ってしまった社員のポテンシャルを引き出すことであり、
その力の結集をもって、業績を回復させ、成長させることだったと思う。
あえて「業界の非常識」にチャレンジしたのは、そういう理由だろう。
それにしても、なぜ樋口さんは、こんな英断をくだすことができたのか?
ひとつ言えることは、ビール業界の外からやってきた人だから。
「できない理由」が染みついてしまっている業界人とは違う。
大企業に限った話ではない。
私にも、あなたにも、「できない理由」は染みついているはずだ。
外部の視点を、声を、才能を、自らの経営に生かそう。
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増田紀彦NICe代表理事が、
毎月7日と14日(7と14で714(ナイス)!)にお送りしている
【NICe会員限定レター/「ふ〜ん なるほどねえ」スモールマガジン!】
増田通信・第44号(2014/1/14発行)より、抜粋してお届けしました。
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