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第12回NICe全国定例会inさいたま 第2部シンポジウムレポート


2011年12月10日(土曜日)、埼玉県創業・ベンチャー支援センターで開催された第12回NICe全国定例会inさいたま。5部構成のプログラムのうち、第2部「福島県の仲間と増田紀彦代表理事による鼎談(シンポジウム)」レポート。


第2部 

福島県の仲間と増田紀彦代表理事による鼎談


                         シンポジウム

・五十嵐勝氏/福島県福島市
・清野友行氏/福島県伊達市
・増田紀彦代表理事


テーマ:「福島の今」



被災地の中でも他とは状況が異なるのが、福島第一原子力発電所事故による放射能被害を受けている福島県だ。その一部の情報はマスコミやネットからも得られるが、実際にはどうなのだろうか。事故後、福島県内に暮らすNICeの仲間の呼びかけにより3回にわたり福島県を訪れ、仲間やそのご家族から直に実情の一端を聞いたが、マスコミ報道との相違に愕然とした。「ここで一体何が起きているのか、我々は、福島県の仲間に何ができるのか」。

現地を訪れて直に話を聞く・知る機会がそうそうないのであれば、福島県に暮らすNICeの仲間に来ていただき、みんなに語っていただこう。

出演交渉をすべく実行委員長の石井氏が夕刻仕事を切り上げ、その足で福島へと車で向かったのは10月27日のことだった。滞在時間はわずか2時間。五十嵐勝氏と清野友行氏の両名が快諾してくれた。福島で何が起きているのか。マスコミで報道されないことは何か、その理由はなぜか。そして、率直なご自身のお気持ちをうかがい、我々に何ができるのかを考えたい。リアルな情報と全国の仲間の知恵を共有し、循環させ、つながり力で未来を拓くために、今回のNICe全国定例会で特別にこの鼎談(シンポジウム)を企画した。テーマは、「福島の今」。





▲震災後4度訪福した増田紀彦代表理事が進行を務めた。増田氏の胸に光るのは、歯科技工士である五十嵐氏がセラミックスでつくった義歯のピンバッチ(一時拝借)


増田氏/この国は地震列島です。海底が揺れれば津波が来ると、もともとわかっていながら沿岸に放射性物質をたっぷりふくんだ原子力発電所をつくってきました。過信も思い上がりもあるでしょうし、ごり押しもあったかもしれない。その中で、遂に起きて欲しくないことが起こりました。当時はどこがどうなっているのか、わからない状況でした。それがだんだん、福島第一原子力発電所の事故が、報道されているよりも大変なことになっているとわかってきました。

思い返せば3月12日、この会場でのNICe全国定例会が中止となりましたが、それでも全国から集まって来る人が中止発表前にこちらへ向かっている状況でしたので、私や実行委員長の石井さんら数名は、ここで待ち構えていたのです。その間ずっとニュースを見ていました。自衛隊がヘリコプターで水を撒いていましたね。

それぞれの立場の方が精いっぱい努力はされたと思いますが、一言でいうと、タカをくくっていたのではないかと思います。何かが起きた時に、どうするのか、という考えができていなかったということがわかりました。

今日は起業家の集まりです。きっとどうにかなるだろう、大丈夫だろうということが、いかに危険かということはよくご存じでしょう。すべてが自分に帰してくる。もちろん、暗くなるだけではいけませんが、襲いかかってくるいろいろなリクスに対して、経営者や起業家は、予知をする、そして対処することによって、より良く過ごしていくことができると思います。国家の歴史的な体たらくを見て、自分の問題として襟を正さなくてはなりません。

しかし、そんなたとえ話で済む状況ではありません。
福島第一原子力発電所の事故から9カ月が経ちます。日に日に報道は減っています。政府も東電も恐らくはもっと報道を減らしたいのでしょう。が、汚水が漏れているという隠しきれない状況が次々と出るので、マスコミにとらえられています。しかし、ぶっちゃけ、日本で信じられない事態が起きているという認識が本当にされているのでしょうか? 

また、福島県だけが本当に大変なのか? どこが今どうなっていて、なぜ報道されていないのか。とはいえ、いくらまわりでわいわい言っていても、なかなかわからないので、今日はNICeの仲間おふたりに来ていただきました。辛いお話をしていただくこともあるでしょうが、福島で毎日生活している立場から、また、福島だけの問題なのかどうかも含めて、お話をうかがわせていただきたいと思います。

おひとりは、歯科技工士であり、会社を経営されている五十嵐勝さん。義歯をセラミックスでつくっていらっしゃいます。そして、福島市に隣接する伊達市から来ていただいた清野友行さん。伊達市というところは町村合併で面積が広くなっていますが、その中の小国(おぐに)地区というところにお住まいです。ホットスポットと言われ、放射線量が高い地域にあたっています。モスクワ大学ご卒業で、語学にも北方民族文化にもご堪能です。清野さんはNICeのSNS内の日記で、我々がマスコミ報道から知ることができない情報を時々書かれていますので、読んだ方もいらっしゃるかと思います、

おふたりに、何が一体起きていて、その後どうなのか、お話をうかがいたいと思います。まずは自己紹介をお願いします。

五十嵐氏/福島市で歯科技工会社を経営しています。歯科医師から依頼を受けて義歯を製作しています。
清野氏/震災時には県庁の教育委員会にいました。書類の山に埋もれて死にかけました。うちは代々の農家で、私で7代目になります。

 
▲福島市で歯科技工会社を経営する五十嵐勝氏、伊達市の特定避難勧奨地点に暮らす清野友行氏


●放射能汚染の現状について。福島県だけの問題か?

さっそく増田氏は配布資料を見るよう参加者に促した。
そして事故後、放射能がどのような状況なのか、五十嵐氏に説明を求めた。



五十嵐氏/日本全国の飛散状況地図を見ていただくとわかるのですが、中国地方の中国山地まで行っている状況です。
特に濃度の高い地域は赤で表示されています。北西方向にかけて飛散しています。黄色で示された飯館村を通り、福島市の南東まで伸びている状況です。沖縄県以外、皆さん、多少なりともセシウム137を吸っている状況です。


▲セシウム137は日本のほぼ全土の土壌に分布(図1)
ストロンチウム90の沈殿状況。測定は福島第一原発の80キロ圏内のみでこの数値(図2)

五十嵐氏/ストロンチウム90というのはご存じないかもしれませんが、これは比較的重い放射性同位体物質で、広範囲に飛散しないと言われていました。が、文部科学省が80〜100km圏内の20数地点で計測した結果がこれです。見ての通り、福島県だけでなく、宮城県まで飛散しているのがわかります。限られた範囲内での測定ですから、測定地点を広げれば恐らくもう少し飛散している状況だと思われます。


▲空間線量汚染地図。天候の影響により周辺各県にも飛散しているのがわかる(図3)

増田氏/図3を見ると、西へ西へと流れたのですね。

五十嵐氏/はい。図5を見ていただくと、風の流れの変化がわかります。当初は北でしたが、南東へ変わり、このような飛散状況になりました。栃木県や群馬県も汚染されています。東京都内でも浄水場からヨウ素が出ましたが、あそこの水源は利根川ですから、上流部は群馬県。それで流れ込んだわけです。


▲事故による放射能雲の流れ。当然のことながら大気に県鏡はない(図5)
▲フランス放射線防護原子力安全研究所(IRSN)が公表したデータ。日本でも文部科学省によって運用されている緊急時迅速放射能影響予測ネットワークシステム「SPEEDI(スピーディ)」があるが、事故後の一時期、公表されなかった(図6)


増田氏/このデータを初めて見せていただいた時、私は驚きました。参加者の皆さんは、栃木県や群馬県がこうなっていると思っていましたか? 本州のかなり広い地域に飛散しているのがわかりますよね。私は今月3日間、帯広に行っていましたが、とうとう北海道の農作物からも放射性物質検出されてしまったと話題になっていました。このデータで広地域に飛散している状況と符合していると改めてわかります。図6はどういうものですか?

五十嵐氏/これはフランス語で書かれたものです。IRSNというフランス放射線防護原子力安全研究所が独自に計測したデータです。日本では、「SPEEDI(スピーディ)」という情報をネットで発信していましたが、事故後にアクセスができなくなりました。恐らく、知られたくない状況だったのだと思います。その後、アクセスできるようになったのですが。

※「SPEEDI(スピーディ)」:文部科学省が運用している緊急時迅速放射能影響予測ネットワークシステム。原子炉施設から大量の放射性物質が放出された場合、気象予測と地形データに基づき、大気中の拡散シミュレーションをし、大気中の放射性物質の濃度や線量率の分布を予測するためのシステム。


増田氏/北方向へ上がったのですね?

五十嵐氏/風の向きは北西からの季節風が吹いていて、第一原発から南東へ細く伸びていました。その後、風向きが変わり、南東風に変わったのです。そして雨が降りました。雨が降ったために、降下した状態です。雨さえ降らなければ、あるいは、こう言ってはなんですが、関東圏を通って首都でもし雨が降っていれば、もっとマスコミは大騒ぎしたと思います。

増田氏/そういう偶然性にも左右されたのですね。

五十嵐氏/はい。

増田氏/この図を見ると、飛び飛びで関東圏でも濃いところが出ていますよね?

五十嵐氏/局地的に弱い雨が降ったのですね。そこが色濃くなっています。


●特定避難勧奨地点とは? その基準とは?

増田氏/清野さんにお聞きします。今のお話で、汚染は福島県だけではなく、ほぼ全国という話でしたが、清野さんがお住まいの地域は福島第一原発から何kmなのですか?

清野氏/60kmです。



増田氏/放射線量が高いところもあるけれど、強制的な避難地域ではなく、特定避難勧奨地点に定められているところです。皆さんは、この特定避難勧奨地点という言葉をご存じですか? ホットスポットはよく聞きます。そこだけ線量が高いところですが、特定避難勧奨地点の勧奨とは、つまり、「避難した方が良くなくない?」みたいな。なんとも曖昧な定めを受けているところです。

増田氏は、配布資料の「現在の福島県と1955年当時の福島市・小国村周辺地図」を見るよう促した。


▲強制的な避難地域ではなく、特定避難勧奨地点と定められた小国地区。
特定避難勧奨地点とは何か。その実情を語る清野氏


増田氏/清野さんは、市町村合併する前の「小国(おぐに)」というところにお住まいです。福島市の一部も旧小国村に位置しているのがわかります。清野さん、特定避難勧奨地点とはどういうことですか?

清野氏/避難区域や警戒区域は、地区なら地区という面という形でくくられますが、特定避難勧奨とは、同じ地区であってもその世帯、家ごとで異なります。でも、この家は数値が高いから避難せよ、ここは低いから避難せよとは言わない。子どもがいるので避難せよ、いないから避難指定からは外しましょうなど、非常に曖昧な基準です。実際に基準値というと、地上から1mで3.0マイクロシーベルト/時という数字がひとつあります。うちは2.8マイクロシーベルト/時で、私の家は母親とふたり暮らしで、避難基準値未満であり、子どもも居ないので避難対象とはならないのです。もし子どもが居れば、同じ数値であっても対象者となります。しかもこの基準値は、伊達市から何ら公表されていませんので、地区のすべての住民が疑心暗鬼になっているのが小国の現状です。

増田氏/同じ地域の中で住民が結束しなくてはならない時に、分断されるような状況なのですね。

清野氏/そうなのです。


●福島県内の全学生および一部住民に配布された積算線量計とは?

増田氏/今、3.0マイクロシーベルト/時という数字が出ましたが、皆さんが今いる、この埼玉県の建物内は、どのくらい汚染されていると思いますか? まさか何もいないとは思っていませんよね?

五十嵐氏/日本では、特別な地域を除いて0.05マイクロシーベルト/時ぐらいだと思います。

増田氏
/(線量計を見て)超えていますね、今0.1マイクロシーベルト/時です。五十嵐さんが線量計を持っていらっしゃいますが、福島市ではいつもどのくらいですか?



五十嵐氏/0.6~1マイクロシーベルト/時ぐらいです。

増田氏
/ということは、清野さんのところの2.8マイクロシーベルト/時は高いわけですが、家族構成的に子どもが居ないからと、避難から除外されている?

清野氏/はい。うちの畑では4マイクロシーベルト/時です。基準値を超えてはいます。実際に農作業は野良仕事ですので。まして山林はもっと数値が高いですが、実作業でその場へ行かなくてはいけない状況ですから。このような積算線量計を配布されていますが、意味がありません。

増田氏/3マイクロシーベルト/時はひとつの基準数値ですが、特定避難勧奨は、急遽慌てて国が定めた基準ですものね。

清野氏/はい。その場しのぎだと感じます。


増田氏/汚染地域は原発から同心円上ではないことがわかり、さらに、取って付けたことが随分あるのだとわかります。その積算線量計というものを、県民の皆さんは持っているのですか?



五十嵐氏/積算線量計は18歳以下の学生全員と、一部の県民に配布されました。

積算線量計と五十嵐氏の線量計が会場内に回覧された。五十嵐氏の線量計は数値が表示されるが、18歳以下の全県民に配布されたという積算線量計は、なんら数字は表示されない。「これはなんだ?」と場内がざわついた。


▲県内の全学生に配布されたガラスパッチ績算線量計。本来はエックス線の業務に就く人が身につけるもの。これで何がわかるのかが語られると、会場内は騒然とした


増田氏/今、小さな積算線量計を回覧していますが、これは子ども達がいる家庭に配布されているものです。ちょっとシャレにならない代物です。五十嵐さん、説明していただいて宜しいですか?

五十嵐氏/それは、千代田テクノルという会社が製造したガラスパッチの積算線量計です。これは本来なら、エックス線の業務に就かれる方が身につけるものです。今見ても何も数字は出ません。その積算線量計は、その場で測定して数値が表示されるのではなく、数値を出すためには、それを提出し、事業者がデータを出し、数値を報告してくる、という仕組みです。本来はエックス線技師らの業務用ですから、基本的に0.1ミリシーベルトまでしか測れません。一般で購入すれば、ひとつ2~5万円はします。

増田氏/それが全児童に配られていると。万単位どころではないですよね。

五十嵐氏/避難されている方も含め全員で70万個ぐらいだと思います。

増田氏
/70万人かける2~5万円! しかも、その場で、自分で、数値はわからない。それを回収してデータを取り出して、『お宅のデータはこれだ』と言ってくるのですよね? その結果を信用できるのですか?

五十嵐氏/できません。エックス線の業務で使用した場合、身に付けたものを提出し、データが戻ってくるまでにこれまで約20日間かかっていました。ところが、今これだけの膨大な個数があるというのに、今では1カ月かからずに測定結果が郵送で送られてきます。それだけの検査設備をこの短期間で整えるのは、常識的に考えても不可能です。その時点で信用できません。そして出てくる数字は、私の周りはまんべんなく1カ月積算で0.1ミリシーベルトです。住んでいる地域、生活状況が皆さんそれぞれ異なるのに、です。ただ、中にはいたずらする人も居て、雨樋のところは数値が高いので、そこにおいて提出する人も居ます。その人の結果はさすがに1カ月積算で3.0ミリシーベルトだったそうです。



増田氏/相当なお金が動いているはずですが、本当に何をしているのでしょうね。それほどたくさん配られて、そのデータが信用できない状況だと……。私はおふたりに何度か会っていますし、事故も許せないし、そこから毎日毎日高い放射線にさらされている福島の皆さんお気持ちものもすごく痛いのですが、もっと嫌なのが、その後の人間の取り組みがあまりにもずさんなことです。
私は、福島県の人の辛さは、放射線量が高いことだけでなく、そんな事態になっているのに、ダラダラしていたり、嘘をついたり、それをチャンスに金儲けしようとしている人がいたりすることだと感じます。そんな人間関係、社会状況の中で生きていかなくてはならないことに対して、胸を締め付けられます。福島を訪れた時に、この積算線量計を見せてもらいました。そして、スゴいお金が動いていて、しかもその実情をお聞きして、たまらない気持ちになりました。


●小国に注目する真の狙いとは? ビジネスのための実証実験台?

増田氏/一方で、小国では地域内各地の放射線量を細かく測定して発表するという集まりがあったのですよね? それについて清野さん、お話しくださいますか?



清野氏/はい。11月7日に、小国ふれあいセンターでとあるNPOの報告会と講演会が開催されました。もともとは、9月に伊達市霊山町小国(上小国、下小国)の住民有志で、「放射能からきれいな小国を取り戻す会」を発足しました。そして日本工業大学の教授と知り合ったご縁で、あるNPOが調査してくれることになり、データを出しました。その報告会だったのです。地表10センチと左は1mの測定データです。地表に近付ければ近づくほど、数値が高いのがわかります。小国地区の下のほうが上小国で。上の方が私の住んでいるところです。



増田氏
/そこまでは調査してくれたわけですね。で、その後は?

清野氏/はい。私たち住民の問題としては保証がどうなるのか、そういうノウハウを持ってはいませんから、弁護士さんが必要となります。そのNPOの役員や正会員の中に弁護士さんもいるのでと。ところが、その報告会と講演会にいらした来賓の顔ぶれが、原発関連の大手企業や商社の元OBの方が一堂に会されていて。何かこう、私たち住民のほうが品定めされているように感じました。

増田氏/私もそのNPOが気になってサイトを見ましたら、役員の方々の多くが、東電が導入した高濃度放射性汚染水処理装置を扱う某大手メーカー関係者や総合商社の関係者でした。

邪推かも知れませんが、どうも除染装置の実証実験を伊達市の小国でやりたいのではないか。そこに商社が入り、原発と除染装置をセットにして海外に売ろうという考えではないかと感じました。

私は清野さんのお母様にお会いしました。桃の畑などを貸して生計を立てていらっしゃる。しかし、そこに働きに行けない、あるいはどうせつくっても売れないから、借りてくれている人が畑を返すということにもなりかねないとおっしゃっていました。

清野氏
/桃に関しては多少ですが保証が出るようになりました。

増田氏
/保証がでるのは良かったですね。10月にご自宅へお邪魔した時に、「むしろ避難しろ、出て行けと言われるなら何とかなるけれど、暮らしていてもいい、働いてもいい、と言われても、ここでどう生きていけばいいんですか?!」と、清野さんのお母様に目を見つめられて言われた時に、私は何も応えられませんでした。何も応えられなかった……。本当に理不尽なことが起きていると、あの叫びを聞いて思いました。



清野氏/私がまだ学生時代に父が他界し、私はとりあえず卒業しなくてはと学業に専念しました。また、祖父母が痴呆症になったりして、母も農業に力をかけられる状況ではなくなりました。放射能の一件で、ぎりぎりの状態で何とか維持してきたものが崩されて、それで母親はあのように訴えたのだと思います。




●行政の対応は? 国民を守るのは誰なのか?

増田氏/線量計も信用できない、除染もたぶんに企業利益と絡んでいるのではないかということですが、行政の対応はいかがなのでしょうか。国、県、市いろいろありますが。

五十嵐氏/市の対応はほぼないです。ただ、市内からもセシウム137が検出され、農家保証がありますが、住民への保証はありません。文科省の原子力損害賠償紛争審査会の追加指針では、郡山以北の23市町村の居住者に対し、ひとりあたり8万円、妊婦と18歳未満には40万円、という数字が出ています。恐らく2000億円規模の予算になるはずです。

増田氏/それで以上ですか?



五十嵐氏/はい。以上です。このお金をもらってどうするのか、です。避難、週末避難、除染費用、線量計購入費、マスクなど、各家庭でいろいろ考えてやっていますので、お金をもらうのは嬉しいですが、お金で済ませる問題なのか!と。福島市で言えば、3月15日19時半がヨウ素の最高値です。24マイクロシーベルト/時。今の600倍に相当します。当時、その状態が市民には知らされていませんでした。報道機関からはその当時、安全だと言われていました。その中で、水を汲みに行ったり、食料を買いに行くのに屋外で並んだりしていたわけです。その時はまだ余震も頻繁に起きていましたから、当然、子どもだけ自宅に残して外出するわけにはいきませんでした。家に置いては行けない。当然、子どもを連れて外に出ました。一緒に水を汲みに行ったり、食料を買うのに一緒に並んだりしていたわけです。間違いなく、内部被爆をしているのは確実です。

だから、今後どうなるか、です。県からは、県民健康管理調査というものが届きました。県民全員に送られ、記入して提出するというものです。ですが、回答を返信したのは全体の10%だそうです。なぜ回答率が低いのか。そんな当時のこと、夏に送られてきても覚えていません。覚えているワケがないじゃないですか。仮に記入して送り返しても、何の役に立つのでしょうか。だいたいの概算の被爆量が返ってきますが、それで、じゃ、どうするの?と。特別に被爆量の高い県民に関しては、県の方から診察を受けてくださいとアナウンスがあるのかもしれませんが、あるかもしれない、という状況です。


▲全県民対象に送付された健康調査。配布されたのは7月だという。
それまでの日々の活動を、一体どれほどの人が明確に覚えているだろうか

増田氏/過去にもスリーマイル島やチェルノブイリでの原発事故がありました。大変そうだなと思いましたが、どこか他国のことでした。それが今はよその国のことどころではなく、今まさに大変なことが自分のところで起きている。そういう状況ですね。

五十嵐氏/はい、そうです。それと、なぜ低線量被爆が危険かというと、ペトカウ効果といいまして、長時間で細胞膜の破壊が起きる現象です。細胞膜が破壊されて穴が開くと、そこから放射線が細胞内に入る状態になります。そうすると、細胞内で活性酵素、フリーラジカルが発生するので、それがDNAの2重螺旋構造を破壊するのです。ちょっとした傷であれば、自己修復能力があるので大丈夫ですが、長時間にわたって破壊し続けられると、細胞の変異が起きやすくなります。つまりイコール、ガンが起きやすくなります。なので、低線量被爆は危険なのです。0.1マイクロシーベルト/時、この数値が低いから大丈夫、ではなく、かける当然24時間、それが1年だと365日となるわけですから。


▲数値だけでは測れないと、低線量被爆の恐ろしさについて語る五十嵐氏



増田氏
/長い時間さらされることについて、推定年間被爆線量の推移という資料があります。低線量被爆がそれだけの長期間、まだまだ続くのだと。その目安が20年と見込まなければならない、それが今の実態です。


▲推定年間被爆線量の推移。低線量被爆の長期化と危険性が読み取れる


●これから、について。私たちにできることは?

増田氏/今日は限られた時間ですので、きっともっともっと詳しく聞きたくなるだろうとは予想していましたが、みなさん、どうでしょう。報道で聞くのと少しでも違うと、伝わったでしょうか。もともとこの時間内で全部お聞きするのは無理だと思っていましたが、テレビなど、マスコミとは違うのだと伝わればいいかと思うのですが……。

そんな大変な思いをしている中で、今日ここに来てくださった。そして明日、またその大変な福島へ戻られるわけです。これから、おふたりはどうしていきますか?



清野氏
/現状では除染をしていくしかないと思っています。どういう結果になるかは未知数ですが。行政に対する不信感は強いですし、震災後に逃げた新市長への不信感は拭えません。ですが、自分らでなんとかしなくてはいけない。自分たちで「放射能からきれいな小国を取り戻す会」をもっともっといい形にブラッシュアップして、訴えていくやりかたをやり通すしかないと思っています。

増田氏/伊達市には報道陣もたまに入りますよね。取材もあったと思うのですが、その会をうまく取材で取り上げてもらっていますか?

清野氏/テレビに映った同級生がかなり一時期、記者に追いかけられまして、それで半分ノイローゼになりかけたということがありました。やはり、とても小さなコミュニティで生活していますから、取材はお断りということもあります。正直、私も今日ここに出席するのもどうかと頭をよぎりましたが、伝えないことには、発信しないことには、何も進まないと思ったのでうかがいました。

増田氏/本当にそういう状況の中、ご登壇いただきありがとうございます。マスコミではない、こういう場を使っていただきたい。大変でしょうが、何回でもこういう機会をつくります。やはりご本人ではないと言えない、伝わらないこともあると思うので、自分らで発信するということ、大変でしょうが、どうぞ頑張ってください。五十嵐さんは?

五十嵐氏/自主避難できる人も結構いらっしゃって、6万人が他県へ出ています。家族でというケースもありますが、ほとんどが母子家庭です。基本的には、ご主人は残る。母子が出て行く、というケースが多いのです。自主避難できるなら、してしまえばてっとり早い。ですが、そうできない立場の方もいらっしゃいます。そういう方々はどうするかというと、できるだけ情報を集め、対放射性物質との戦いを挑むしかないのです。当然、子ども達の身体が心配ですから、策を練り体力を付けることもします。

増田氏/五十嵐さんもお子さんがいらっしゃるのですよね?

五十嵐氏
/はい。小学校2年生です。

増田氏/心配ですよね?

五十嵐氏
/そうですね。ですからいろんな情報を使って、マスクをするとか、家庭内の除染をするとか、食べ物を考えるとかをしています。日本の古来の食事の中には、放射性物質の排泄を促すものがあるとか、リンゴに含まれるペクチンがいいとか。抗酸化作用を促すような食べ物なら、フリーラジカルやDNA損傷を抑えられるとか。そのような形で、みんな頑張るしかないと思っています。

増田氏/政府や役場や東電ではなく、自分らで家族を守って行くと?

五十嵐氏/はい。そうです。

増田氏/県外への避難も方法のひとつですが、五十嵐さんの会社も従業員がいらっしゃるのですよね。親分だけが出て行くってわけにもいきません。まさにこうして、雇用を守る方もいて、家族もいるけれど、家族を持って頑張っている従業員や取り引き先もいる。福島県を出て行けばいい、と一概に言うわけにはいかないのです。だから、自分で守るしかない。これもまた、起業家とオーバーラップしてくるような話だと思うのですが、ことはハッキリしているのだから、どうするかは自己責任。もちろんなんら罪はないのですが、そのうえで、どうするかは自己責任なのですよね。では、おふたりとも、当分は県内にいるのですね?

五十嵐氏
/もう一回爆発しない限り、います。
清野氏/同じく。

増田氏/わかりました! 私は何度か福島にお邪魔して、おふたりに何をしたらいいのか、放射線量の高い地域の皆さんに何ができるのだろうと、悩んできました。かつて清野さんに「何か要るものありませんか?」とお聞きしたら、「放射能を消す機械をください」と。できませんよね、そんなこと……。



増田氏/でも、実際に福島へ行ってみたら、「来てくれるだけで嬉しい」と言われました。実は、福島へ行ったと言うと、「ええ?!」と驚く人がいっぱいいます。中には「行くな!」と止める人もいます。それだけ、大変なことが起きているのです。できることは少ないですが、今、福島の人の声を聞くこと、あるいは会って、何か起きているのかということを共有していくことはできます。NICeは頭脳交換ですから、そのうち、何かぽろっと言ったことが、何かおふたりに、福島に、役に立てることがあるかもしれません。だから絶対に交流していこうと。それこそ、自分たちができることの第一歩だと。そんな高度なことはできません。除染なんて、私にはできません。できないですが、福島県外へ避難されている方も多いし、外から行く人も減っています。だから、福島県へ行って、福島県産のものを食べて、お土産を買って、少しでもお金を落としたいと、2月11日に福島大宴会を計画しています。交流して一緒に頑張っていこうと。この後の基調講演でも言いますが、原発事故だけではありません。日本は本当に大変です。こんな大変な日本で、一緒に頑張っていく仲間と、エールを交換し合いたいと思っています。
今日は短い時間でしたが、おふたりにお越しいただき、現実の一端をお話しいただきました。そんな中でも、自己責任で頑張っていく、という話をしてくださった五十嵐さんと清野さんです。みなさんどうぞ、大きな拍手をお願いします。


▲これからも交流を続け、NICeの頭脳交換の第一歩として
2月11日に福島大宴会を開催すると語った増田氏

「2.11NICe大宴会in福島」の詳細・申し込みはこちら
http://www.nice.or.jp/archives/7662

「第12回NICe全国定例会inさいたま」レポートはこちら
http://www.nice.or.jp/archives/7719




取材・文、撮影/岡部 恵

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