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厳しさを増す経済・経営環境に立ち向かうために、NICe増田代表理事が送る、視点・分析・メッセージ 。21日配信のNICeメルマガシリーズコンテンツです。
不確実性の時代こそ、LLPの活用を!



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 「増田紀彦の視点 どうする?日本経済」

第123回 不確実性の時代こそ、LLPの活用を!
 
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今回は有限責任事業組合(以下、LLPと表記)を取り上げたい。
読者の中には、LLPという単語を初めて目にする人もいるかもしれない。
あるいは、知っていたが忘れていたという人もいるだろう。

現代は不確実性の時代といわれる。
こういう時代に新規事業を立ち上げるなら、
LLPの活用が有力な選択肢だと私は考えている。

LLPの説明は後半に譲り、
前半では、LLP法が制定された直後に満を持して、
北陸地方初のLLPを設立した起業家たちの躍動を紹介したい。


【福井県のビジネス熱の高さに惹かれる】

20年ほど前、私は頻繁に福井県を訪れていた。
特別な用事がない時でも、時間を見つけて足を運び、
同地の経営者や中小企業支援者たちと、
21世紀のビジネスについての思いを銘酒片手に語り合った。

とにかく、福井の経営者たちは面白かった。

今年3月16日、ようやく北陸新幹線が敦賀まで開業したが、
それまで福井-東京の行き来はなかなか不便だった。
この地理的条件は、ビジネスにとって少なからぬハンデである。

ところが21世紀の到来と時を同じくして、
インターネットが普及し、ECが活気づくようになったことで、
そのハンデを突破できる可能性が急速に高まった。

「ついに巡ってきたチャンスを、是が非でもモノにする」。
福井の経営者たちの気魄は凄まじかった。だから面白かった。


【FM福井の番組から、異業種連携の機運が高揚】

私が深くお付き合いしたのは、
学習塾用教則DVDを演劇仕立てで制作する経営者や、
個人を顧客とするメッキ加工サービスを発案した経営者、
織物業の資源を生かしてホームシアター用スクリーンを開発した経営者、
それに、やたらとネットに強いジュエリーデザイナーといった面々だ。
この事業センス抜群の人たちが、面白いことを始めた。

FM福井で番組を持つようになったのだ。
地元のビジネス熱をさらに高めることを目指しつつ、
深夜番組並の言いたい放題をやったから、とにかくウケた。
私も福井のスタジオまで何度も出かけ、
ありがたいことに、「準レギュラー」の誉れにも浴した (笑) 。

この番組を通じて彼らは、
福井には魅力的な事業や商品が多く存在していること。にもかかわらず、
それらが市場の中で小さな存在にとどまっていることを痛感する。

「もっと売っていかないと!」。
それが彼らの結論だった。なら、どうする?


【北陸初のLLP「あばさけ福井」が誕生】

時は2005年。
それまでの数年をかけて議論が続けられてきた、
日本版LLPがついに法制化された。

ドンピシャだ。

ラジオ番組の経営者4人組は、
高まる思いをかたちにするため、すぐさまLLPを設立。
福井県初どころか北陸地方全体でも初のLLPの誕生だ。
彼らが設立したLLPの正式名称は「有限責任事業組合 あばさけ福井」。

地元のさまざまな分野の商品を掘り起こし、
「あばさけブランド」として認定したうえで、
それらの販促やPRに取り組むのが事業内容で、4人がそろって出資した。

「あばさけ」とは、福井方言で「やんちゃ」といった意味だが、
同組合が最初に手がけた商品は、
「あばさけ(酒)」という名の日本酒だったと記憶している 。

遊び心いっぱいに、ビジネス情報を日々発信する彼らは、
いつも本当に楽しそうだった。

出資者4人の本業はバラバラだが、
本業ではないビジネスで地域を盛り上げたい。そして、楽しみたい。
さらには、その活動を通じて「次の事業の芽」を探し当てたい。
そんな夢を叶えるために、
彼らが選択した「器」が有限責任事業組合(日本版LLP)だった。


【LLPは法人ではないが、法人並の権利能力がある】

では、LLPとはどういうものか、
あまり長い説明にならないよう心がけて紹介していく。

LLPはLimited Liability Partnershipの略で、
日本語では有限責任事業組合と呼ぶ。
直接事業に携わる2名(社)以上の出資者によって設立できる。

Limited Liability=有限責任とは、
出資者は組合の債務履行に責任を負うものの、
負うべき債務の範囲は出資額が上限であり、
その額を超えて無限に責任を負わされるわけではないという意味だ。

出資者の有限責任を認める点では、株式会社や合同会社も同様だが、
LLPはそれら会社組織と異なり、法人ではなく「任意の組合」になる。

ただし、LLP法の制定により、任意の組合ではあるが、
登記することで一定の権利能力を持つことが可能になった。

例えば、一般的な任意団体では、金融機関口座を開設することはできないが、
LLPならそれも可能というような意味だ。だから事業組織になり得る。


【LLPに法人税は課税されない】

この「法人ではない」という点がLLPの「ミソ」である。

法人ではない以上、LLPに法人税が課されることはない。
つまり、事業で収益をあげ、決算で黒字になったとしても、
課税されないのである。

例えば、小さな株式会社が300万円の黒字を出した場合、
法人税や法人事業税、法人住民税などを合計すると、
おおよそ70万円を納税することになる。
だがLLPなら、同じく300万円の黒字であっても、納税額は0円だ。


【利益分配の面でも法人よりLLPのほうが有利】

LLPに関連して課税が発生するのは、
利益(剰余金)を出資者に分配した時だけだが、
それとて課税対象は出資者であり、LLP自体への課税はない。

分配金を受け取った出資者が課税される点は、
株式会社や合同会社も同様だが、
会社組織は前述のように法人税を納めるため、
税引き後の剰余金自体が減少している。

300万円の黒字を例にすれば、
会社の場合、約70万円が課税されるため残金は230万円になる。
これを仮に4人で均等に分けた場合、1人当たりの分配金は57.5万円だが、
LLPの場合は課税されないので、300万円をそっくり4等分でき、
1人当たりの分配金は75万円にアップする。

一方、赤字の場合、欠損分をそのまま次年度に繰り越してもいいが、
損失を出資者に割り振ることもでき、
本業で黒字が出ている場合には、節税になる側面もある。


【LLPの真の魅力は、事業をじっくり育てられること】

しかし、LLPの何よりの魅力は、年度ごとに課税されるルールがないため、
早い段階での資産減少がなく、
新規事業をじっくりと育成できる点にある。

市場の様相が猫の目のように変わる昨今、
時間を掛けて新規事業を計画している余裕はない。
かと言って、エイヤッで、新規事業をスタートさせるのも危ない。

だから、LLPを使って、実験的に事業を始める方法が有効だ。

また、他社との連携で新規事業に着手する場合、
義務や権利に関する取り決めが複雑になり、紛糾することも少なくない。
事業がうまく行けば行ったで、行かなければ行かないで、何かと揉める。

その点LLPは、あらかじめ存続期間を決めることができるから、
「とりあえず5年間、共通のお財布で、新規事業に取り組みましょう」、
という取り決めで気軽にスタートを切ることも可能だ。

ちなみに前半で紹介した「あばさけ福井」の存続期間は10年で、
終了後は、新規設立した「合同会社あばさけ福井」が活動を承継している。


【LLPは、つながり力をかたちにするための手始め】

2006年3月に東洋経済から出版された『よくわかるLLP活用法』の中で、
私は以下のように書いている。

「スタートアップ期の起業家は、着手した事業を軌道に乗せるべく、
本業に邁進しなければならない。だが、リスク回避や成長計画の観点からは、
本業と並行して『次の芽』を探し、育てることも必要不可欠となる。
とはいえ、新進起業家にとって、本業とは別の事業に割く時間や労力、
人材や資材、資金などをすべて自前で調達することは相当に困難だ。
LLPは、この悩みを解決する方途である。
複数の個人や法人が、本業に投入する能力や資源の一部を出し合うことで、
『次の芽』に手をかけることが可能になるからだ」。

執筆からすでに18年が経過しているが、どうだろう。
いささかも古びた印象を感じさせない言い分ではないだろうか。

むしろ、戦争もパンデミックも大型自然災害も発生していなかった18年前より、
いつ、何が起きるかわからない今時のほうが、
よほど、この視点が当てはまると私は感じた。

思い起こせば、LLP法制定当時、
私は経済産業省の立法担当者とともに、この「器」の普及に取り組んだ。
その流れで、北陸初のLLP設立をはじめ、
いくつものLLP設立にかかわることもできた。
だが、そんな輝かしい過去など、すっかり忘れていた (笑) 。

眠っていた記憶を呼び起こしてくれたのは、昨今の経済情勢だ。
不確実ではあるが、座してもいられない。
そんな時代をどう切り開くかと考えた時、LLPの活用を思い出した。

LLPは、つながり力をかたちにするための手始めでもある。

<一般社団法人起業支援ネットワークNICe 代表理事 増田紀彦>


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「つながり力で起業・新規事業!」メールマガジンVol.206 
(2024.3.21配信)より抜粋して転載しました。
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