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厳しさを増す経済・経営環境に立ち向かうために、NICe増田代表理事が送る、視点・分析・メッセージ 。21日配信のNICeメルマガシリーズコンテンツです。
副業解禁・奨励への転換が、企業と従業員を守る



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    「増田紀彦の視点 どうする?日本経済」

     第76回 
     副業解禁・奨励への転換が、企業と従業員を守る
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【副業を秘匿した60代のコロナウイルス感染者】

新型コロナウイルスの感染が確認された山梨県内の会社員が、
保健所に対し、コンビニでアルバイトをしていることを隠していた、
というニュースが流れた。
会社員は、「副業がばれるの怖かった」という趣旨の説明をしたそうだ。

このニュースに触れて、あらためて感染症対策の難しさを痛感した。
副業の発覚に限らず、違法な行為ではないにしても、
いつ、どこで、誰と、何をしていたのかを、すべて曝け出すというのは、
なかなか悩ましい話かもしれない。
「非常事態なのだから、プライバシーもへったくれもあるか」。
そんな暴論を口にする人も出てきそうで、いやな感じだ。


【住民税の上昇により、副業は勤務先に把握される】

この男性の氏素性は詳しく公表されていないが、
食品会社に勤務する60代の男性だという。

彼が副業の発覚を恐れたということは、
勤務先の就業規則が、副業や兼業を禁止している可能性が高い。

もっとも男性には申し訳ないが、
アルバイトをしていることは、早晩、勤務先に把握されるだろう。
なぜなら、翌年の住民税が、「普通より高くなっている」からだ。

複数の事業所から給与を受け取った場合は確定申告をすることになり、
その人の最終的な所得が確定すると、
税務署は、データをその人の住所地がある市区町村に送る。
市区町村はそれをもとに、翌年の住民税額を決定する。
そして、その額が毎月の給与から天引きされることになる。

だからバレる。
勤務先が支払った給与から割り出される住民税額より、
市区町村役場が通知してきた税額が明らかに高くなっているからだ。

ちなみに、勤務しながら自分自身で法人を設立し、
そこから給与(役員報酬)を受け取った場合も、
複数の事業所から給与を受け取っているので同じことだし、
勤務と並行して個人事業を開始し、事業所得を得た場合も、
やはり確定申告の義務があるので、結果は同じである。
(ただし事業所得が20万円以下の場合は申告をしなくても良い)


【就業規則の副業禁止条項に、法的拘束力はない】

しかし問題は、バレる、バレないの話ではなく、
副業を禁止して、従業員の収入機会を阻む企業が、
いまだあちこちに存在していることだ。

そもそも就業規則に副業や兼業を禁止する条項があったところで、
それ自体、法的な拘束力はない。
それこそ従業員の勤務時間以外の時間の使い方まで、
企業が制限するようなことは許されないからだ。

したがって副業を禁止するにしても、
同業他社で働くとか、その副業が本業と競合関係になるとか、
明らかに企業側にデメリットがあるケースに限定する必要がある。

山梨県の男性のケースは、
勤務時間以外にコンビニでアルバイトをしているのだから、
勤務先に損失を与える行為になるはずもない。


【副業は、人手不足の救世主である】

普通に考えると、山梨県の男性は、すでに定年延長に入っており、
給与も定年前よりは減額されているだろう。
あるいは定年を65歳に引き上げた企業に勤務しているかもしれないが、
それでも役職定年になっているだろうから、やはり収入は厳しいはずだ。

人生100年時代、先はまだまだ長い……。
少しでも収入を確保しようと、頑張る彼の姿が目に浮かぶ。
同世代の私としては、身につまされる話である。

一方、こうした働き手が登場してくれることは、
コンビニに加盟するFCオーナーにとっては、心底ありがたいことだろう。

ご存じのように、コンビニの人手不足は深刻であり、
とくに夜間の時間帯の店員を確保することは容易ではない。

以前にもこのコラムで話題にしたが、
「誰でもいいから、いないよりは、いたほうがマシ」という採用姿勢の結果、
店内で破廉恥な行為をして、それを動画サイトに投稿する連中が、
後を絶たないという事態を生み出してしまったのである。

その点、社会経験十分なシニア世代がシフトに入ってくれるなら、
オーナーとしては、安心して営業を続けることができる。

副業により、本人は収入が増える。
コンビニは人手を確保できる。
本業の勤務先は人件費を抑制できる。
まさに「三方よし」。

言い換えれば、「古い常識」に縛られず、
社会全体で労働資源の再配分の意義を理解し、推進していけば、
日本経済はまだまだ成長可能ということである。


【経営悪化で従業員を守れないくらいなら……】

安倍首相は今年1月20日の施政方針演説において、
あらためて兼業や副業を行いやすくする必要があることを訴え、
「今こそ、日本の雇用慣行を大きく改めていこう」と呼びかけた。

今の今は、新型コロナ対策で政府もおおわらわだろうが、
それはそれとして、副業や兼業の推進(阻害要因の排除)は急務だ。

ちなみに新型コロナ不況に対する従業員保護の緊急措置として、
政府は雇用調整助成金の特例を発動した。
事業主が従業員の一時休業や出向を行い、雇用の維持を図った場合、
休業手当や賃金の一部(中小企業は支払い額の3分の2)を助成する制度だ。
しかし、支給限度日数は年間100日で、
事業所がこの特例にいつまでも寄り掛かることはできない。

また、厚生労働省は、解雇や雇い止めなどで収入が断たれた人に対し、
無利子で毎月20万円までを融資するという情報もある。
が、言うまでもなく、借りたお金は返済せねばならない。

このように、新型コロナ不況に関する各種の緊急措置が実施されてはいるが、
いずれも「取り急ぎ」の打ち手であり、
仮に今の事態が鎮静化したところで、また何かあればドタバタの繰り返しだ。

だからこそ、企業は従業員の副業を禁ずるべきではない。
日本経済の根本にある問題は人手不足である。
企業は人件費の抑制を図りつつも、
戦力をしっかり確保しておくことが、中長期的には必須である。


【自力で食える日本人を増やすためにも】

今回の不況は、「リーマンショック並みかそれ以上」と言われている。
現状は、客足が途絶えた観光業、飲食店業、娯楽産業、
あるいはサプライチェーンが切れた製造業や建設業のピンチが目立つが、
それらの業種と取引を行う、ありとあらゆる業界にもピンチは広がる。
それこそ、不景気のパンデミックが経済全体を襲う構図だ。

リーマンショックから12年、東日本大震災から9年。
それ以降も熊本大地震をはじめ、毎年のように発生する自然災害や、
トランプ大統領誕生以降の世界情勢の不安定さに、
我が国の経済は翻弄され続けてきた。
そして、今度は新型コロナウイルス……。

もはや、従業員は安定して企業に務め続けられる保証はないし、
企業は、安定して人材を確保し続けられる保証もまるでもない。
そう考えるほうが、自然ではないだろうか。

自らの生活は、自らの手で守る。
企業も従業員も、つまり日本人ひとりひとりがその覚悟を固め、
それを実践するための手段を早急に手に入れることが必要だ。
まずは収入先を一社に依存しない、もしくは一社に依存させないこと。
副業解禁は、そのための現実的な第一歩である。

<一般社団法人起業支援ネットワークNICe 代表理事 増田紀彦>
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「つながり力で起業・新規事業!」メールマガジンVol.109
(2020.3.24配信)より抜粋して転載しました。
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