今があっての未来
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「増田紀彦の視点 どうする?日本経済」
第71回
今があっての未来
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【台風19号で被災した仲間からの電話】
茨城県の仕事仲間から電話があった。
「自宅近くの川の堤防が決壊して……」。
ああ、やはり。無事を念じていたが、ダメだったか。
本人は、「恐らく年内は仕事に復帰できないと思うので」と語り、
今後の仕事の進め方について、冷静に私に話を続けていた。
その気丈さに、胸が詰まった。
彼女の生命が失われなかったことが、せめてもの救いだが、
住む家を失ってた悲しみや、今後の生活の立て直しの苦闘を思うと、
慰めの言葉もない。
無理をせず、とにかく心身の健康を保って欲しいと願うばかりだ。
あらためて、台風19号がもたらした被害の大きさに言葉を失う。
一体、日本中でどれだけの数の人が、
彼女と同じような苦境に立たされているのだろう。
そして政府に対して思う。「もういい加減にしてくれ!」と。
【本来、防げたはずの「同時多発決壊」】
今回の災害をとてつもなく大きなものにしたのは、
言うまでもなく河川の堤防の決壊だ。
ニュースによれば、7県の71河川・128カ所で決壊が起きたという。
越水箇所ではなく、堤防が切れた決壊箇所。信じられない数字である。
仮にも「先進国」の日本で、こんなことが起きる道理はないはずだ。
日本の土木技術は世界に誇る水準であり、
今回の惨事を防げないような、そんな国では決してない。
【自然災害に無策な日本。そう言われても仕方がない現実】
では、なぜ、こんなことになったのか?
技術はあっても、国土強靱化のための予算を削り続けてきたからだ。
台風19号の前には長期停電をもたらした台風15号被害があった。
昨年は北海道胆振東部地震があり、西日本大豪雨があった。
一昨年は九州北部豪雨があり、3年前には熊本地震があった。
さらに……と、枚挙に暇がないほど、
この国は、毎年確実に甚大な自然災害に見舞われ続けている。
自然災害にやられっぱなしの日本が、
一体どうやって経済成長や社会発展を遂げると言うのだろう?
恐らく今年の自然災害による被害額は、確実に1兆円を突破するはずだ。
毎年この規模の被害を受けていながら、政府は何を改善したのか。
つい先程も福島県いわき市のホテルから私に連絡があり、
「タオルやシーツを届けるリネン会社が被災して代わりがない。
それでもよろしければ値下げしてお泊まり頂けますが」とのこと。
自然災害による損失は、かくして同心円状に拡大していくのである。
苦労して誘致したラグビーのワールドカップでも、
史上初の試合中止という事態を招いた。
「あの国に行って、本当に大丈夫なのだろうか」と、
そろそろ世界が不安視を始めてもおかしくない状況だ。
【消費税増収2兆円の使途に防災・減災予算は組まれているが】
10月1日から消費税率が10%になり、2兆円の増収が見込まれた。
そこから増税による景気落ち込み対策予算6606億円を捻出。
残りが防災・減災対策予算である。
具体的には、堤防強化や土砂災害防止のためのインフラ整備に7153億円、
ため池の改修・補強や、漁港の補強などに1207億円、
自衛隊を災害派遣した際に必要な資機材の整備などに508億円、
コンビニの自家発電設備導入補助資金に329億円、
施設の耐震化などに1727億円。その他も含めて合計1兆3475億円。
つまり、これらの項目に対策が必要なことを政府はわかっているのである。
【財政健全化のために削減され続けてきた防災予算】
さて、ここまで読まれた方は、
「政府はちゃんと予算を組んでいるではないか」と思われただろう。
そこが問題だ。言葉は悪いが、この予算案は、
「政府がやるべきことをやっている」と思わせるように組まれている。
元来、国土強靱化のための予算はこんな少額ではなかったのである。
私は昨年9月のこのコラムでも、そのことを問題にしている。
平成9年度の災害予防予算は1兆1471億円、国土保全予算は2兆147億円、
合わせて3兆1618億円を取っていた。
それが20年後の平成29年度では、災害予防予算5249億円、
国土保全予算1003億円、合わせてわずか6252億円にまで削減されたのだ。
むしろ日本の基盤である国民の生命と国土の保全を考えるなら、
この20年間で予算は増えてしかるべきであり、
消費税増税による増収の一部を当てたところで、根本が間違っている。
要するに財務省が掲げる「財政健全化」の弊害である。
国の借金を減らすという目標のために、
歳入を増やす(増税する)とともに歳出を減らす(予算を抑える)政策だ。
【国の借金が問題? そんなことはない】
政府は何かというと、「借金を未来に残してはいけない」と口にする。
だが私はそうは思わない。
必要な借金はすればいい。
そもそも「貸さない」などと言っている人が、一体どこにいるのか。
国の借金の大半は国債であり、国債の大半は銀行が購入している。
その銀行に資金(預貯金)を提供しているのは私たち国民であり企業だ。
私たちの生命と暮らしと仕事を守るために使う資金を、貸さない理由はない。
だいたい、これほどまでに災害に痛めつけられている国民経済を放置して、
未来も何もあったものではない。
古い流行語だが、財政出動すべきは「今でしょ」である。
増税や社会保障費の増額による実質賃金の低下に歯を食いしばり、
自然災害によるダメージにも耐えて、私たち日本国民は必死で生きている。
どうか、今頑張っている日本の国民に、政府は少しでも報いて欲しい。
<一般社団法人起業支援ネットワークNICe 代表理事 増田紀彦>
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「つながり力で起業・新規事業!」メールマガジンVol.99
(2019.10.21配信)より抜粋して転載しました。
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