地域金融機関とNICeの連携が切り拓くもの
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「増田紀彦の視点 どうする?日本経済」
第53回
地域金融機関とNICeの連携が切り拓くもの
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【多様なアイデアが飛び出した「頭脳交換会inいわき」】
3月17日(土)、福島県いわき市において、「頭脳交換会inいわき」を開催した。
いわき市内外の起業家6組が、事業構想や事業課題を発表。
それらに対して参加者全員が、我がことのように脳みそに汗をかき、
アイデアを捻り出し、議論し、次々と発表者にアドバイスを送った。
これまで10年間、全国各地で頭脳交換会を開催してきたが、
その熱気もさることながら、次々と発案されたアイデアの多様性においても、
いわきの頭脳交換会は、間違いなくトップレベルだった。
そうなった要因は複数思い当たるが、
やはり、いわき市が、「日本有数の異業種の街」であることが大きいと感じた。
【地方都市ならではの、異業種ぶり】
と言っても、ピンと来ない人もいると思うので、以下の比較を見てほしい。
人口・世帯数がいわき市と近い都市と同市との比較である。
(データはすべて平成27年度国勢調査による)
●いわき市(福島県)
■人口350,237 ■世帯数141,069(A)
■事業所数14,918+農林漁業者数11,817=26,105(B)
★自営比率(B÷A) 18.51%
●所沢市(埼玉県)
■人口344,198 ■世帯数156,868(A)
■事業所数10,045+農林漁業者数864=11,187(B)
★自営比率(B÷A) 6.95%
●高槻市(大阪府)
■人口353,822 ■世帯数159,271(A)
■事業所数9,924+農林漁業者数523=10,447(B)
★自営比率(B÷A) 6.56%
いわき市が、いかに異業種の街であり、
いかに経営者や自営業者の割合が高い街であるかがおわかり頂けただろう。
実際、頭脳交換会の最中、
プレゼンに立った練り物(かまぼこ)メーカーの経営者に対し、
「私が生産するオリーブの葉の粉末を練り込んでほしい」という声が上がり、
その場で試作に取り組むことが決まった。いわき市ならではの成果である。
【次の地域経済を拓こうと挑戦する、いわき信用組合】
しかし、何もいわき経済がバラ色だというような話ではない。
半世紀前の常磐炭鉱の閉山、その後の200海里制限による水産業の低迷、
そして7年前の東日本大震災と福島第一原発事故による大打撃……。
いわき経済を支えてきた構造が、力を失い続けてきたのも事実だ。
その状況を何としても打開しようと挑戦を続けているのが、
同市の地域金融機関のひとつである、いわき信用組合である。
NICeは毎年3月、福島県内において頭脳交換会を開催し続けてきたが、
今回、初めて他団体との共同開催の形を取った。
そのパートナーも、いわき信用組合である。
【銀行と信用組合では、そもそも目的自体が違う】
世間には、信用組合=弱小金融機関と捉える人もいるが、それは違う。
銀行は、銀行法にもとづいて運営される営利を目的とした法人だが、
信用組合は、中小企業等協同組合法にもとづく非営利の法人である。
したがって銀行は、利益のためなら、どこへでも出掛けていくし、
法の範囲内で、あらゆる事業や業務を行う。
対して信組は、決められた営業エリアにおいて、
その地域の事業所や人々の生活のための金融支援を行うことを旨としている。
つまり、銀行と信組を比較すること自体、無理がある。
とはいえ、すべての信組が、「お題目」どおりに活動しているか、
といえば、決してそうだとは言えない現実もある。
いわく「ミニ銀行化」しているケースも少なからずある。
その中にあって、いわき信用組合は、頑なほどに原則的な経営を行っている。
その姿勢が、私たちNICeが全幅の信頼を寄せる理由でもある。
豊かな地域経済を実現するには、個々の事業者を支援するだけではダメで、
様々な事業者の様々な強みをつなげて、新たな市場を創造することが必須。
私が常日頃主張している事柄だが、
いわき信用組合は、まさにそれを日々実践しているのである。
【「ご縁を大切にする」という言葉の奥にあるもの】
頭脳交換会の当日、主催者を代表して、
いわき信用組合の江尻次郎理事長が挨拶された。
途中、私(増田)のことに触れ、「ご縁を大切にする人だ」と評して頂いた。
「つながり力の強化」を訴える者として、
ありがたくも、身が引き締まる言葉であるが、
同時にそれは、江尻理事長ご自身の姿であると私は感じた。
7年前の3.11のあとの、いわき市の状況は語るまでもない。
建物の倒壊、インフラの寸断、津波による大被害、そして原発事故。
人々は次々と逃げ出し、残った人々は大混乱に陥った。
その中、いわき信用組合は江尻理事長以下、幹部職員全員がいわき市にとどまり、
避難してしまった警備会社にかわって、
職員自身と取引先のトラック会社が協力して、支店へ現金を運び続けたのである。
「ご縁を大切にする」という言葉の奥にあるものは、使命感にほかならない。
「縁ある人と交わした契りは、何がなんでも全うする」という覚悟とも言える。
【地域金融機関が頑張れば、どこでも連携は生み出せる】
今回のいわき市での成果は、下記の5つの要素が揃ったことによる。
◆地方都市ならではの多彩な業種
◆とはいえ、放置すれば先はないという地域経済に対する危機感
◆であれば、連携で新たな事業を生み出そうと考える価値観
◆その思考と姿勢に共感する、私たちNICe
◆そして、ことを起こすための第一歩となる頭脳交換会の運営ノウハウ
では、この取り組みは、いわき市でしかできないことなのだろうか?
絶対にそんなことはない。
(1)~(3)を有する地域は日本中あちこちにあるはずだ。
その地域と、私たちNICeが出合えれば、確実にことは動き出す。
その出合いを取り持ってくれるのが、地域の金融機関である。
「あそこの社長は元気だ」「この地区の商店街は頑張っている」……、
そんな、地域の一人一人の顔が浮かぶような取り組みを行う信組や信金が、
顧客同士の強みを結びつけ、さらにその顧客たちと、
全国のNICeの仲間を結びつけてくれれば、成果は必ず出る。
日本経済は、大きなものからではなく、小さな事業の努力と、
それらをつなげて、大きな力へ育てようとする支援活動によって、
再び輝きを増すと、私は信じている。
<一般社団法人 起業支援ネットワークNICe 代表理事 増田紀彦>
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「つながり力で起業・新規事業!」メールマガジンVol.64
(2018.3.26配信)より抜粋して転載しました。
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