エンゲル係数上昇に潜むチャンス
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「増田紀彦の視点 どうする?日本経済」
第26回
エンゲル係数上昇に潜むチャンス
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【上昇に転じた我が国のエンゲル係数】
「高い低い」と、会話の中によく登場するエンゲル係数。
ご存じのとおり、エンゲル係数は、家計支出に占める飲食費の割合であり、
収入が増加するほど飲食費率が低減するというエンゲル法則の基準となる数字だ。
ところで日本のエンゲル係数はどのように変遷してきたのだろう。
終戦直後には、2人以上世帯でおよそ66%に達していた係数も、
戦後復興→高度経済成長とともに下げ続け、
1980年には、ついに30%を下回った。以下はそれ以降の変遷である。
(総務省統計局・全国消費実態調査より)
1980年 …… 29.0%
1985年 …… 27.0%
1990年 …… 25.4%
1995年 …… 23.7%
2000年 …… 23.3%
2005年 …… 22.9%
2010年 …… 23.3%
2013年 …… 23.6%
【要因1 リーマンショックと食品原料価格の高騰】
気付かれたと思うが、一貫して下げ続けてきた係数が、近年上昇に転じている。
エンゲル法則にのっとれば、日本の家庭はジワジワと貧しくなっている。
なぜか? タイミングとしては、2008年のリーマンショックと重なる。
企業収益の悪化が家計を追い詰めたことに加え、
その時期、世界的な原料価格の高騰を受け、食料品は値上がりしていた。
短期的には、こうした要因が挙げられる。
【要因2 高くついてもやめられない肉食】
中期・長期の変化にも注目したい。
収入が増すと飲食費率こそ下がるわけだが、飲食費自体はむしろ上がる。
ところが景気悪化で収入が減少したにもかかわらず、
一度覚えた贅沢はなかなかやめられないのである。
具体的に言うと、かつて穀物で補っていたカロリーや栄養を、
肉類で補うようになった日本人は、この生活習慣を元に戻せないでいる。
言うまでもなく、肉類は食品の中でも高価格の部類。
肉食を見直し、米と大豆(味噌汁や豆腐、納豆)を中心に食していれば、
エンゲル係数は、軽く10%台に下がるはずだ。
出費も嵩み、生活習慣病の要因にもなる肉食を、なぜやめられないのか。
実は肉類に多く含まれるアラキドン酸が脳内で興奮物質を生成したり、
肉の油がエンドルフィンという興奮ホルモンを分泌したりするためだ。
タバコや酒と同じとまでは言わないが、肉食は人に快感を与え続ける。
【要因3 調理食品市場は30年間で倍以上に】
そして何より大きいのが、食事スタイルの変化である。
家庭で調理し、家庭で食べることを内食といい、
家庭外で調理したものを、家庭外で食べることを外食というが、
その中間ともいうべき中食(なかしょく)の伸びが食費を押し上げている。
つまり、家庭外で調理したものを、家庭で食べる機会が増えている。
1980年の家庭における1カ月の平均外食費用と平均中食費用は以下のとおり。
●外食 8,467円
●中食24,901円
※中食のうち加工食品21,024円・調理食品3,877円
対して2011年は、
●外食11,038円
●中食29,827円
※中食のうち加工食品21,644円・調理品8,183円
と、外食・中食ともに増加。中でも調理食品は2倍以上の伸びを見せている。
言い換えれば、調理食品市場が大きく育っているということである。
【頑張っている主婦を応援する意味も込めて】
かつては生鮮品と加工品を購入し、家庭で調理していたものが、
弁当類や冷凍食品・レトルト食品の購入に大きくシフトしたのである。
要因として、単身世帯の増加、食品製造技術の進歩、
スーパーやコンビニの店舗拡大などが挙げられるが、
それらにも増して大きいのが女性の社会進出である。
2006年の総務省の生活活動実態調査によれば、
専業主婦の家事従事時間が1日あたり平均4.11時間なのに対し、
パートタイマーなど、家事を主・就業を従とする兼業主婦は3.30時間、
就業を主、家事を従とする兼業主婦の場合は1.36時間である。
とてもじゃないが、働く女性が毎日一から料理を作っている時間はない。
一次産業を含む食関連のビジネスに就く人々には、
ぜひとも、成長著しい『調理品分野』での新商品開発に取り組んでほしい。
あるいは、完全調理のちょっと手前まで加工した食品でもいい。
「最後の仕上げ」は消費者(主婦)に任せる、という方法も悪くない。
<一般社団法人起業支援ネットワークNICe 代表理事 増田紀彦>
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「つながり力で起業・新規事業!」メールマガジンVol.29
(2015.0421配信)より抜粋して転載しました。
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