「農協改革」は、誰のためのものか?
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「増田紀彦の視点 どうする?日本経済」
第24回
「農協改革」は、誰のためのものか?
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【「JAを特別扱いするな」という要求】
まずは以下の文章をご覧いただきたい。
「これまで、JAグループの金融事業を金融庁規制下に置かない理由として、
金融庁規制下の金融機関と異なり、不特定多数に事業を行わないことが挙げ
られてきた。しかし、JAグループの金融事業は実質的に不特定多数に事業を
行っている状況が長く続いている。もし平等な競争環境が確立されなければ、
次の規制などを見直し、JAグループの金融事業を制約するべきである」。
・組合員の利用高の一定の割合までは員外利用が認められていること
・僅かな出資金を支払って構成員になることができる「准組合員制度」
・JAグループ全体に適用している独占禁止法の特例
ということで、この文章は、「JAグループの金融事業を、金融庁規制下にある
金融機関と同等の規制に置くよう要請する」と訴えている。
訴えているのが誰かは、もう少し後で紹介する。
【農協改革のシナリオを書いたのは誰?】
安倍政権が推し進める農協改革の一環として、
先般、JA全中の一般社団法人化(弱体化)が決まった。
このニュースが飛び交ったとき、
上記の文章のような、JAグループの金融事業(JAバンク、JA共済)を、
問題視するコメントがテレビニュースで一斉に報じられた。
ご記憶にある方も少なくないだろう。
ところでこの要請を書いたのは誰か?
省庁でもシンクタンクでも日本の金融機関でもない。
なんと発信者は、在日米国商工会議所(ACCJ)である。
昨年5月、同会議所が日本政府に提出した、
『JAグループは、日本の農業を強化し、かつ日本の経済成長に資する形で
組織改革を行うべき』と題した意見書からの抜粋だ。全文は以下。
http://www.accj.or.jp/images/140604_JA_Kyosai_INSC_BFCM.pdf
日本のマスコミや「識者」の言い分は、
この意見書をベースにしているのではないかと思えてくる。
【過疎地域の生活を支えるJAグループ】
昨今私は、月の半分近くの日々を費やして、農家や農協を訪問している。
中には、農協の営農指導に納得がいかず、直販の道を探る農家もいるが、
それでも、農協の存在自体を否定するような人はさすがにいない。
なぜなら、農協は地方に暮らす人々のインフラを担っているからだ。
金融や共済(保険)、医療や福祉、冠婚葬祭、買い物、ガソリンスタンド……。
大都市で暮らす人には実感値がないかもしれないが、まさにすべてである。
「農協は農業のための組合なのだから、余計なことをするのはおかしい」。
そういう「正論」を耳にすることもあるが、
では、その「余計なこと」の数々をいったい誰が引き受けるのか?
農協が解体され、金融なり福祉なりが別法人化(民営化)された場合、
本当に過疎地でのサービス提供を維持できるだろうか。
国鉄民営化と同様、収益性の低い分野は恐らく廃止されてしまうだろう。
【米国にとってのTPPの意義】
一方、収益性の高い分野には、ライバルがどっと押し寄せることになる。
ここがポイントだ。
農協の金融事業に関する規制が緩和されれば、何兆円、何十兆円という、
巨額の金融資産に誰もが手を付けられるようになる。
日本の金融各社は、またとないチャンスを迎えるわけだが、
誰よりもこの市場を狙っているのが、米国金融機関であり米国保険会社である。
米国にとってのTPPの意義とは、
一にも二にも、日本の溢れんばかりの金融資産を我が物にすることにある。
つまり米国商工会議所は、TPP後の米国金融ビジネスの日本市場展開が、
「スムーズに行くよう、地ならしをしておけ」と政府に要求しているのである。
【ピンチをチャンスに変えるしか、道はない】
農協の弱体化を期待しているのは、何も米国だけではない。
製造業など多くの業種の日本大手企業が、このシナリオに期待を抱いている。
農業分野への新規参入を進めたいからだ。
言い方を変えれば、農家に代わって「農業ビジネス」を担いたいからだ。
その意向の前に立ちはだかる農協は、邪魔者ということになる。
政府の農協改革は誰のためなのか?
米国のためであり、大企業のためである、としか言いようがない。
世界経済の盟主である米国が生き延び、また日本の大企業が生き延びれば、
トリクルダウン理論で、私たち下々の者へも恩恵が落ちてくる。
そういう考えかもしれないが、私は、こんな理屈を信用していない。
いや、信用するような、軟弱な人生観ではいけないと思う。
すでに舵は切られている。
かくなる上は、米国金融に負けないサービスを日本企業が提供すること、
同時に、大企業の施設栽培に負けない価値ある農産物を農家が提供すること、
そして農協は、金融各社や農家とあらためて強固な連携を構築すること。
これしかない。
「ピンチはチャンス」の起業家精神が、今こそこの国の隅々にまで求められている。
<一般社団法人起業支援ネットワークNICe 代表理事 増田紀彦>
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「つながり力で起業・新規事業!」メールマガジンVol.27
(2015.0223配信)より抜粋して転載しました。
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