「地域における女性の起業支援の重要性」 担当者会議報告会レポート
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2015年2月4日(水) 、東京都千代田区の日本政策金融公庫にて、女性就業支援全国展開事業(厚生労働省委託事業)主催、(株)日本政策金融公庫 国民生活事業共催による「地域における女性の起業支援の重要性 担当者会議報告会」 が開催された。
「女性就業支援全国展開事業」とは、女性の就業支援(女性の就業促進と健康保持増進の支援)充実を目的に,全国各地の女性関連施設をバックアップする厚生労働省の委託事業だ。2014年度に受託した一般財団法人女性労働協会が、全国の女性関連施設や地方自治体など、女性の就業を支援する立場の方を支援し、各種相談から、要請に応えた事業の企画・運営の準備段階もサポートし、女性就業支援センター職員および各分野の専門家を講師として現地へ派遣、現地でのセミナーや研修会などを実施してきた(NICeの増田代表理事および小林京子理事も専門家として各地へ赴き、登壇している)。
女性労働協会では、その事業を通じ、女性の起業支援に関する相談やセミナー開催の要望が高まっていることを受け、地域における女性の起業支援がよりスムーズに展開されるよう、「女性の起業支援プログラム検討委員会」を設置。委員会メンバーは、中小企業診断士の古屋由美子氏、日本政策金融公庫 国民生活事業本部 創業支援部 創業支援グループリーダー 森本淳志氏、そしてNICe増田代表理事。同委員会では、これまで女性就業支援全国展開事業を実施した関係機関に対してアンケート調査を行い、女性の起業の現状、女性の起業支援の意義と重要性、課題、課題解決のための取り組みなどを検証した。そして2015年2月、それらをA4サイズ46ページの冊子『女性関連施設等事業担当者のための女性の起業支援実施の手引き』にまとめ、自治体・男女共同参画担当部局・女性関連施設などが女性の起業支援にどのような役割を担うべきかを提示した。この冊子の配布および報告会として、関係機関の担当者を一堂に介する当会を開催するに至った。
参加者は、自治体や男女共同参画担当部局、女性関連施設、起業支援機関など、女性の起業支援に携わるさまざまな機関の担当者が全国各地から集い、定員を大幅に上回わり、急遽予定会場を変更するほどの大人数となった。また、プログラム第2部ではNICe増田紀彦代表理事がコーディネーターを務め、活発な意見交換・情報共有が行われた。
開会に先立ち、挨拶に立った(財)女性労働協会専務理事・佐藤千里氏は、「女性の起業支援が全国的にもっとスムーズに、有効に進められていくよう、起業の専門家3名にお願いをし、女性の起業支援プログラム検討委員会を設置しました。助言を頂きながら、検討した内容をとりまとめたのが、この手引きです。起業支援は男女関係なく行われてきましたが、女性の起業というのは男性とはまた違った取り組みや課題があるのではないか。まだ日本社会では、労働分野での男女格差が残されています。起業支援においても、男女共同参画の視点を持つことがまだまだ重要ではないでしょうか」と述べた。
また(株)日本政策金融公庫 国民生活事業本部 創業支援部長・山田康二氏は、
「これまで女性のための創業支援フォーラムを開催し、発展系として各自治体の担当の方々と会議を重ねてきました。地域に置ける女性の起業は、雇用創出、地域の活性化の原動力です。ですが、女性起業の環境はまだ不十分。当社の女性融資割合は2割です。もっと大きくしていきたいと考えています」
ちょうど先月、東京大学で開催された日本政策金融公庫主催第2回高校生ビジネスプランコンテストの最終審査会の様子と概要にも触れ、「若者の起業マインド向上を目的に、公庫の職員による290回もの出張授業やビジネスプランコンテストも主催しています。第2回ではエントリー数1717件、参加学校数207校でした。特徴的なのは、中でも女生徒の応募数です。先ほど女性への融資実績は2割だと申し上げましたが、高校生ビジネスプランコンテストでは応募の6割が女生徒でした。若年層の女性の起業に対するマインドは、決して低くはありません。今後も、若者、女性の起業マインドの向上、掘り起こしに尽力していきます。今日は活発な議論をいただけますよう、また各地からお越しくださった参加者のみなさま、公庫職員、協会の、ネットワークづくりの先駆けになればと思います」と挨拶した。
プログラム第1部 報告会
1 『女性関連施設等事業担当者のため女性の起業支援実施手引き』より
女性労働協会 女性就業支援専門員・富尾木綾子氏から、冊子『女性関連施設等事業担当者のための女性の起業支援実施の手引き』から抜粋して、なぜ女性の起業支援が必要か、事業担当者が抱える現状の課題、地域の起業支援機関との連携、の3項目の報告が行われた。
最初に、働く女性の現状について。
女性就業者数は2701万人、その多くが非正規雇用であり、また働きたいが働けていない潜在労働力は300万人以上との数字を示し、そのような女性にとって、雇われない働き方である起業が、ひとつの提案になるのではないかとの考えから、冊子作成に着手したと経緯が報告された。
政府による女性躍進推進の施策「女性のチャレンジ応援プラン」には、女性のアイデアで地域を元気づける起業支援という項もあり期待できるものの、現在ではまだまだ過渡期だと結論づけるさまざまな要因を挙げた。また、自ら講師派遣で赴いた際、女性受講者から聞いた言葉も紹介し、女性の起業希望者が抱える課題解決には、男性への支援とは異なる仕組みが必要だと述べた。
次に、支援する側の現状はどうかについて説明。
当団体の女性就業支援全国展開事業を実施した・実施していない、全国の関連部署および担当者へのアンケート結果から得た課題や阻害要因について報告。
そのうえで、1、現在進行中の「地域の創業支援ネットワーク」の強化と充実 2、起業支援における関連施設や自治体の部局が女性の起業支援の入り口部分の担い手となる重要性 3、多様なニーズとレベルに即した、起業までのステップと支援の必要性の3つの点を強調。富尾木氏は、地域における関係機関の連携こそが、女性の起業支援を充実させるのではないかと語り、今日のこの場が、連携強化のきっかけになればと願っているとして報告を終えた。
2 日本政策金融公庫 女性活躍推進の取組み
日本政策金融公庫 女性活躍・職場環境向上推進室室長・芝田彩子氏から、日本政策金融公庫の概要と、国民生活事業本部 創業支援融資実績および融資以外のサポート体制について説明が行われた。2014年12月に開催したNICeつながり祭り2014のプログラム第3部でも同社の森本敦史氏より公庫の取り組みが紹介されたが(参照レポート
http://www.nice.or.jp/archives/26311)、公庫は資金調達だけではなく、さまざまなサポートを実施している。そのうえで芝田氏は、利用者である女性の創業予定者にとって公庫が、相談しやすいのか、身近に感じてもらえる存在なのか、を考慮し、女性活躍推進の取組みに着手してきたとその背景を報告。
そして、取り組みにより、融資の現場には女性の審査担当者や相談員が増員され、利用者の地元情報に精通している地元採用のエリア職の窓口配置も拡大。さらに女性職員が自ら企画・運営・講師も務める、女性職員による女性創業者のためのセミナーを開催するなど、さまざまな取り組みにより、女性創業予定者に身近な存在へと大きく変化していると紹介した。最後に芝田氏は、今後も相談しやすい公庫を目指し、地域の関係者と連携し、女性の起業支援に取り組んでいくと語った。
3 事例発表「地域における女性起業支援講座の実施ついて」
冊子『女性関連施設等事業担当者のための女性の起業支援実施の手引き』に掲載されている
7事例の中から、以下3名による報告が行われた。
・齋藤 稔氏 白河市 産業部商工課課長
・鈴木公美氏 石巻市 復興政策部地域協働課課長補佐
・小松潤子氏 糸島市男女共同参画センター
▲齋藤 稔氏
▲鈴木公美氏
▲小松潤子氏
プログラム第2部 パネルディスカッション
「地域における女性の起業支援の重要性」
パネリスト:
・古屋由美子氏 有限会社 INRINRINRコンサルティグ代表取締役、中小企業診断士
・永沼 智佳氏 日本政策金融公庫 創業支援部ベンチャー グループリーダー
・齋藤 稔氏 白河市 産業部商工課課長
・鈴木公美氏 石巻市 復興政策部地域協働課課長補佐
・小松潤子氏 糸島市男女共同参画センター
・コー ディネーター:起業支援ネットワークNICe増田紀彦代表理事
「女性の起業支援プログラム検討委員会」のメンバーであり、冊子『女性関連施設等事業担当者のための女性の起業支援実施の手引き』作成に携わり、寄稿もしているNICe増田紀彦代表理事がパネルディスカッションのコー ディネーターを務めた。最初に、
「テーマは3つあります。ひとつは、起業支援という観点があります。女性の働く選択肢のひとつ、という側面もありますが、男女共同参画セクションにおいて、女性の起業を支援するということは、冊子にも記されていますが、その方にあったワークライフバランスの取り方という意味でも、入り口でこういう働き方もありますよと示すことが大切です。
しかし、雇われずに自己責任で生きていく、社会に対峙していくことは大変なことでもあります。当然、しっかりと計画し、下準備をし、そのプロセスだけでなく、起業したかけだしの状態もしっかりフォローする支援機関の役割が重要となってきます。ひとりの女性が、雇われずに生きる“起業”にまず関心を持つ。そして決意し、準備し、実現する。それまでにいくつかのステップがあります。それぞれの段階でのサポートを、支援する伴奏者もうまく連携して、伴走もまたバトンタッチをしていかないといけません。創業支援機関、男女参画セクション、公庫さん、専門家、それぞれみなさん、どの部分でどう応援するのか・できるのか、さらに、うまく引き継いで行けるのかが課題になっていくと思います。
2つめは、女性就業支援全国展開事業を実施してみると、女性の相談内容、希望、地域性、男性との違いなどを実感されたかと思います。起業を希望するリアルな女性イメージをみなさんで探ってみたいと思います。
3つめは、地域で社会で家庭でと、様々な役割を果たしながら女性たち幸せに暮らすため、そしてそれを実現するために各支援機関の連携について討議したいと思います。
この場は担当者会議です。会議ですから、参加した人は発言しないといけませんね。せっかく全国各地から関係者が集まったのですから、ノウハウや情報を出し合いましょう。同じような状況で頑張っているみなさんですから、ぜひ共有しましょう」
増田氏はこのように述べ、パネラーと会場参加者へ、質疑応答を行った。
「女性の起業支援セミナーを実施しようと思ったきっかけは?」
「講師を当初はどのように招こうと考えていたか?
「女性就業支援全国展開事業を利用しなければ予算的に開催は厳しい?」
「ほかの起業支援を実施している同地域の部署、商工課などとの情報交換はしていますか?」
「集客は心配ではなかったか? どうクリアしたか? 効果測定は?」
「参加者は地元生まれの方が多いですか?転入者が多いですか?それにより、業種や職種など、地域性や特徴的なものはありますか?」
「起業したくても、開業の場所探しが大変などの悩みはありますか?」
「しまった! というような困ったセミナー ありますか?」
「専門機関の相談員が男性の場合、相談者である女性がやりたいことを理解していると思いますか? また業種別の専門相談員は確保できていますか?」
「公的支援機関のさまざまなサポートがあります、知っていますか?」
会場からは、
「女性起業家のロールモデルを紹介したいが、部署内で起業家の定義について意見が分かれた。女性の視点で身近であり興味を持たれそうな方か、ある程度の企業規模で経営している女性起業家か?」
「女性だとお子様連れで受講したいという意欲ある方が多い。セミナーの託児所はどうしていますか?」
などの質問も寄せられ、参加者からの解決法や体験談など、活発な情報共有が行われた。
最後に増田氏より
「雇われない働き方のひとつとして起業という道があります。商工労働系、産業系の参加者も会場にいらっしゃると思いますが、男女参画セクションは創業に関しても経営に関しても知識が足りないと、どうせわかっていないというような扱いをせず、ぜひぜひ一緒に共同のゴールをもてることをお願いします。うまくいかない場合は、全国に公庫さんのネットワークがあるのですから、公庫さんに産業系と男女共同参画系の仲人になっていただければと思います。地域での女性起業の入り口の第一歩は、その地域の男女参画セクションのみなさんの取り組みです。小さな取り組みですが、起業を目指す女性が育っていき、そして海へと漕ぎ出していきます。漕ぎ出したら応援団が日本中にたくさんいますので、まずは地域から一歩です。冊子をぜひ熟読していただければと思います」
○女性就業支援全国展開事業(厚生労働省委託)
一般財団法人女性労働協会
女性就業支援バックアップナビ
http://www.joseishugyo.go.jp
○日本政策金融公庫
http://www.jfc.go.jp/
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取材・文、撮影/岡部 恵