増田通信より「ふ~ん なるほどねえ」35 真実か、救済か
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1997年頃だったと思うが、
グラハム・ハンコックの著した『神々の指紋』を読み、衝撃を受けた。
世界600万部突破のベストセラーだから、同書をご存じの方も多いだろう。
「南極大陸には、かつて文明があった。その時代、大陸はもっと北にあった」
「ピラミッドをつくったのは古代エジプト人より、はるか昔の人々だった」
といった、ビックリして腰を抜かすような新説が次々と展開されていた。
その後、時を経て『神々の指紋』に対する批判や反論も出てきたが、
発売当時、考古学者たちが声を上げることはなかったと思う。
おそらく、「取るにたらない、荒唐無稽な主張」と判じたのだろう。
何事もそうだが、荒唐無稽を侮って放置すると、大変なことになる。
批判されないのは、それが正しいことだと人は思いかねないからだ。
かくいう私も、この通説をひっくり返す主張に魅了された一人である。
なぜ、こんな、とんでもない説にひかれたのか?
ひとつには、その「とんでもなさ」が大きな理由だ。
半端な新説より、通説とは正反対の意見のほうが、痛快である。
インパクトの強い情報を、人は本当だと信じ込みやすいし、信じたがる。
もうひとつは、時代の空気が影響したのだと思う。
90年代といえば、いわゆる「失われた10年」である。
自分たちが、正しいと信じて突き進んできた経済活動が破綻し、
企業を舞台に、解雇や倒産、犯罪や自殺が相次いだ時代である。
経営者のひとりである私も、資金を失い、自信を失い、目標を失っていた。
そういうとき、人は、新たな価値観に救いを求める。
(オウム真理教が勢力を伸ばしていたのも、90年代だった)
『神々の指紋』は、
「そもそも、すべてが間違っていたのだ」という安堵感と、
「常識にしばられる必要はない」という安心感とを私に与えてくれた。
もし、あの時代、思い詰めてキレていたら、今の私はない。
だから、ハンコックに感謝している。
言い古されている理屈だが、
やはり人は、真実よりも何よりも、救済を求める存在なのかもしれない。
ハンコックの説が正しいか否か、実はどうでもいいのだと今さら気付いた。
さて、2010年代、人は何に救いを求めるのだろう?
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増田紀彦NICe代表理事が、
毎月7日と14日(7と14で714(ナイス)!)にお送りしている
【NICe会員限定レター/「ふ〜ん なるほどねえ」スモールマガジン!】
増田通信・第35号(2013/09/07発行)より、抜粋してお届けしました。
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