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NICe福島スペシャルin郡山 基調講演レポート








2013年2月11日(祝・月)、福島県郡山市でNICe福島スペシャルin郡山が開催された。ちょうど1年前の同じ2月11日、「飲んで食べて買って、福島を応援しよう!」を合言葉に開催した「NICe大宴会in福島」(詳細はこちら)。今回は、「やろうぜ福島! 売ろうぜ農産物!」を合言葉に、福島市、伊達市、喜多方市、二本松市、田村市、郡山市、須賀川市、白河市、西郷村、棚倉町、の県内をはじめ、埼玉県、千葉県、東京都、神奈川県、長野県、大阪府からNICe内外30名が結集。NICe増田代表理事が講師を務める福島県6次化創業塾の受講生のみなさんも多数参加した。プログラムは、増田代表理事の基調講演と、NICe史上最長となる3時間の頭脳交換会の2部構成。生産者と消費者が共に知恵を交換して、“つくる農業”から“つくって売る農業”への道を探った。

プログラムのうち、第1部・NICe増田紀彦代表理事による基調講演をこちらにレポート。
※「NICe福島スペシャル」全編レポートはこちら
http://www.nice.or.jp/archives/14661




■第1部 基調講演



一般社団法人起業支援ネットワークNICe 増田紀彦代表理事

テーマ
「つながり力で、“つくって売る農業”を広めよう
 〜脱デフレ・雇用拡大は、私たち自身の力で!」〜




増田の名字の語源と近代農業との関係
さらに財政投融資、TPPの真相とは?


司会のNICe福島代表・竹内氏からの紹介に少し照れながら登壇した増田氏は、おなじみの“参加者との問答スタイル”で基調講演を始めた。「増える田んぼの“増田”と言います。増田という名字は全国で92位、当て字です。元来の“ますだ”の“ます”は、どういう漢字かわかりますか?」



「利益の益」
「ひと升の升」
「そうです、一升、二升の升です。では、どういう意味かわかりますか?」

「坪?」
「惜しい。ヒントは形です。升はどういう形でしょうか?」

「四角」
「そうです。なぜかというと、四角い田んぼのほうが昔は珍しかったからです。
では、昔はどうだったのでしょう?」

「適当に、自然の地形を生かした田んぼ」
「適当ではないですが(笑)、棚田ですね。昔は棚田が当たり前でした。
ではなぜ、あんな傾斜地に田んぼがあったのでしょうか?」

「自然の法則で水は上から下へ流れるから」
「そうです。でも、傾斜地では作業効率は悪いですよね。労働生産性が低い。平らな田んぼでつくれたらどんなにいいだろう、たくさんつくれる、ということから、昔は四角い田んぼ、升の形をした水田が憧れだったわけです。その四角い升から、増える増や利益の益が当てられました。

灌漑技術は農作物の生産性を飛躍的に進化させました。農業は、工業や土木技術と密接な歴史を経て現在の形になっています。

さて、作物はつくるものですが、つくるだけで売るのは誰かにお願いしますではなく、つくって売る農業を考えてみようというのが本日の大テーマです。農家の方、消費者の方、いろいろな方に参加いただいていますので、各テーブルもバランスを考えて座っていただいています。普段農業と接していない方もいますので、大きな話しから始めます。みなさんは、財政投融資という言葉を知っていますか?」



財政投融資とは、公的資金を財源として政府が有償で投資や融資をすること。対象は、政策的な必要性があり、なおかつ民間では対応困難な長期・固定・低利の資金供給や、大規模・超長期プロジェクトだ。実施を可能とするため、低利で資金の融資、出資が行われる。戦後日本は復興を遂げ近代化していく中で、多くの公共事業にこの財政投融資が充てられてきた。財源は、財投債(国債)の発行などにより市場から調達した有償の資金と、租税という無償の資金がある。民営化する前の郵便貯金も、この財政投融資を支える大きな財源のひとつだったという。では、民営化した後の郵便貯金は、何に使われていたでしょうか? と増田氏は質問した。

「国債の購入」
「どこの国債でしょう?」
「日本の?」
「アメリカ?」

「そうです。アメリカです。郵便貯金でアメリカの国債を買っていました。。アメリカは郵便貯金の資産が欲しかったので、日本政府に民営化を強く働きかけたわけです。償還期間があって返さなくてはならないはずですが、形式的にまた契約が交わされるでしょう。何の話しをしているのかというと、アメリカは戦後世界経済を牽引して来ました。でも今や、貿易も財政も赤字でどうにかしなければならない。そこで戦略的に狙いを着けたのが、日本の豊かな市場です。これは別に悪いことではないですよ。自由ですから。アメリカはこれまでも日本の金融市場を開放させてきました。銀行、生命保険、損害保険と。今やカタカナ金融機関や保険会社がたくさんあります。さて、あと残っているものは何でしょう? どの市場でしょうか? TPPに日本を加盟させたいアメリカの狙いは何でしょうか?」

「農業」
「と思うでしょうが、そうではないでのです。アメリカが日本に市場を開けてほしい、そのために一生懸命TPPに日本が加盟するよう動いています。さて何が狙いでしょう?」

「医療」
「労働」
「農協」

「医療、労働もそのひとつです。農協。近づいてきました! 農協は何をしていますか? 共済ですね。この共済市場を日本は外国に開放していません。それと優勢が経営している簡易保険です。アメリカは共済や簡保といった未開放の保険市場、そして投資市場を日本に開けさせたいのです。

ところでTPPに絡んで、よくマスコミに出てくるのが、『日本は食料輸入大国だ』というフレーズです。その目安として使われる数字が、食料自給率。『カロリーベースで日本の食料自給率は約40%しかない。もし経済封鎖でもされたら食糧難になって大変だ』とマスコミではいいますよね。もし封鎖されたらそれどころではありませんし、そもそも、この食料自給率の計算方法がおかしいのです」


日本は食料輸入依存国? 農家は深刻な高齢化?
農業ネガティブキャンペーンの狙い&現状との相違点とは


その“おかしな”計算式のからくりについて、増田氏は解説した。たとえば、この食料自給率の計算式には、農家が自給している農産物も親族や知人に送る農産物もカウントされていない。酪農の場合は輸入飼料を使うと国産としてカウントされていない。その一方で、GDPの計算式においてはカウントされている。GDPが上昇すれば、それを前提に消費税率アップに加速しやすい。同じく、食料危機だと煽ることで得をする人たちが大勢いるというわけだ。つまり、発表する側に都合が良い計算式がそれぞれ使われ、農水省はあえて日本の食料自給率が低いとマスコミを使ってキャンペーンを行っている。だが事実は違う。このカロリーベースの食料自給率では約40%だが、自家消費分や直販分などを加え、普通の計算にしなおすと、食料自給率は一気に60~70%近くにまで上昇する。さらに金額ベースでの農産物生産額でいえば、日本は世界ランクで5位ないしは9位に位置するという(統計方法や各国の経済基準により順位は5位ないしは9位と異なる)。



さらに、もうひとつのマスコミキャンペーンについて増田氏は話を続けた。農家の平均年齢だ。「農家の平均年齢は65歳以上で、後継者問題は深刻」。これはどうか?

増田氏は、農地面積規模ごとに農業収入、農外収入、年金等収入、平均年齢を当てはめたグラフを示した。耕作面積が小規模な農家は兼業が多く、平均年齢は約67歳。だが、規模が大きく専業の場合は50代。まだまだ働き盛りだ。これもマスコミ報道とは異なる。では、なぜマスコミは日本の農業を悲観的に報道するのか。報道させているのは誰か、その真意は何か。ネガティブキャンペーンとは裏腹な現状を解説した後、日本の農業の強さともうひとつの課題について語った。




「日本の農業自体は強い産業です。本州は温帯、北は亜寒帯、南は亜熱帯に属し、4つの海流があり、海の幸、山の幸がこれだけの面積で採れるのは世界でも希です。気候の変化が富んでいて、旬、四季折々、作物が豊富です。砂漠にはありませんよね。とても恵まれています。世界的に見れば国民の所得は高く、高品質な食料を求めています。食文化も根付いているので、食べ物にお金を使うことも染み付いている国です。イチゴ、メロン、桃など、いわゆる世界的には贅沢なものですが、その生産量もすごいです。なぜできるのかというと、日本の農作業の技術レベルも、周辺産業のレベルも、インフラも発達していることも要因です。土木技術、大規模化も発展しています。秋田県の八郎潟を見たことがある人いますか? 湖ひとつつぶして地平線の向こうまで広大な水田です。そこでは10条植えという田植機を使うのですが(参加者の一部から「おおーっ」とどよめきが上がった)、お米農家さんならその大規模感がわかるでしょう。福島県内の石川町で、つくりやすいよう見事に整備された果樹園を見ました。すごいなぁと思いました。
日本の農家さんは意識も技術も高い。誇りを持っている。高品質を求める内需もある、インフラもあります。ここまでが前提です。マスコミが言うような、農家はやる気がない、年寄りばかり、補助金ばかり、将来性もない、TPPで大変だ、と、そんなヤワではありません。 ……なのですが!」

ここまで、マスコミのネガティブキャンペーンの真相を説き、日本の農業が言われるほど悲観的なものではないと語った増田氏だが、「なのですが!」と語気を強めた。楽観視できない要因とは?



工業と流通業に挟み打ちされた農業
自由が利かない状況から脱却する術は?


マスコミのネガティブキャンペーンとば別の留意すべき点、そのひとつが、今の日本の農業は農業だけで完結できない状況にあることだと増田氏は語り、その典型的な例としてフードシステムを取り上げた。フードシステムは、川下が食品流通業、川中が農業、川上が農業資材産業や資源産業という構図だ。川下と川上の間に位置する農業は、川下の食品流通業からの要求に応じて作物を提供するため、川上である農業資材産業の製品を使用することを強いられる。たとえば、規格や輸送に合わせるため、肥料や農業設備も指定され、選別機やパッケージなど仕様条件も多い。このように今の農業は工業の一部になりつつあり、工業を支える一部門になりつつあると増田氏は指摘した。さらに、1970年から2005年までのフードシステムGDP分配推移を示し解説を続けた。

農・漁業、関連製造業、関連投資、飲食店業、関連流通業の5分野のフードシステムGDP比率を見比べると、全体のGDPは伸びているにもかかわらず、農・漁業は40年前の33%から12%に激減している。それに比べて40年前は26%だった関連流通業が、2005年には5分野中のトップ。つまり、フードシステムで潤っているのは川上と川下であり、川中の農・漁業は厳しい状況ということがわかる。

次に人口はどうか。1920年から2000年、農村から都市への人口移動推移も示した。1960年に池田内閣のもとで策定された国民取得倍増計画によって国づくりが行われ、工業、流通業、飲食店業は都会へ、生産は地方でという構図が今に至っているという。農・漁業は流通業や工業に挟み打ちされ、生産地の地方はますます人口減少。ここまでの増田氏の話しから、日本の農業自体は力があるのだが、外的環境は極めて厳しいということが理解できた。



「農業は自由が利かない状況ということです。工業や流通業はほかの土地へ引っ越しすることもできますが、農地はそうはいきません。農地法も甘くありません。土地に縛られる産業です。では、どうするか。さて、ここから大変興味深い資料です。我ながら、よくぞ見つけたと思いました(笑)」


食文化の変化に伴う加工品の販売推移
小規模農家が活路を拓く、5つの提案




増田氏が満を持して映し出したのは、1990年から2009年、消費者世帯における食品購入単価・購入数量の変化だ。これは総務省の家計調査を基に農林水産省で作成されたものだという。その図から、1990年から2009年の19年の間に、日本人は何を買うようになり、何を買わなくなったのかがわかる。それぞれの理由を考えることが、講演後に予定している頭脳交換会で多いにヒントになると述べ、注目すべきは工業化と販売ルートだと念を押した。そして生産農家の所得を圧迫しているのが、複雑な流通経路と長期デフレだ。以上のことから、農家がどうあれば農家も地域社会も元気になれるのか、増田氏は5つの提案を示した。




1.生産に対する誇りと技術を堅持すべし。
2.そのうえで消費者の声を聞き取るべし。
3.加工・流通プロセスにも進出すべし。
4.農産物以外の経営資源も活用すべし。
5.地域内外の仲間と力を合わせるべし。


「技術をどんどん磨いてください。今日は消費者の人がたくさん来ています。流通業者のニーズではなく消費者のニーズを聞いてください。付加価値と言われますよね。消費者が喜ぶような加工、喜ぶような流通、これを農家さんも進出できるのではないでしょうか。農産物以外の経営資源とは、たとえば今日参加している武藤さんはなめこ農家さんで、レストランと宿泊施設もしています。自分のところのなめこをピザにしているのですが、これが美味しい。自分のところや地域にある広い敷地も資源です。持っているものを掛け合わせて考えてみてください。そして自分ひとりでは大変ですから、仲間でそういう話しを頻繁にしてほしいのです。大事なのは、同じ地域だけでなく、内・外です。特に地方はご近所と横並びに仲良くしなくちゃという風土があります。自分だけ浮いてはいけない、抜け駆けはやめようという空気です。誰かが成功してはいけないような雰囲気だとどうしても低いほうへ流れます。ご近所だとそういう問題が生じやすい。ですから、遠くの人、違う人とつながらないと発展するアイデアは出ません。今日は後半の頭脳交換会で、これをやっていきます。さて、ここから、以上の1から5で頑張っている全国の事例を紹介します!」



事例1 パートナーシップ型生産・販売
和歌山県有田市・的場秀行さんの果実事業




最初に紹介した事例は、和歌山県有田市で的場農園http://www.matoba-farm.com/index.htmlを営む的場秀行氏。有田市は有田みかんで有名なみかん名産地だが、現在は消費者の生果実離れが増え、需要も価格も下がり厳しい状況だという。的場氏は、みかん農家ではいずれやっていけなくなる、自分の息子に継がせられないと、泣く泣くみかんの樹を切り、そこに植えたのがマンゴーだった。

だが、なかなか大きく育たない、難しい。売り物になる規格サイズにならず、4年間も売らずに地中に埋めて捨てていたという。思いあまって、どうせ捨てるならばと和歌山市内のケーキ屋さんを尋ねた。「小さなマンゴーですが良かったらケーキの材料に使ってください」と。そのケーキ屋さん『ル・パティシエミキ』http://www.patissier-miki.jp/オーナーシェフ・三鬼恵寿氏は、ここ和歌山でマンゴーができるのか!と驚いたという。何よりも、小さいけれどコクも香りもある美味しさに感動。仕入れたいと申し出るが、的場氏は、タダでいいですと断った。だが三鬼氏も引き下がらなかった。『ダメです。僕は評価したのだから売ってください』と。この出会いから、的場氏の果実は三鬼氏のケーキづくりに欠かせない材料となった。三鬼氏は次々と的場農園の果実を生かして新商品を開発。そのふたりの取り組みはテレビでも報道されている。

実はそのテレビ報道があった当日、2012年9月8日に開催されたNICe全国定例会in和歌山で、三鬼氏は増田氏と公開対談し、的場氏との出会い、自らの起業の動機、そして的場氏と取り組んでいるチャレンジについて語っている(レポートhttp://www.nice.or.jp/archives/12248)。

増田氏はふたりの紹介を続け、自らのエピソードもこう語った。
「私は先日、釜石市で起業セミナーの講師をしたのですが、このネクタイをして行ったら、『やっぱり東京の人は違うわ〜』と言われたのです。でも、実はこれ、『うすい(郡山にある百貨店)』で買ったんですよ(笑)。同じ東北なのに、人はイメージで判断しますよね。お洒落なものが地元にあるはずがないと。的場さんと三鬼さんの出会いは、お互いに良かったのです。三鬼さんは元ホテルのパティシエで、転勤で和歌山にいらして独立したのですが、地元の人がお洒落なケーキを求めて大阪や神戸へ買いに行くのが悔しいと。縁あって和歌山で店をやるのだから、和歌山のものでお洒落なケーキをつくろうと独立し、取り組んでいた時に的場さんと出会った。それでさらにやる気になったのです。的場さんもそうです。自家製のジュースやジャムの販売も始めています。やる気のある人と組むことで、互いの価値が高められるのです」

プロジェクターに映し出したケーキの紹介もしながら、増田氏はさらに念を押した。
「的場さんが摘果していた青いみかんを丸ごと一個使って、三鬼さんが『運動会のかおり』というケーキも開発し、人気を博しています。『この美味しいケーキの素材はどこがつくっているの?』となると、的場さんの評判もケーキと一緒に消費者へ広がっていきます。『三鬼さんのケーキの的場さん』というふうに、セットで評価されるのです。『みかんの紀婦人』という、貴婦人の貴を紀州の紀にしたケーキも美味しい。このネーミングもお洒落でしょう? 私は何度も6次化の生徒さんへ言っていますが、ネーミングとパッケージングはとても大事です。このように、生産物を評価してくれる人、価値の高さを共有できる人と出会うことで、お互いの事業が高められる。やる気のある人とパートナーを組むことで自分も相手も成長できる。パートナーの評価が上がれば、己の評価も上がるということを、ぜひみなさんも覚えておいてください」


事例2 共感ネットワーク型生産・販売
熊本県八代市・岡さんの菜の花事業




次に紹介した事例は、熊本県八代市で7代目のい草栽培農家・岡初義氏http://www.facebook.com/hathuyoshi193?ref=ts&fref=tsの取り組みだ。熊本の八代平野は有明海の干拓地で、土壌に含まれる塩分を生かした糖度の高いトマトでも知られるが、もともとは畳の素材として使われる「い草」の産地として有名な地域。だが近年、日本人の生活様式の変化で畳の需要は減少し、中国産の低価格畳の輸入増加により、い草農家は厳しい経営状況を強いられている。現在、い草を生産しているのは、ここ熊本県と岡山県ぐらいだという。この地で頑張っているのが、NICeメンバーでもある岡初義氏だ。

「い草は畳の材料です。い草は12月の寒い時期に苗を植えて、7月の暑い季節に収穫しますから、農作業はとても大変です。みなさん、い草の田んぼを見たことありますか? まっすぐに伸びて葉っぱもないですから、ネットをかけて倒れないように育てます。収穫したらそれで終わりではありません。1本1本傷がないかをチェックし、間引いて、中村式織り機という機械で織って、それをまた検品して、畳表(たたみおもて)という加工品にします。ここまでが、い草農家さんの仕事です。これを畳屋さんに卸して、畳床、畳へりと縫い合わせられ、畳となるのです。多くの農産物のように収穫したままのカタチで出荷され、流通するのではないのです」

「へーーーーーっ」と、参加者の半数以上が農業従事者だが、驚きの声が上がった。

「こんなに大変なのに、中国におされて休耕地が増えています。でも、岡さんは一念発起して、菜の花事業を始めました。見えますか? これ、九州新幹線の高架です。ここ一面に菜の花畑をつくりました。新幹線の車内から見ると、一面菜の花の黄色の絨毯です。素敵でしょう?」

岡氏は、空き農地を地域のために活用しようと地元の有志にも呼びかけ、2006年に7軒の農家で『やつしろ菜の花部会』を結成。今では毎春、一面の菜の花畑を見ようと多くの観光客が訪れている。さらにこの菜の花は、景観作物や肥料としてだけではなく、『宝蜜(菜の花蜂蜜)』『菜の花米』『宝あぶら(菜種油)』『菜の花米』の純米酒『菜々』などの菜の花製品の加工製造に使用され、インターネットでも販売している。増田氏は、この菜種油をそのままパンに浸けて食べても美味しいと語り、前述した『消費者世帯における食品購入単価・購入数量の変化』のスライドを再び映し出した。購入単価が高く、購入数量も増加しているゾーンにぴったり当てはまる。



「ほーーーっ」と、またも会場から納得の声が。その反応に嬉しそうな顔をしながら、増田氏は岡氏の取り組みをさらに力説した。

「農家さんが加工販売する時、誰を選ぶか、どういうライフスタイルの人たちを想定しているかの、重要です。岡さんはどのように販路を広げているかというと、全国に応援団を募集しているのです。一口いくらかで応援団に参加すると、菜の花の製品が送られてくる仕組みです。菜の花製品だけの販売もしていますが、応援団には買い物をしてくださいではなく、畳文化を守っている人たちが消えそうなのだと訴えているのです。一生懸命に活動していて、応援してほしいと言われたら、応援したくなりますよね。この岡さんは、それこそ、各地を飛び回っています。今日のようなNICeの集まりにも精力的に参加していますし、ブログやSNSやFacebookでもまめに発信をしています。私もそうですが、岡さんのファンになる人は実に多いです。頑張っているな、来てくれてありがたいな、そう思わずにいられません。応援したくなるし、人にも伝えたくなります。菜の花の岡さんといえば有名なほどに精力的に活動しています。そういう応援ネットワークづくりに励むことで、菜の花のプロジェクトにも取り組んでいます。最初の事例はパートナー、岡さんはネットワークです」




※岡氏の取り組みはこちらも参考に。
2010年4月17日(土)開催「NICe八代(熊本)交流会」レポート


事例3 農業経営資源活用・転用ビジネス
北海道帯広市・井口芙美子さんの「畑でおさんぽ」




最後に紹介したのは、北海道帯広市で畑と食卓をむすぶ体験プログラムを提供している『いただきますカンパニー』http://www.itadakimasu.cc代表・井口芙美子氏の事例だ。

「井口さんのお父さんは羊飼いで、その娘さんです。ビジネスは、畑でお散歩するというもの。この写真で見えますか? かくれんぼし放題、と書いています。なんとも楽しそうですよね」

「ほーーーっ」とまたもや参加者から声が上がる。

「帯広は大農場が多いですが、その土地へ立ち入っていいのか悪いのか、広過ぎてわかりませんよね。体験農業はよくありがすが、そうではなく、その畑へ入れるだけで興味津々。さらにここで遊びましょうというビジネスをしています。井口さんは十勝の農家さんと交渉して、ここで遊ばせてくださいとしたのです。体験農業だと農家さんが指導もしないとならず手間も労力もかかりますが、勝手に遊んでくれたら手がかかりませんよね。参加者に靴カバーを装着してもらって、自由に畑に入って散歩してもらう。それだけでも感動するそうですが、散歩の後は、みんなで料理して、食事して、後片付けも一緒に行う。販売所も設けて買い物も楽しんでもらう。素敵ですよね。井口さんは自然・観光ガイドも経験していて、生産者と消費者が触れ合う機会がもっとあればとの思いと、畑の景観を楽しみながら食事ができたら、との思いからこのビジネスを始めました。地元の農家さんだけでなく、主婦の仲間とチームを組んで取り組んでいます」

2012年5月26日に北海道帯広市で開催された第14回NICe全国定例会in十勝で、この井口氏の事業を基に頭脳交換会が実施されている(レポートはこちら)。畑でおさんぽ、から展開して、「畑で運動会、どんな競技?」も話し合った。マルチの巻き取り競争、小石拾い競争、ジャガイモ玉入れなど、その時に出されたアイデアの数々を増田氏が披露すると、参加者の中でも特に農家さんが大受け。

「いろんなアイデアが浮かびますよね。農業は農作物だけが資源と決めつけてはいけないということです。農地という資源もまたサービス業の土台となれるし、みなさんが苦労する農作業もまた、都会の人からすれば楽しいお手伝い、楽しい遊びに転換できるのです」


つながり力で、”つくって売る農業”を広めよう
NICeが提唱する「つながり力」とは


農業が自分たちで売れる某業になっていくためには、自身も頑張るのはもちろんだが、誰かとつながること、異業種と組むことで新しい展開ができるのではないかと増田氏は語った。そして、NICeが提唱する“つながり力”の定義を示し、3事例の後に続けとばかりに参加者へエールを送った。

「つながり力」とは、
他者の利益を優先し、計画し、
追求することにより、自己の強みの発見と、
自己の成長機会を実現しようとする人々が、
情報や知恵を共有・循環させながら、
また様々な経営資源を交換しながら、
新たな事業を共同で創出し、
経済活動や地域社会に、人間的な喜びを取り戻していく力のこと。



「NICeは、National Incubation Centerの略称で、略してNICeです。National の逆はローカルです。福島県の中だけではなく、全国でいろんな人とつながって、異なるものとつながっていくと、これまで見逃していた資源や価値に気付くことができます。他人の目を大いに事業へ取り入れていく。その逆もあるでしょう。他者から教えてもらえますし、自分もまた相手の価値を見つけてあげられる。そうやって、異なるものとつながりながら、情報と知恵を共有して新しいビジネスを起こしていく。時代は大変ですし、アメリカも必死です。日本だけが生き残れるわけがありません。ならば、小さくても、得意技を重ね合って、手を携え合って、組んでいる実例で頑張っている人がたくさんいます。ぜひつながって、新しいビジネスを創っていきましょう。この後、大いに頭脳を交換し合って、この先に生かしてください。予定時間を20分も超えて長くなりましたが、今日の講演はさぞや面白かったのだろうと、みなさんの満足な表情から察しがつきましか(笑)。ありがとうございました」




「NICe福島スペシャル」全編・頭脳交換会レポートはこちら
http://www.nice.or.jp/archives/14661


取材・文、撮影/岡部 恵

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