一般社団法人起業支援ネットワークNICe

ユーザーログイン
最新イベント


レポート


Report
NICe協力 創業・起業人材育成事業 対談形式講演会レポート





2013年5月31日(金)、秋田県横手市で、横手市雇用創出協議会主催、一般社団法人起業支援ネットワークNICe協力による「事例に学ぶ!新事業実現セミナーin横手」が開催され、横手市内を中心に秋田県内外から24名が参加。新事業を実現した本人から生きた事例を聞き、変革への取り組み方を学び合った。

■オープニング

横手市雇用創出協議会の鈴木尚登氏があいさつし、セミナーの趣旨を伝えた。
「昨年7月には“連携ビジネス”をテーマに、今回と同じく対談形式でセミナーを開催しました。今回も対談形式で、テーマは、新しい事業をどのように成功させていくのか、です。参加者のみなさんはすでに何かしら事業をしていて、さらに何か新しい事業を始めたいと考えている方が多いと思います。何からどう着手するのか、今日はその道筋を知る機会にしていただければと思います」


▲横手市雇用創出協議会 鈴木尚登氏


対談形式講演会



【テーマ】

事例に学ぶ! 新事業実現セミナー
対談形式講演会
〜町の床屋さんはいかにして、美と健康のサービス拠点に変化したか〜

■ 一般社団法人起業支援ネットワークNICe 増田紀彦代表理事
■ POPLAヘアカット&ヘッドスパ&ギャラリー(福島県伊達市)
   オーナースタイリスト 竹内竜哉氏




増田氏は昨夏のセミナーの復習から講演会をスタートさせた。それは、「連携ビジネスのコツ、語ります。教えます」と題して、大阪府摂津市の製造請負会社がフォークリフト教習事業を立ち上げ、軌道に乗せるまでの実体験から学んだ対談形式セミナー(レポートhttp://www.nice.or.jp/archives/11367参照)。

「前回のゲスト・永山仁さんは、製造下請会社の経営者でした。なぜ、フォークリフト教習事業を始めたのか、という話をしました。参加された方、覚えていますか? 請負会社は親会社の雇用の調整弁とも言われています。リーマンショックの前までは経営状況は安泰だったと永山さんは語っていました。とにかく事故さえおこさなければと、経営者というよりも安全管理責任者だったと。それが、リーマンショック後の影響を受けて、人員をカットしなくてはならない状況に。辛いですよね、経営者にとっては。雇用を守るためには新規事業をと、フォークリフト教習事業を始めたわけですが、簡単に始められたわけではありませんでした。それでも、よく最初に考えついたと思います。その最初のキーワードは“不”です。
不のつくところにチャンスあり、です。さて、不のつく言葉、どんなものがありますか?」

増田氏は参加者に次々とマイクを向けた。
不可能、不完全、不参加、不平、不満、不安、不能、不幸、不運、不況、不快、不気味、不安定。



「いろいろありますね。、つまり、その状況をひっくり返せば喜ばれる、チャンスになるということです。永山さんの場合は、製造請負業ですから、工場内で作業する従業員は、フォークリフトの免許が必要です。専門の教習所があるのですが、永山さんの会社で利用していた教習所はサービスが良くなかった。永山さんの会社の女性社員が、予約変更のお願いの電話をしても、どっちがお客だかわからないような対応。なぜ客であるはずのこっちが平身低頭しなくてはいけないのかと、男性幹部たちが飲み会の席で不満を爆発させた。『じゃいっそ、自分たちでやったろーか』と。それが始まりでした。

リーマンショック後、このままではだめだという危機意識。どうにかせねばという不安、そして対応の悪い教習所への不満、不平。さらには、工場労働は年齢が上がると肉体的に厳しくなり、ベテランの従業員の活用方法にも悩んでいたといいます。ですが、ベテランはフォークリフトの操縦も、後輩へ教えるのも上手ですよね。教官には最適です。ただ、教習所の場所がなかった。
それを、土日はどうせ工場の駐車場は空いているだろうと、親会社へかけ合ったのです、『駐車場を使わせてくれ』と。普通は下請けが言えませんよね。さらに、駐車場で教習所なんて前例がないから認められないという労働規準監督署に何度もお願いに行って、半ば、根負けさせて、開校許可を得ました。それで始めたものの、最初は月に3人しか受講者が来ない。広報宣伝も自分たちで、試行錯誤しながら頑張って、2年目には売上げ7000万円を超える事業に育てたのです。

何もかも新たに揃えるのではなく、もともとあったものを上手に生かしています。もともとあった、教えるのが上手な先輩。もともとあった広い駐車場。もともとあったフォークリフトというように。企業に利益をもたらすものは、どうしても商品やサービスそのものだと思いがちですが、それだけではなく、それを生産するプロセス、業務の中でいつも扱っているもの、蓄積されたノウハウ、いつの間にか熟練している作業の中に利益のタネ、つまり新規事業のタネがあるのです。

そんなお話を昨年しました。その時、いち参加者として福島から来ていたのが、今日登壇してくれる竹内さんです。竹内さんは、福島県伊達市で理容室を経営している2代目です。横手の理容院はどうですか? 私の住んでいる地区では床屋さんが減ってきて、以前は2つあった組合がひとつになったりしています。一方、美容院は競争が厳しいですよね。そんな業界ですから、竹内さんも新しいことにチャレンジしています。では、さっそく本人に何をしているのか、話してもらいましょう」



竹内氏は自己紹介から始めた。
東京で6年間理容師の経験を積んだ後、2000年にUターン。母親きよさんが1980年に開業した理容店の経営に加わった。店舗は伊達市中心地から5分の住宅街にある自宅と兼用。震災前から売上げは下降気味で、挽回しようと広告出稿をしたりWebサイトを開設したり試行錯誤はしたものの改善は見られなかった。「なぜお客さんが来ないのか」。竹内氏は危機感を抱き、思い浮かぶ限りのことを紙に書き出したという。そこから見えたものは、「特徴がない、普通の理容院」だということ。

「技術はあって当たり前、特別なメニューがあるわけでも、店が綺麗なわけでもない。これでは友達に『紹介して』と頼んでも、特徴がない店を自分ならどう紹介していいかわからないよなと感じたのです。10年して初めて気付きました。何を売るかだけを考えていて、いい技術を売ればいいんだと思っていたのです。でも、いい技術はどの店も持っています。これではレッドオーシャンだなと。もっと違うところでウリをつくらないとダメだと思いました」



竹内氏は、ヘッドスパ事業の導入を決断し、店の刷新に着手した。なぜヘッドスパなのか、その理由を語った。疲労困憊していた時に友人に勧められてヘッドスパのマッサージを受け、その気持ち良さを自ら体験したのだった。と同時に、その店がもっとこうならばいいのに、という改善点もしっかり見ていた。

「ヘッドスパそのものは良かったのですが、椅子と椅子の間が狭くて、隣のお客さんと近かったのです。せっかく頭は癒されるのに、これでは安らがない。ここをクリアすればいいのだと、癒しの空間に店舗も全面リニューアルしようと。また、ヘッドスパの専門店ではなく、これまでのお客さんも大切にしつつ、ヘッドスパで新規2割増を目標にした方が、無理がないだろうと考えました」

そして2010年、自然志向をコンセプトに店舗を全面改装してリニューアルオープン。無垢の床板、珪藻土壁、高天井、電球色の照明など、落ち着いた雰囲気で統一した。エントランス1階は、陶芸暦20年・日展入選歴4回の母親きよさんの陶芸作品を陳列したギャラリー、中2階が理容スペース、2階はフリースペースの3フロア構造。理容スペースは、通常であれば椅子3台を並べられるスペースながら、あえて2台にとどめ、カーテンで仕切って個室になる造りとした。

リニューアルオープン後は好評だった。だが竹内氏は3カ月もしないうちに改善策に着手する。当初の見込み客はマッサージ系を主とした30〜40代の男性と考えていたのだが、頭皮改善&頭皮トラブルを解消したいと、カウンセリングを希望する女性客が増えていたからだ。ここから竹内氏は、今のままの知識と技術だけでは対応できないと、猛勉強を開始。東洋医学を取り入れたヘッドスパへ、新しい付加価値とサービスを提供するために、もうワンステップアップを目指した。



「僕自身、忙しくて身体を壊した時期がありました。東洋医学を学び、それを自分で実践し改善したことをお客さんにもアドバイスできる。体調が良くない不安も味わっているので、お客さんが何か不安で、何が欲しいか、わかるのです。それが理容の大筋から外れなければ、プロとして知識を積めていけば、ちゃんとお客さんに届いて、返ってくるのだと実感しています。以前はシャンプーもそんなに売れなかったのに、自分の体験を元に、『あなたには必要です』『必要ではないです』と言うので、売上げも変わりました。

頭の中で、いろいろ考えるよりも、紙に書いていくこと。自分のことだけでなく、お客さんの悩みも書き出してみるんです。そうすると、見えてきます。僕の地域は人口が減少しています。今後も減っていくでしょう。その中で。ボリュームでカバーするようなやり方は通用しません。価格競争に陥らないためにも、自分の資産をしっかり把握して、お客さんが抱えている悩みをしっかり見て、イメージすることが大切です」

  ●○●

増田氏「もともとはお母さんが創業して、竹内さんが継いだわけですが、創業33年、ごく普通の床屋さんでした。でも今は、普通じゃないです。百聞は一見にしかず、とても素敵なお店です。外観も床屋さんには見えません。お店の入り口からして、素敵な一軒家の玄関のような造りで、ご家庭に招かれたような、癒される雰囲気です」

ネットにつないで会場内にWebサイトを披露。
POPLAホームページ:http://popla.lar.jp/

「おおーっ」と参加者からも声が上がった。




竹内氏「美容関係者が見に来ると驚きます。照明が電球色なんて、業界ではありません。ニュアンスカラーの微妙なヘアカラーをしたら、色の確認がしにくいからです。椅子と椅子の間隔も広く、間を150センチとっています。3脚置けるスペースに2脚にしました。そこは選択と集中だと決断したのです。狭くして客数を得ることも、利便性での照明も、ニュアンスカラーのお客さんも捨てました。癒しを選択したのです」

増田氏「理美容業は、切る、洗う、染める、パーマ、スパ、いろいろなサービスがあります。どうしも、これもこれもと提供できるサービスを増やしがちです。が、これを求めている人を相手に勝負する!と選択し、そこに集中したのが竹内さんです。
10持っている力を5種類の仕事に分散すると、一つひとつは2になります。そうではなく、ひとつに絞って10注ぐ。それだけパワーを注げます。それが選択と集中です。

そころで、お店をリニューアルしましたよね。1500万円の融資を受けて。その決断、個人営業のお店にとっては大きな決断だったと思いますが、いかがでしたか?」

竹内氏「親には大反対されました。ですが、自信があったのです。今思えば、覚悟ですね。それまで悶々としていたのが、やっとわかったんです、うちの店にはウリがないと。ウリさえあればなんとかなると。理由が明確になると不安ではなくなるのだと実感しています」

増田氏「漠然とした不安は辛いけれど、理由がわかれば。何をすればいいのか見えてきますね。それが何年かかろうと、希望が見えて来る。向かいたい方向を目指せば、苦しさも耐えられますね」

竹内氏「はい、その通りです。今そう言われて、だから当時は不安がなかったのだと思えました。お客さんへの対応も同じことが言えます。敏感肌やアレルギーのお客さんも対応しているのですが、理由が明確だと自信を持って自分もすすめられるので、お客さんにも安心していただける。結果、カラーの単価も上がっています。新規事業に取り組んだ時も、進むべき道が見えたから、借金も不安がなかったのだと今わかりました」




増田氏「今でこそヘッドスパは一般にも知られるようになりましたが、理容師とはまた違う知識や技術が要りますよね。もう一回勉強し直しでしょう? そこに迷いはありませんでしたか?」

竹内氏「はい。ひとつ自信があったのです。みなさん、お店でシャンプーする人を指名した経験ありますか? 僕はスタイリストになってからも、指名されるくらいシャンプーがうまいのです(笑)。大きくて分厚い手が恥ずかしいと思ったこともありましたが、この大きくて肉厚の手だから気持ちが良いと。これが僕の資産だと認識したのです。もうひとつは、理美容は、他の店へ行くことを『浮気して悪いなぁ』と思われる人が多いですよね。カットやパーマならそうでしょうが、ヘッドスパは別モノ、なので、浮気しているような気が引ける感覚ではなく、気軽にいける別のモノという気持ちになれると考えました。なので、新規のお客さんに来ていただけると思ったのです」



増田氏「既存の商売の場合は、お客さんの取り合いになりますが、新しいビジネスは取り合いがない。そもそも既存の顧客がいないのですからね。もうひとつ、カットも上手なのでしょうが、その大きな手で包まれると気持ちがいいんでしょうね。実験してみましょう。誰かぜひ体験してみたい人?」



▲急遽、実演タイム。2名が体験し『気持ちいい〜!』とこの表情。お店で行う場合は、最初にカウンセリングをし、体調についてリサーチ。そしてスコープカメラで頭皮の変化状態をモニター画面に映し出し、本人にも見せながら、説明しながら行っているという。さらに、来店時だけではなく、普段から健康になって欲しいと、自分でできるシャワー方法、日常にできる健康ポイントなどもアドバイスしているそうだ


増田氏「竹内さんは、お客さんから指名されて、コンプレックスだった手のことを今では資産だと思えるようになったと語っていました。人から言われて資産に気付くのです。得意なことは自分ではなかなか自覚できません、どうしてもダメなところ、できないことは自覚しています。人から『そこがいい』と言われても、疑ってしまいます。謙虚なのではなくて、自信が持てない。ましてや、それを仕事にした経験がないと、なおさら信じない。シャンプーが褒められても、それだけでは食べていけないと、その方向へ進む勇気は持てないでしょう。でも、信じたければもっと褒められたらいいのです。褒められるためには、言い換えれば、他者から得意を見つけてもらうためには、他人とたくさん関わることです。言われることで自信につながるし、それで満足せず、褒められたことをもっと学ぶ、もっと磨く。才能を見つけて信じ、伸ばすことです。大事なのは、こっちの方向へ行けばいいのだと、信じること。それが勇気にもなり、頑張れる力になります。竹内さんの原点は、シャンプーで喜ばれたこと。そこから、お店づくりも考えたのですよね?」



竹内氏「はい。床屋さんって、髪を切る目的以外に何か用事がないと行かないですよね? 来店していただけるきっかけづくりにと、1回をギャラリーにしたのです。突発的な発想で事業を始めたのではなく、無謀に借金したわけでもありません。照明も、高天井の設計も、フロアの役割も、椅子の間隔も、自分の資産であるこの手を生かして、人に喜ばれること、健康へと、それにふさわしい空間へと、すべてにワケがあります」

増田氏「新規事業というとまったく新しいことを考えがちですが、そうではなく、今やっていることの中に、あるいは、その延長に、すぐ近くに新規事業のチャンスがあるということです。その前提になるのが、自分の強みを薄々でもわかっているかどうかということ。みなさん、自分の得意なことがわかりますか? 得意なことは、動詞で表現できます。教える。組み立てる。描く……。ひとによって才能が分かれているのです。竹内さんの手は資産ですが、もともと優しい性分で、包む、癒す、学ぶ、が得意なのでしょう。みなさんはどうですか? まだ自覚できていない場合は、それをわかる方法があります。子どもの頃に夢中になったこと。誰からも強要されないのに、ごはんを食べるのも忘れてやりたいこと、あったでしょう。その動詞を思い出して、今の仕事に共通しているかどうか、考えてみてください。思い出してみる、周りから見つけてもらう。そこを信じて、磨くことが大事です。竹内さんもそこを信じて、磨いて、挑みました。大きな借金をすることが辛いのではなく、展望を持てないこと、方向性がないまま借金したら、不安だし苦しい。でも、これだ!と思えたら、頑張れるのではないでしょうか」



ここで増田氏は、事業の成長と発展を継続するためには、内的要因と外的要因のチェックが重要であり、そのチェック方法に付いて、配布したシートの活用法と各項目を紹介した。

内的要因から市場対応力を評価するには、価値、希少性、模範の困難性、活用できる組織体勢の4項目。それらの有無で、優位性を4段階で評価できるという。また、外的要因から評価するには、6つの脅威を意識することが重要と述べた。新規参入、買い手の購入力低下、売り手の供給力低下、代替事業の登場、競合の追い上げ、法や規制の変化だ。具体例を挙げ、これまでどのような事業が衰退していったか、その要因と、もともとその事業の真のニーズはどこにあったのか、参加者との問答で披露していった。



「内側と外側、シート使って問題点を書き出してみてください。たいていの事業が厳しい状況です。厳しい、ヤバい、そう思ったら変えなくてはいけません。ヤバいと思っても、経営者も人ですから、ついつい神頼みしてしまう。苦しいのは今だけだと思いたい。しかしそうではなく、ちゃんと認めないといけません。事業というのは少しずつ変えていくのです。3段階ずつくらいの段階的に、変化を追求することをしてください」

どのような段階でどのような取り組みを追求することで、事業の成長と発展を続けているか。増田氏は事例を紹介した。そのうえで、竹内氏の事業が現在どの段階にあるのかを解説。そして最後にこのメッセージで締めくくった。



「経営者がやるべきは、変え続けていくこと、挑戦していくことです。成功の帰着点はビジネスにはありません。うまくいっていてもそれは時間の問題で、次のことに取り組み続けなければなりません。大変です、だから面白いのです。業とは、続けていくこと。10年間低迷したけれど、チャレンジし、チェンジした竹内さん。けれど、これからも!です。どうぞみなさんも、今日の話を参考にして挑戦してみてください。現在から将来にかけて厳しいことをを認めて、ぜひ変革にチャレンジしてほしいと思います」





取材・文、撮影/岡部 恵

プライバシーポリシー
お問い合わせ