第5回 NICe福島 頭脳交換会レポート
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2013年4月23日(火)、第5回NICe福島・頭脳交換会が福島市のコラッセふくしまで開催された。頭脳交換会とはひとりのプレゼンテーターが事業プランや課題を発表し、参加者が全員で「自分だったら」という当事者意識で建設的なアイデアを出し合い、頭脳と頭脳のバトルで解決策を探っていくNICe流の勉強会。今回のプレゼンテーターは、福島県石川町で『農園Cafeやい子ばぁちゃん』(
HPはこちら)を経営する大平美代子さん。福島県内を中心に東京都、神奈川県から集った10名が、「交通の便が良い場所とはいえない立地で、安定した集客を得るには?」をテーマに知恵を出し合った。
この日、NICe増田代表を始めとする一部の参加者は、頭脳交換会の前に『農園Cafeやい子ばぁちゃん』を訪問。そのロケーションやサービスを実体験してから、頭脳交換会に臨んだ。
増田代表らは郡山駅で、
なめこ農家レストラン&オーベルジュ『季の子工房』のオーナーシェフ・武藤洋平氏と合流し、車で『農園Cafeやい子ばぁちゃん』へ。
郡山駅から車で約50分、福島県の中通り南部・阿武隈高地の西側に位置する石川町へ。ここは日本三大鉱物産地のひとつにも数えられており、和泉式部の生誕伝説や温泉地もある歴史ある街。のどかな里山の風景が広がる国道274号線で『農園Cafeやい子ばぁちゃん』の看板を見つけ、指示通りに左折。里山の中にいくつかの家屋が点在するが、どれが目的の建物かわからないまま300mほど進む。すると、まるで小学校のような大きな建物が見えた。そこが、お目当ての『農園Cafeやい子ばぁちゃん』がある大平家の母屋だった。
▲築100年の古民家。この2階を改装し、2010年11月に『農園Cafeやい子ばぁちゃん』をオープンしたオーナーシェフの大平美代子さん
▲店名にもなっているやい子ばぁちゃん。美代子さんのお姑さん
▲母屋の裏には樹齢200年の立派なブナの木がそびえる
▲視界すべてが大平家の敷地。田んぼ、畑、ビニールハウスでの野菜づくりのほか、
養鶏、ブランド牛である『石川牛』の畜産もしている。
農園カフェで提供する料理の食材のほとんどが、ここでつくられる
▲人気メニューは、「旬なお食事コース」。これで2000円。
農園カフェ=和食のイメージを覆してデコレーションもお洒落。
その一方で、手づくりの漬け物各種も
▲完熟フルーツトマトを使ったオリジナルのソースやジャム、
米粉シフォンケーキやマドレーヌなども販売
▲頭脳交換会場の福島市へ向かう途中、料理研究家の柳沼美千子さんに案内いただき、
鏡石町のイチゴ農家を訪問。
市場を介さない販売方法で、その美味しさから直に購入しに訪れる客が途絶えないという
■頭脳交換会
頭脳交換会の開催会場は、石川町から車で約2時間強の福島市。都道府県面積順位で第3位を誇る福島県の広さを体感しつつ、夕刻会場へ到着。NICeイベント初参加3名を含む10名でまずはアイスブレイクが行われた。NICe福島代表の
竹内竜哉氏からのお題で、「最近どうしても欲しくて購入したもの」を含めた自己紹介。
ひととおり紹介が終わったところで、「今日はお世辞にもいいとは言えない立地での集客がテーマです。ウォンツとニーズがなければ、人は訪れません。その意識を確認するためのお題でした」と竹内氏が説明。大平氏を紹介し、さっそくプレゼンテーションが始まった。
●プレゼンテーション
プレゼンター:農園Cafeやい子ばぁちゃん 代表・大平美代子氏
テーマ:「お世辞にも便の良い場所とはいえない立地で、安定した集客を得るには?」
農園Cafeやい子ばぁちゃんHP:
http://farm-yaiko.jimdo.com/
大平氏は、農園Cafeを始めたいきさつからプレゼンをスタート。構想し始めたのは2年半くらい前、当時は勤めをしながら家業の農業と畜産業を手伝っていたが、子どもたちが成人して家を出て、これから家を守り、夫と姑の3人家族で暮らす将来を考えたという。自分ができること・したいこと、姑と一緒にできることを考え、管理栄養士の資格を生かして、農家カフェをやりたいと思うようになった。夫も賛成してくれたことも決意を後押し。母と一緒にやりたい、母の生きがいづくりにもなればとの思いから、店名に母の実名『やい子』を入れたと語った。最初は加工品を直売所へ出すことから始め、徐々に母屋を改装し、震災前年の2010年11月、母屋2階に農園Cafeをオープンした。
場所は、東北新幹線の郡山駅から約40km、新白河駅から32km、小湊線の盤城白川駅から5km。決して交通の便がいいとは言えない立地に加え、オープン直後の震災の影響もあり、来客数は伸び悩んだという。それでも徐々に広まり、夏から秋は、野菜の収穫時期も重なるためドライブを兼ねた観光客も増える。だが、冬は道路が凍結し降雪もあるため、客数は激減する。まだまだ課題は多いと語った。
農業・畜産業・加工品製造もしつつのため、カフェは現在土日のみの営業だ。無農薬のお米、種から育てる採りたての野菜、生みたての卵など、自分たちで育てつくる旬の食材をフルにメニューに生かしている。さらに食べる・見るだけでなく、トマトもぎ、パセリ摘みなどの体験も提供し、少しでも農業の良さを感じてほしいと頑張っているところだ。
ひとりで頑張るよりも、一緒にやることで姑にも喜んでもらえたら……、その願いどおり、やい子ばぁちゃんはカフェで提供する野菜づくりに精を出し、お客との会話も楽しんでいる様子とのこと。農業体験や民泊も受け入れているが、将来的にはもっと農業の良さ・石川町の良さを体験してもらえるよう、宿泊サービスにも着手したい考え。サービス内容と集客に関するアドバイスを求めるとして、プレゼンを締めくくった。
●質疑応答
Q:自分も農家レストランをしているので共感できる部分が多い。客数を増やしたいとのことだが、農業をやりながらの大変さは自分も実感している。どの程度の客数増に対応できるのか? 現在手伝ってもらっている地元の人に毎日来てもらうようなレベルか、それとも新たに雇用して対応するようなレベルか。対応可能な客数は?
大平氏:土日ならお客さんが来やすいかと考え、基本は土日営業にしています。ですが、平日希望の方もいるので対応しています。自分は農業もやりたい、どっちつかずで中途半端な状態です。
Q:現在のスタッフ数で、1日に何人ぐらい対応可能か?
大平氏:マックスは20人くらいです。
Q:自分は映像カメラマンで、取材する立場でいろんな古民家を見ている。現在はどういう客層が多く、今後はどういう層を希望しているか?
大平氏:現在は50〜70代の女性客が多いです。お料理も喜んでいただけますが、カフェの空間がどこか懐かしい、癒されると言ってくださいます。食にこだわる女性がうちの良さをわかってくださると思いますが、若い層にも来ていただきたいと考えています。
●第1ラウンド
資源を洗い出し、その中から一番のサービスは何かを考えるためのワーク。
2グループに分かれ、GOOD・BAD・あるもの・ないもの・要るもの・不要なものの6カテゴリーに分類していった。10分間のディスカッション後に発表されたものは以下。
GOODなもの
・自然に囲まれている
・四季の変化を楽しめる
・敷地の広さ(約20000平米)
・農業、畜産の体験ができる
・囲炉裏のある古民家
・昔からあるものが多く残されている
・子どもの遊び場にもいい環境
・ホタル
・牛
・見事なブナの木
・パセリ
・星
・温泉が近い
・カフェの梁が素晴らしい
・地産池消
・畑と厨房が近い
・郡山からの来客が多い、近隣からも客数が増えてきている
BADなもの
・交通の便
・石川町そのものイメージが湧かない
・ほかの古民家との違いがわからない
・除染などの制限がある
・カフェの2階は小さな子どもにはやや危険(フリーリングの床、階段との仕切り、ストーブ)
あるもの
・古民家
・建物の天井高
・ビニールハウス
・薪で沸かすお風呂(内風呂と外風呂)
・やい子ばぁちゃん
・管理栄養士
・野菜
・食事
・加工品
・グリーンツーリズム
・ピザ窯
・猫
ないもの
・木登り体験
・薪割り体験・風呂炊き体験
・牛の餌やり体験
・若者
・案内板(敷地内に入っても、建物が点在していて、どれが母屋かわからない)
必要と思うもの
・各種体験
・カフェまでの案内板
・敷地内の案内マップ
不要と思うもの
・スギ(花粉症には辛い&見事なブナの木と風景がかぶっている)
●第2ラウンド
新しいサービスまたは既存のサービスの強化を考える。
10分間グループディスカッションが行われ、発表された案は以下。
【Aチーム】
・最終ゴールは集客というテーマだったが、客数増を追求していくと限界が早く来てしまうので、客単価を上げる、満足度を上げるという考え方で話し合った。
・今日実際に食事をいただいたが、いきなり食事が提供されたわけではなかった。まず古民家周辺を案内してもらい、ハウス内でパセリを摘んで食べたり、牛を見たりしてから、食事をいただいた。
料理の美味しさはもちろんだが、食する前に、その食材が育っている場を見て、触れて、体験してから味わったのがとても良かったと感じた。この流れは、食材に対する親和性が高まるので、実際の食材がある場を見せてから食事を提供する仕組みを定着させたらいいと思う。
・食事の最後に果物とスイーツがデザートで出された。そのジャムも、米粉のシフォンケーキも、加工品として販売していたので、参加した全員が帰りに購入した。これは、自然と試食の役目を果たしている。体験・食事・加工品の物販という必勝パターンになっていると思う。客単価を上げるコアな作戦だが、継続して実践したらいいと思う。
・さらに客単価を上げるには、体験サービスを薦めたい。
牛と散歩、農業体験など、体験を入れていく。それは宿泊に限らず、日帰りでもすぐできること。宿泊ならば満天の星なども体験コースに加えられる。さまざまな資源があるので、食に関心が高い50〜70代の女性グループに、カップルに、ファミリー層になど、同じ資源の組み合わせ方を変えることで、それぞれの層に合わせたコースもいろいろつくれる。
・Aチームには間もなく福島市でカフェ『EzoCafe』をオープンする小林寛明さんが参加している。彼の店をサテライトカフェとして協力してもらうのはどうか。メニューなどに加工品のジャムやトマトソースを加えてもらい、『これ、美味しいね』となれば、『本格的に楽しみたいなら石川町へどうぞ』と案内できる。新規開店となるとメニュー開発も大変なので、既存の食材やメニューを提供してもらこと、福島と北海道のいいものを提供するカフェというコンセプトにも合い、双方が支援し合える。そういうネットワーク型で広めるのもありと思う。
【Bチーム】
・リピーターを増やし、既存客からさらに広げる作戦を考えた。
・ひとつは、“田舎のばぁちゃんち”をコンセプトにした作戦。実家に遊びに帰ってきた子どもや孫や親戚の子どもたちは何がしたいか、それをどうもてなすか。1階の畳の大広間は、いかにも田舎に帰ったら大の字になって寝ころびたい!と思わせる和の空間なので、ここを開放する。2階には未開放のまんが部屋があるとのこと。秘密基地のような楽しみを提供できるので、若いパパ・ママ世代には受ける。
また、「いらっしゃいませ」の代わりに、福島弁で「よぐがえってきたない」。帰る時は「まだがえってきなよ」と言う。
・もうひとつは、今のお客さんが50〜70代の女性客が多いので、そのお客さんを喜ばせる作戦。
50~70代ということは、孫がいる世代でもある。次回は子ども夫婦と孫を連れて来たいと思わせる工夫をする。たとえば、大きな案内板や園内マップを作成し、ここには何がいる、何ができる、というように、孫が遊べることをイメージングできるように示す。また、大広間にベビーベッドひとつ置いておくだけでも演出&イメージングできる。
・2階のカフェは和のお洒落な雰囲気なので、さらにお洒落度を強化する。それにより、1階の大広間との利用差別化もでき、誰と一緒に来るかで食事する場所を選べるようにする。
・Bチームには映像カメラマンがいるので、四季折々の映像を撮影してもらう。それを2階のカフェで上映しておく。カフェは土壁そのものも雰囲気があるので、モニターではなく壁自体に映し出して見せる。次回はこの季節に来たい!と思わせる。
●プレゼンテーター大平氏の感想
「案内板は頑張ります!マップもつくりたいと思いました。恋人、ファミリーなど、層に分けた仕掛けも面白いと思いました。自分たちでは考えつきませんでしたが、大広間を開けておくだけでも違うのだなとわかりました。やい子ばぁちゃんは話し好きなので、そこを膨らませるのもいいなと思います。自分はこうだと宣伝するのが苦手というか、看板ひとつ出すだけでも恥ずかしいような気持ちでいました。見てもらって、食べてもらうのが一番かなと思ってやってきました。が、こちらが伝えたいことは、ちゃんと伝えなければ、伝わらないですね。いただいたアイデアの実践を考えてみたいと思います。今日はありがとうございました!」
撮影/
前田政昭氏
取材・文、撮影/岡部 恵