書を求めて、町に出よう!

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「増田紀彦の視点 どうする?日本経済」
第151回 書を求めて、町に出よう!
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【薄れつつある秋の価値】
長雨も収まり、秋は着実に深まっている。
とはいえ、読書の季節の到来……、
などと感じる人が、今どきどれほどいるのだろう。
60代後半の私でさえ、物心ついた頃には家庭にテレビがあり、
今ではPCやスマホを開けば、1年じゅう娯楽が待ち受けている。
娯楽だけじゃない。勉強だって調べ物だって何だってできる。
そもそも「秋の夜は長い」と感じる人自体、少数派かもしれない。
屋内外問わず十分すぎるほどの照明があるし、
室内には空調、外出時にはヒートテック。肌寒さもどこ吹く風。
要は体感としての夜長を感知しづらい時代になっている。
だいたい「秋だから読書をする」という決めつけがすでに馴染まない。
本を読みたいなら、読みたいときにいくらでも読めばいい。
そういう意味では、「食欲の秋」や「芸術の秋」「スポーツの秋」なども、
昔に比べると説明がしにくくなった。
つまり他の季節に対する秋の優位性が薄れ始めている。
【あえて読書に励むことで、秋を体感する】
考えてみれば、私自身、秋だから本を読もうとはとくに思わない。
「読書の秋」は、昭和ならではの掛け声だったのかもしれない。
ところが、こうも季節感が希薄になると、
むしろ「読書の秋」というフレーズに捨て難さを感じてしまう。
ならばあえて、ほかの季節にもまして本を読むことにしよう。
そう言い聞かせてみると、
これはこれで、季節を味わう打って付けの方法であることに気付く。
宵の口、本を開き雑音を遮断すれば、
庭の虫たちの協奏が自然と耳に届くだろう。
窓を少し開ければ、夏の風とは違う、
乾いてひんやりした空気が本のページを掠めるだろう。
本の傍らに温かい飲み物を用意すれば、
湯気に混じる香りが、暑かった季節の終焉を知らせてくれるだろう。
目を本から放して夜空を見上げれば、
冴え冴えした月光に思索の旅の続きを促されるだろう。
そして一区切りついたところで置き時計に目をやれば、
まだまだ本を読める時間が残っていると気づき、夜長を実感するだろう。
読書で秋を感じる。こういう手もある。
【普段は読まないジャンルを探し求める楽しさ】
折角の夜長。では、どんな本を読もうか?
実用書やビジネス書は避けたい。
私の場合、それらから得た情報を咀嚼して発信するために読むので、
ひどく集中してあっと言う間に時間が過ぎ去り、
ちっとも夜長を感じられない事態に陥ることは必至である。
推理小説や歴史小説も昂奮し過ぎるし、
学術書のたぐいも論理思考がオーバーヒートするのでやめておきたい。
じゃあ、何を読む?
ふだん読まない本を、少しずつでいいから読んでみようか。
恋愛小説? いやいやいや、さすがにそれは苦手だ。
などと、手を着けるジャンルを模索すること自体、すでに楽しい。
とはいえ、知らないジャンルの本の中から、
「読んでみたい」と手ぐすねを引く一冊に到達するのは容易ではない。
いや、一昔前は比較的容易だったが、それが年々難しくなっている。
【消え行く「知」のワンダーランド=書店】
ひとえに書店が減っているからだ。
大型の書店なら、
文芸、ビジネス、社会・政治・経済、人文・思想、自然科学、
医学・健康、コンピュータ・IT(最近だとAIも)、趣味・実用、
芸術・デザイン、語学・辞典、資格試験、児童書、コミック・ライトノベル、
地図・旅行、新書、文庫、雑誌……。
おおよそこんな分類にしたがって、知識と情報が犇き合っている。
この中から、ふだん足を運ばないコーナーを選び、書棚を見回してみる。
そこまで手間をかけずとも、目当てのコーナーから横へ横へと移動するだけでも、
「予期せぬ一冊」に出合える可能性は十分ある。
個人経営の小さな書店でも、スルーしているコーナーはあるだろう。
丹念に棚を眺めていけば、「どんなことが書いてある本なんだろう」、
という好奇心を刺激する書籍や雑誌に必ず遭遇できる。
書店は規模の大小を問わず、知識と情報と装丁美のワンダーランドだ。
なのに、次々と消えている。
代替手段として、図書館に通う方法もあるが、
借りてきた本を風呂で読んだり、傍線を引いたりすることは許されない。
ネットショップは論外。
ふだん手に取らない本に出合いたいのだから、
「あなたにオススメの一冊」とか言われても、かえって迷惑だ。
【全国の約3割の市町村が「無書店」地帯】
書店数のピークは1998年で、全国に約2万4200店あった。
それが2026年3月末には9993店にまで減少。
ついに全国の書店数が1万店を下回るところまで来てしまった。
もちろん新規開業もあるが、閉店数が新規開店数の5倍に達していて、
減少に歯止めをかけることはできない。
また、出版文化産業振興財団の調べによれば、
2026年3月時点で書店が一つもない自治体は510にのぼるという。
割合に置き換えると、全国の市区町村の3割近くに書店がないことになる。
知の探検に胸を躍らせる機会の減少、もしくは消失。
この問題はやはり放置できない。
【醤油までプロデュースする福島県・岩瀬書店の挑戦】
もっともすべての書店が青息吐息というわけでもない。
2025年度の主要書店304社に対する調査によれば、
売上高合計は前年度比1.6%増、利益合計も大幅に増加している。
言わば大手とそれ以外の格差が拡大している状況だ。
では、中小書店には、打つ手がないのだろうか。
決してそんなことはない。
かれこれ7年ほど前になるが、
当時、福島県の地域産業6次化統括コーディネイターを務めていた私は、
関係者会議の席で、福島県内各地に店舗を持つ岩瀬書店の担当者と出会った。
「6次化」によって生み出される製品は、主に食品である。
その販路拡大をテーマにした会議に、「なぜ、本屋さんが?」と首を捻った。
岩瀬書店は観光客が多く訪れる会津若松駅前に店舗を有している。
この「立地の特徴」を経営資源と捉え、
食品を始めとした、会津地方の土産品を取り扱い始めていたのだった。
人口が減少する地方都市において、書籍や雑誌、文具だけでは、
容易に利益を生み出すことはできないが、
観光客という、外からやってくる「財布」に目を着ければ商機は広がる。
岩瀬書店はさらに複合化を押し進め、2024年に福島市内の店舗を改装して、
書店内にローカルフードセレクトショップ「AME&KAZE」をオープンさせた。
それどころか、今では岩瀬書店自身がプロデュースした、
自社ブランドの「木桶仕込み醤油」を販売するまでになった。
【成功事例の掛け合わせで、書店の集客力を向上させる】
地方の書店にも、生き残る方途はあるということだ。
地域食品を扱う方法以外にも、各地で様々な挑戦が行われている。
2023年に開業した「Karuizawa Commongrounds」。
中軽井沢にあるこの施設は、書店だけでなく、カフェ、飲食店、ワインショップ、
惣菜店、コワーキングスペース、インターナショナルスクールなどが集結。
「働く・学ぶ・遊ぶ・商う」という地域生活全体をフォローしていて、
ここを訪ねることによるタイム・パフォーマンスはすこぶる高い。
広大な土地を確保しやすい地方だからこそ、実現できるモデルだ。
地方ではないが、東京の下北沢にある「本屋 B&B」は私のお気に入り。
小規模店だが、専門店ではなく、「予期せぬ一冊」に出合えるよう、
文学、アート、デザイン、ビジネス、人文・自然科学など幅広いジャンルから、
丁寧に選ばれた新刊が揃えられているし、
ドリンクを楽しみながら本を選べる点も魅力。
また、著者や編集者、クリエイターを招いたトークイベントが頻繁に開催されていて、
本好きが集うコミュニティの場としても人気を集めている。
例えば、福島の岩瀬書店と「本屋 B&B」の取り組みを掛け合わせると、
書店の一角をカフェ&コミュニケーションスペースとして、
そこに生産者や食品メーカー、料理人、また料理本の編集者らを招き、
トークイベントや交流イベントを開催することができる。
そうすることで、顧客満足と地域連携と売上のすべてを向上させることも可能だ。
【人の能力を育てる書籍と、人のつながりを生む書店を!】
書店を核とした施設は、地方の商業や産業を支える拠点となり、
地域経済を活性化させる契機になりうる。
しかし、書店と書籍市場の復興による効果は、それだけにとどまらないだろう。
長期的には、本を読もうとする人、読める人、読んで考えることができる人、
読んだことを活かそうとする人を育てる原動力になる。
短期的な売上や雇用数の測定と違い、
書店がなかったら生まれなかったであろう、
学びや発見や出会いの効果を金額に換算するのは難しい。
だが、多様な知識や他者との出合いを支える場として機能するなら、
書店は間違いなく、地方か中央かを問わず、
日本人全体の能力の向上と精神の豊かさを支えるインフラになるはずだ。
どれだけオンラインが普及し、AIが重宝されようとも、そこは影響されない。
かつて詩人の寺山修司は、
「書を捨てよ、町へ出よう」と訴えた。
今なら、こう言い直してくれるのではないか。
「書を求めて、町に出よう」と。
私からも一言。
「求めるべき書が、町にある社会を再構築しよう」。
さて、まずは、この夜長に何を読むかを決めないと。実に楽しみだ。
<一般社団法人起業支援ネットワークNICe 代表理事 増田紀彦>
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「つながり力で起業・新規事業!」
メールマガジンVol.264
(2026.10.21配信)より抜粋して転載しました。
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